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「海のカフェ」私は、ここで働いている。
知る人ぞ知るカフェで、典型的な人しか居ないカフェだ。
だが、私はごく普通の人である。
なのでここでは、珍しい人扱いされているのだ。
その日も、私はカフェで働いていた。
外は雨で、しとしとと降る雨音が心地よい。
「今日はお客様来ないのかな…。」
雨という影響なのか、一人も来なかった。
少し落ち込んでいた時、チリンとウィンドチャイムの音が鳴った。
「あー…濡れちゃったわ。」
茶髪で少しくせっ毛な男の人。胸元には、おしゃれな猫の形をした金縁のブローチが付けられていた。
たれ目で優しそうな顔付きで猫っぽかった。
「いらっしゃいませ。」
相変わらずの言葉を述べる。
何回言ったか忘れたくらいに当たり前になっていた。
「初めて来たけど…いいわねここ。」
これは好印象だ。
ほぼ90%また来てもらえるだろう。
茶髪の人は、私の目の前に座った。
話していくうちに、この人はオネエだと確信が持てた。
オネエといっても優しいタイプなので、仲良くなれそうな感覚がした。
「タオルありがとね。傘忘れちゃって…。」
先程この人にタオルを渡し、濡れた体を拭いてもらったところだ。
「大丈夫ですか?体冷えてないですか?」
「大丈夫よ〜!ほら、平気!」
笑顔を見せてくれた。
可愛らしい笑顔だった。
あったかい飲み物を提供しようと思った時、急にその人は立ち上がった。
「止みそうか少し見てくるわね。大丈夫よお外には出ないから」
そして、歩き始めたその時。
「ひゃぁぁっ!?」
盛大に転けた。
「いったぁ…わたし、またドジしちゃったわ…あぁ、ケガも…やっちゃったわね…。」
そう言い、血が出ていない方の膝をさする。
ドジっ子オネエは、出会ったことがないので新たな扉を開きそうな予感がしたが、ギリギリ開く前に閉じることが出来た。
「大丈夫ですか?これ、絆創膏です。」
ポケットにいつもある絆創膏を渡すと、ありがとね。と微笑んだ。
微笑む顔も可愛い。
「わたしずっとドジしちゃって…。もう立派な大人なのに。」
絆創膏を貼りながら、独り言のように呟いた。
声色が寂しそうな感じで、見ているこちらも少し寂しくなった。
何か、励ませるような料理はないかと悩んでいると、あることを思いついた。
ほかほかと白い湯気が出る。
私は、今カプチーノを作っていた。
自分でも言うのはあれだが、ラテアートが得意で、キャラの絵などが描けた。
今日描くのは、猫の絵。
初めて描くので、緊張したが、過去一上手くできたと思う。
そして、手作りのレモンキャンディを添えた。
「お待たせしました」
「あら、ありがと。わぁ!猫ちゃんじゃない!可愛い〜!ラテアートよね!」
すごく喜んでくれた。
お客様が喜んでくれると、こちらも嬉しくなるのが店員なのだろうか。
今の私も、幸せで心がいっぱいだった。
「あちっ。」
猫っぽオネエさん(自分が付けたあだ名)は、猫舌らしくカプチーノを飲むのに苦労していた。
それすらも可愛らしく思えてきた。
「ふふ、それ飲んであったかくして、元気だしてくださいね」
癒されるように、優しい声で言ってみた。
すると、猫っぽオネエさんは目を少しうるうるさせて、飲んでいたカプチーノの手を止めた。
「…ありがとうね。えっと…」
どうやら自分の名前を聞きたそうにしていたので、教えることにした。
「雫です。」
「あ、雫ちゃんね。わたしレイネっていうの。鈴に音って書いて鈴音」
可愛らしい名前の人だった。
先程勝手に付けたあだ名が恥ずかしい。
その後は、名前をたくさん読んで他愛もない雑談をした。
鈴音さんが自分の名前を言う時特別感を感じたのは、心の中の秘密にした。
こんな普通の自分が『恋』をしてしまったなんて認めたくなかったからだ。
鈴音さんとの雑談をする時間は早く進むように感じた。
「じゃあ…今日はこれで。」
そう言い立ち上がろうとした。
また転ぶだろうと思い、どんな言葉をかけようか焦っていると、鈴音さんがふふっと微笑んだ。
「大丈夫よぉ。今日のドジはこれで終わり!」
その声が、可愛くて、可愛くて堪らなかった。
そして、この気持ち…『恋』を認めてしまった。
こんなあっさり認めてしまうなんて、案外私はちょろいのかもしれない。
そして、この思いをどう伝えようかでまた焦ると、鈴音さんが私の元に近づいてきた。
「どうしたの?雫ちゃん。わたしに言いたいことがあるのでしょう?」
先程、転んだ姿からは想像できない聡明な顔をしていた。
ガラス細工のような瞳に見つめられると、どんな隠していた思いも吐いてしまいそうだった。
「え、えっと…私、鈴音さんのこと好きになってしまいました」
出てきたのは情けない言葉だった。
そんな言葉でも、鈴音さんは優しく受け止めてくれた。
「あら、わたしのこと好きになったの?ふふっ嬉しいわ〜。」
返事はくれずただ可愛らしく微笑むだけだった。
返事が欲しいという視線を彼に向けると、気づいてくれたようで人差し指を私の口元に寄せて『しーっ』のポーズをする。
「わたしも貴方のこと、好きになっちゃった。でもね、一度付き合ったらもう貴方のこと離さないわよ?いいの?」
そう、耳元で甘く囁いた。
その囁きだけで、貴方に沼りそうになる。
いや、もう沼っている。
「いいですっ。鈴音さん。ずっと一緒に居たいです」
「一生?」
「一生です!」
からかわれる時だけ、何を考えているか分からなくなる。
この人は、特にそうだ。
私の脳を溶けさせようとしている。
「ふふっ、ありがと。雫ちゃん。大好きよ」
「私も好きです…なんちゃって」
ずっとかわらわれてばかりはイヤで、こちらも精一杯からかい返すことにした。
「へ!?…なんちゃって?どういうことよ〜!」
「大丈夫ですよ。私も大好きです。」
「もー!雫ちゃんのおバカ〜!」
可愛らしく見えるところが魅力的だ。
その可愛らしい中に少しの聡明さがあるのがギャップ。
まるで…甘そうに見えて苦いカプチーノのように。
そんな貴方に私は初めての恋をした。
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