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放課後の教室は、だんだん静かになっていく。
みんな部活に行ったり、帰ったりしていて、残っている人はほとんどいない。
俺はというと、特に理由もなく席に座ったままぼーっとしていた。
窓の外を見ると、夕方の光が校庭をオレンジ色に染めている。
そのとき、ふと遠くから音が聞こえてきた。
ドン、ドン、ドン。
規則的なボールの音。
……体育館だ。
そういえば、相川はバスケ部だった。
その名前を思い出した瞬間、胸の奥が少しだけざわつく。
「俺、お前のこと好きなんだよね」
あの言葉がまた頭に浮かぶ。
授業中も普通に話しかけてきて、あんな風に笑って。
なのに、あれが冗談じゃないって言われた。
……なんなんだよ、ほんと。
気づいたら、俺は立ち上がっていた。
別に、見に行くつもりなんてなかった。
ただ、音が気になっただけで。
そう思いながら廊下を歩く。
体育館に近づくにつれて、ボールの音と、靴が床を擦る音が大きくなる。
そっと体育館の入り口から中をのぞいた。
バスケ部が練習している。
コートの中を走る選手たち。
その中に、すぐ相川を見つけた。
黒髪のマッシュが揺れて、素早くコートを走っている。
ボールを受け取ると、そのままゴールに向かってドリブルした。
ドン、ドン、ドン。
軽く跳んで、そのままシュートを決める。
ネットが揺れて、ボールが床に落ちる音がした。
……なんか、すごい。
教室で見る相川とは、少し違う。
いつもは優しく笑っているのに、今は真剣な顔をしていた。
動きも速くて、迷いがない。
思わず見入ってしまう。
そのときだった。
相川がふと顔を上げた。
目が合う。
一瞬、時間が止まったみたいだった。
「あ」
思わず声が出る。
相川は少し驚いた顔をしてから、すぐに小さく笑った。
練習が終わったあと、相川はタオルを肩にかけたまま体育館の外に出てきた。
「湊?」
名前を呼ばれて、びくっとする。
「……なにしてんの」
「いや、別に」
「見てた?」
少しからかうような声だった。
「……ちょっと」
正直に答えると、相川はふーん、と小さくうなずいた。
「来るなら声かければよかったのに」
「邪魔かなって」
そう言うと、相川は少しだけ笑った。
「湊なら邪魔じゃない」
さらっと言われて、言葉に詰まる。
体育館の中からは、まだボールの音が聞こえていた。
相川はペットボトルの水を飲んでから、こっちを見た。
「どうだった?」
「なにが」
「俺」
一瞬、意味が分からなくて固まる。
「……普通」
そう答えると、相川は笑った。
「嘘」
「嘘じゃない」
「顔に出てる」
またそれだ。
少し悔しくて目をそらす。
すると、相川が少し声を落とした。
「湊が見てるならさ」
「え?」
「もっと頑張ったのに」
思わず顔を上げる。
相川は少し照れたみたいに笑っていた。
「好きなやつにカッコいいとこ見せたいじゃん」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がドクンと鳴った。
「……なんでそんな普通に言うの」
「だって本当だし」
相川は肩をすくめる。
「俺、湊のこと好きだし」
まただ。
また、さらっと言う。
それなのに、聞くたびに心臓がうるさくなる。
帰り道、二人で並んで歩いていた。
夕方の空はもう少し暗くなってきている。
しばらく何も話さず歩いていると、相川がふと口を開いた。
「今日さ」
「なに」
「ちょっと嬉しかった」
「なにが」
相川は少しだけ笑う。
「湊が俺のこと見に来たの」
「別に見に来たわけじゃ」
言いかけると、相川が続けた。
「期待していい?」
「……期待って」
相川は少しだけこっちを見た。
「湊が、俺のこと」
「ちょっとは好きになるかもって」
言葉に詰まる。
すぐに答えられなかった。
でも、さっき体育館で見た相川の姿が頭に浮かぶ。
真剣な顔。
シュートを決めた瞬間。
……ちょっとだけ、かっこいいと思った。
それを言うのはなんだか悔しくて、俺は小さく前を向いた。
「……まだ分かんない」
そう言うと、相川は少しだけ笑った。
「そっか」
そして、静かに言った。
「じゃあ、これから好きにさせる」
そう言って笑う相川が、
さっき体育館で見たときより少しかっこよく見えた。