彼女の口にした自身の名前。それは、私の名前だった。
「どういうこと?たまたま同じ名前、、、ってわけではないんだろうね。」
彼女は静かな笑顔で答えた。
「ええ、これは必然よ。」
「君は一体、、、?」
「すべて書いてある。その本の中に。その本は、あまり親切な書き方はしてないの。でもね、あなたほどの脳があればわかるわ。」
そして彼女は去っていった。
家に帰った私は、早速本を開いた。目次を見ると、とてもおかしな本であることがわかった。オカルト的な話と現代科学の内容が混じり合った、なんというか、SF小説の説明書のような印象を受けた。相対性理論、霊魂分裂理論、時間論、パラレルワールド、万有引力、、、。
ふと、巻末に年表のようなものがあるのが目に入った。そこには、年代とその時にできた出来事が書いてあった。とはいえ、歴史の教科書の年表のようなものではなかった。どうやら、ある人の人生の出来事らしい。12歳の時の出来事に、アンダーラインが引かれていた。
「魂の分裂」
そして、その下に書き込みがあった。
「以下のページを参照すべし」
間違いなく彼女の字だ。なぜかわかった。参照すべきとされていたページには、またアンダーラインが引かれていた。
私は貪るように本を読んだ。どれだけの時間が経っただろう。ついに一周読み上げ、思案を重ねた後、私は少しずつ理解した。彼女が何者で、なぜ私の前に現れたのか。なぜ私に会えて嬉しかったのか。なぜこの本を渡したのか。そして、彼女の発言が、ある一つを除けば全てが真実だったということも。
とはいえ、まだ不確定要素があった。自分の考えることが正しいという確証もなかった。
それでも私の気持ちはたかぶった。自分の中に確かに脈打つ生命を感じた。この感覚は、父が亡くなってから失ったものだった。小学6年生の時から、あの何かが足りない感覚が始まったあの時から、全ては始まっていた。私と彼女はあの時からずっと、会うことが決まっていた。
彼女はいつものところで待っていた。
「答え合わせをしましょう。」
「そうだね。その前に一ついいかな?」
「なにかしら?」
「初めてあった時から、君は私に会うことをかわっていた。それでも君は、偶然あの場に居合わせたようなことを言った。」
「合ってるわ。」
「あの時の私に真実を伝えても、きっと理解しない。そう思ったんだね。」
「ええ、それも合ってる。」
「私達には、時間が必要だったんだね。」
「その通りよ。」
彼女は少し黙って。懐かしそうに話した。
「あなたに忘れられたあの日、私達は悲しみにくれていた。私達の大切な人が突然亡くなったあの日、私達は捻じ切れそうなほどの精神的苦痛を味わった。一つだった私達は、苦痛から逃れるために、感情の多くを捨てることを決意した。」
私は彼女言葉に続いて言った。
「私は君を捨てたんだね?君は私の感情の一部だった。いや、この本によれば、魂の一部ということだね。そして綺麗さっぱり、君を忘れようとした。霊魂分裂論が参照しなければならないページの一つなのは、これを知るため。君のことを忘れた男の子というのは、私のことだった。」
彼女は頷いて、私を見た。彼女の瞳は今までのどの瞬間よりも、私に多くを訴えかけた。
「君の表情が少しずつわかりやすくなっていった気がしたけど、そうじゃなかったんだね。私が、君の表情を徐々に読み取れるようになったんだ。」
「やっぱりあなたは賢いわね。そう、、、。恐らく、あなたがその本から読み取ったことは全て、正解よ。」
日はすでに沈んでいた。彼女は麦わら帽子を少し深くかぶり、こう言った。
「でも、一つだけ、その本からは読み取れないことがある。私達の未来については、そこに書かれていない、、、。」
泣きそうな声で続けた。
「私達は一つになるべき存在。今日を最後に、こうやって話すことはなくなる。一つになれば、会話なんでできなくなるから。」
「やっぱりそうなんだね。」
少しの間が空いて、私は言った。
「どのような人との間にも、別れがある。どれだけ愛おしいと思っても、その愛の対象はいずれ消える。でも、それは自分自身のことだけでもそうなんだよ。私達は一緒だった時も、バラバラだった時もあった。けれど、どれも確実に私達だった。そして、一時一時の私達自身に、私達は別れを告げなければならない。」
「不思議よね。私達は確かに出会いを果たしたのに、それと同時に別れを告げなければならないなんて。」
「そうだね。でもだからこそ、君と話した時間は、かけがえのないものになった。」
彼女は泣いていた。
私達は一つとなり、そしてさよならをする。
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