「あの、囮役って一体何の囮に…?」
俺は背中に冷や汗をかきながら二子さんに問いかける。
「勿論霊のです。君は霊に好かれやすい程霊力が高いですからね。
今まで霊に襲われていなかったのが不思議なくらいです」
淡々と恐ろしい事を次々と口にする二子さんに俺が今まで見てきた優しい二子さんは幻覚だったのではないかと思いかける。
後、横で満面に笑みを浮かべて俺を見てる蜂楽はシンプルに怖い。
「俺が霊に好かれやすいってどういう事何ですか?」
霊に好かれやすいって言われてもその理由が七不思議に襲われたからとかだったら成立しなくないか?だって、どう考えても封印が解けた七不思議の場所に行った俺に落ち度があるしそれを確定みたいに言われても根拠が無い。
「根拠ならあるぜ。俺の猫が懐いてからな」
俺の心を読んだかの様にそう呟いた千切さんが髪を肩から垂らす。
ってか、俺の猫ってあの綺麗な紅い猫の事か?一体それと俺が霊に好かれやすい根拠と何の繋がりが…?
「あの猫はただの猫じゃない。俺の霊力で作った猫なんだ。
基本、自身の霊力で作った武器や生き物なんかは作り出した者にしか使えなかったり懐かなかったりするんだ。まぁ、例外の1つに霊力が桁違いに高い者は扱えたりもしたりもするけどな。でも、それでも全員が全員という訳じゃない。現に俺の猫は今まで俺自身にしか懐いてこなかった。潔はそんな俺の猫に好かれたんだ勿論そんなに高い霊力を持つ奴は必然的に狙われる、霊好みのなら尚更な」
「霊好み…、」
だから國神さんは驚いてたのか。本来作り出した者にしか懐き、扱えない筈のモノが祓い屋でもないただの一般人である俺に懐いていたから。
「潔くん。霊力というものは僕達祓い屋も霊も持っています。
勿論、対比はしていますが言うなれば善と悪といった感じです。
僕達は善で有る霊力で悪の霊力を持つ霊を祓ったり時には封印したりします。霊は基本清らかな此方側の善の霊力を好みません。ですが、潔くん程の澄みきった霊力は反対に霊に好かれやすいです。理由は簡単、逆にそれ程澄みきった霊力であれば自分側に取り込み悪の霊力にする事で力を強化する事が出来るからです」
「勿論、囮となってもらう代わりに霊の被害を受けない様全力で護ります。…まぁ、あって間もない僕達を信用しろ、利用されろと言う気はありませし鍛錬や仲間入りなど勝手に言いましたがあくまで、僕達は潔くんの意見を尊重します。保護するのは義務なので其処だけはご理解頂きたいですが…」
潔くんはどうしたいですか?俺は話の最後に二子さんにそう問いかけられ、少し考え込む。
俺自身、この話を聞く限り自分の身を守る方法は知らないし正直保護されるだけが得策。でも、この話を知ってしまった以上野放しにするのも見捨てる事も嫌だ。
俺に何かやれる事があるなら力になりたい。
「その話受けます。俺がそれで役にたてるなら力になりたいです」
覚悟を決めはっきりとそう告げると二子さんの瞳を見つめる。
二子さんは俺の瞳を見つめ返すと柔らかく微笑んだ。
「…潔くんならそう言って下さると思ってました。これからは僕達祓い屋の仲間としてよろしくお願いしますね」
こうして俺、潔世一は無事祓い屋の仲間入り?を果たしたのだった。
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「あの、話済んですぐにで悪いんですけど一回家に帰っても良いですか?」
「何か必要な物が有りましたか?大体は此方で揃えられますが…」
俺がおずおずと手を上げ申し訳無さそうに呟くと二子さんは驚いた様に目を見開く。
「はい。…凄く大事なモノなので」
「分かりました。でも、代わりに心配なので誰か付いていかせますね。
うーん、僕はこれから纏めなければいけない書類があるので何方か手が空いてる方を行かせたいのですが…」
頭を悩ませる二子さんに蜂楽が元気良く手を上げる。
「はいはいー!!俺が行く!!」
テンションMAXで俺に抱きついて来た蜂楽の頭を苦笑いしながら撫でていると、先程まで眠そうな表情をして話を聞いていた白髪の青年が此方に近寄って二子さんに声をかける。
「それ、俺も行って良い奴?」
「いえ、もう1人くらい付いて行かせる予定だったので別に構いませんが、珍しいですね。凪くん自ら物事を引き受けるなんて」
「…うん。何か気になるんだよね。その子の事」
俺の事を指差ししてそう呟く青年に驚いていると背後からただならぬ殺気を感じて振り向く。蜂楽を抱える俺の後背後には自己紹介の際白髪の青年を起こしていた紫髪の青年が人を殺しそうな目で此方を睨み付けていた。
え、何で急に俺こんな殺気向けられてんの。怖過ぎるんだけど。
自己紹介の時は良い人そうだったのに…、。祓い屋の逆鱗って分からん。
何故嫌われたか分からないまま俺は蜂楽と白髪の青年と一緒に本拠地である屋敷を後にした。
「えーっと、君凪?っていったっけ。これからよろしく…?」
「うん。よろしく」
家へと向かう道を歩きながら俺は隣の白髪の青年凪に話しかける。
ふわふわした髪に背を少し曲げのっそりと歩く姿はどう見ても白クマにしか見えない。うん、見れば見るほどって感じ。
「潔はさ、何で仲間に入ってくれたの?俺ら祓い屋よりどう考えても囮の方が負担多いし」
蜂楽が不思議そうに首を傾げ顔を覗き込んで来る。
「んー、何て言ったら良いのかな、。俺、話を聞く前は正直言って仲間になろうだなんて思ってなかった。でも話を聞いた時に俺も力になりたい、って素直にそう思ったんだ。何で、そう思ったかは分からないけど…」
答えになってなくてごめんね、と俺は申し訳なさでいっぱいになって少し眉を下げる。
蜂楽はそんな俺の様子を見てそれ以上何かを問いただす事はなかった。
沈黙が続く中、暫く歩いていると視界に見覚えのある家が映る。
俺は家の前で立ち止まり2人の方を振り返る。
「じゃあ、俺荷物取ってくるからその間待っててくれる?」
「うん分かった!凪っちと一緒に此処で待ってるね」
にこにこと満面の笑みで此方に手を振り了承する蜂楽を見て俺は安心して家の中に足を踏み入れた。
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俺は自室の机に置かれていたブレスレットを手に取る。
七不思議を調べに行く際壊れるのを心配して家に置いたままになっていたのだ。
青色の俺の瞳と同じ石が組み込まれたブレスレット。
記憶を失くした際に自分がつけていたモノらしく俺は謎に思い入れを感じ今まで肌身離さず付けてきたのだ。
俺は教材や道具、置物など部屋の荷物を纏め後程回収しにくるであろう二子さん達の為に分かりやすい様分別して部屋の隅に置く。
「よし、!こんくらいかな!!」
すっきりとした部屋を見渡し、住み慣れた場所を離れる事に少し寂しさをおぼえる。
一応高校生からとはいえ暮らしてきた家だ。
俺は最後にもう一度部屋を見渡すと別れを告げその場を後にする。
歴史を感じさせる木造の古びた階段を降り、玄関がある1階へと向かうと其処には何故か外で待ってた筈の蜂楽と凪が居た。
「潔が遅かったから少しお邪魔しちゃった!」
そう言うと蜂楽は楽し気に笑う。横を見ると凪も何故か一緒に笑っていた。
……へぇ、凪も笑う事あるんだ。
会ったばかりだし初めて見る表情だから違和感を覚えるのは当たり前な筈何だけど、何故だか体の寒気と吐き気が止まらなくなる。
玄関を見るとお昼頃で明るい窓がうす暗く、そして赤い。廊下もやけに長く感じるし、絶対おかしい。頭の中が警戒音を鳴らす。
この感じ、“前にも”見たことがある。
「潔、ほら早く帰ろ!!」
くったくのない笑顔で笑いかけ、此方に手を差し出す蜂楽。
その背後に居る凪のさらに後ろの窓から見える真っ赤な景色。俺は笑いかけ此方に差し出す蜂楽の手を…
思いっきり振りはらった。
「誰だよ、お前」
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