テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
エメラは、なんとか全てが丸く収まるような解決法を模索し提案しようとする。
「アディ様、さすがに一生は……。せめて刑期を決めて下さいませ」
「ふーん。エメ姉は優しいね。そうだなぁ、じゃあ、僕たちの子供が大人になる頃まで」
魔獣は長寿なので、それでも数百年という事になる。
その時までクルスが真面目に側近として働けば刑期は終わる。そしてクルスにかけた封印の魔法も解いて自由の身となる。
つまり、クルスが側近でいる期間が服役なのだ。
なんとか、この形で話はまとまった。
「さーて。魔界の皆にも懐妊の報告をしなくちゃね。結婚式の準備に、ベビー用品も揃えなきゃ。忙しくなるよ~!」
アディは声とテンションの高い独り言を言いながら部屋を出て行った。仕事の事は頭にないらしい。
執務室に残されたエメラとクルスは気まずそうに顔を見合わせて苦笑いした。
エメラは申し訳なさから、なんとかクルスを前向きにさせたいと思い声をかける。
「……こんな形になりましたけど、いつかクルスさんにも幸せは訪れますわ。ですから……」
「なぜエメラ様が僕を励ますのです? 心配いりません。僕の罪ですから、どんな罰でも耐えますよ」
罪という言葉が、今もエメラの胸に痛く突き刺さる。
愛する事は罪ではない。クルスを狂わせた原因であるエメラ自身にも罪の意識がある。
だが、クルスには1つだけ疑問に思う事があった。
クルスの魔力が封印されたという事は、クルスがかけた魔法は全て解けたはずなのだ。
「僕が封印したディア様の記憶も戻ったはずですが、なぜお変わりないのですか?」
ずっと記憶喪失だと思われていたディアだが、今は封印が解けて過去の記憶を取り戻したはず。しかし話題にも出ないし、エメラとディアの関係に変化はないようだ。
今度はエメラが切ない表情になり、どこか遠くを見つめながら語る。
「ディア様の記憶は関係ありませんわ。何も変わりませんのよ。わたくしの片思いだったのですから」
ディアに恋をした昔のエメラは、今のクルスと同じ。単なる片思いで、ずっと追い続けていただけ。ディアの記憶に関係なく、今に至るまでの未来は変えられなかった。
クルスはその事実を初めて知って、ため息をついた。
「そうでしたか。僕の行いは全て無駄足だった訳ですね」
意気消沈したクルスを見ていると、エメラは自分の事のように物悲しくなる。
エメラは突然、クルスに向かって謝罪するかのように深く頭を下げた。
「クルスさん。わたくしを愛して下さって、ありがとうございました。申し訳ありませんが、わたくしはアディ様と幸せになります。今後はどうぞ、無茶をなさらずにご自愛下さいませ」
これがクルスへの答え。やっと伝えられたエメラの気持ちと願い。
クルスにはもう、無茶をして命を削る行為や罪を重ねてほしくはない。
クルスは顔を伏せて目頭を押さえている。エメラの優しさも思いやりも、全てが切ない痛みとなってクルスの心に刺さる。
かつてのエメラのように今度はクルスが、まだ捨てきれない恋心に苦しむ。
「……罪人の僕に、感謝も謝罪も気遣いも……恐れ多いです」
(……だから、あなたを愛してしまうんですよ……)
伏せたクルスの目は涙で溢れている。
なぜ自分が罪を犯すほどにエメラを愛したのか、その本当の答えも今知ったような気がした。
「僕はこの恋を後悔していません。エメラ様のおかげで、僕はここまで強くなれたのですから」
「クルスさん……」
クルスにとってエメラの存在は罪ではなく、生きる力と強さを与えてくれた人であるから。それはまさに、エメラにとってのディアの存在と同じ。
本当の気持ちを伝え合った二人は、ようやく本当の笑顔で笑い合えるようになった。
もしかしたらアディは、エメラとクルスを二人きりにさせてあげるために、わざと退室したのかもしれない。
しばらくすると、アディが執務室に戻ってきた。頃合いを見たのだろうか。
「さーて、仕事するかー」
わざとらしい独り言と共に、アディはデスクの椅子に座った。すると、すぐにエメラの方を向いて呼び寄せる。
「エメ姉、ちょっと来て」
「はい」
エメラがアディの椅子の横に立つと、エメラの腕を引っ張って無理やり自分の膝の上に座らせた。
「えっ? アディ様っ……」
「エメ姉は妊婦なんだからさ、立ち仕事は辛いでしょ。ここで座って仕事して」
いや、膝の上で仕事はできない。アディは単にエメラとイチャつきたいだけである。そう、クルスに見せつけるために。
ついには堂々とキスをしながらエメラの身体を触り始めた。
「……ん……、だめ、ですわ、アディ様……お仕事、なさいませんと……」
「仕事は新入りの側近に任せればいいよ。ねぇ、クルスくん。事務くらいなら出来るでしょ。そのための側近だもんね」
クルスの目は据わっている。アディに対して秘める感情は憎悪や殺意に違いない。
クルスにとっては、どうしてエメラがアディを愛したのかだけは、未だに解けない最大の疑問であった。
やはり、アディはアディなのであった。