コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ええ、それで掻き消えるたみたいにコユキさんの姿が消失して、そろそろ三十分経つんで皆さんにお伝えしておこうかと……」
コユキのお見合い相手の青年医師は、自らの父親とコユキの母ミチエ、叔母ツミコに先程庭で起こった事、言ってみれば『コユキ神隠事件』について説明をするのであった。
ツミコは眉間に皺を寄せ腕を組んで厳しい表情、ミチエは落胆したのか天井に向けて大きな溜め息を吐いている、手は腰だった。
「茶糖さん、これは…… 一応、捜索願いを出したほうが良いのでは無いでしょうか?」
青年医師の親父さんが常識的な事を言ってきたが、それに返したのは元アル中、『真なる聖女』であったツミコ叔母さんであった。
「いやぁ、たぶん大丈夫だと思います、あの子って(アタシ達もだけど)ちょっと変わった所があるんですよ…… たぶんその内ひょっこり帰ってくると思うので……」
「あっ! 帰ってきた! もう、コユキ何やってんのよ! ほら、皆に心配掛けちゃったじゃないの! 謝んなさい! ゴメンなさいって、ほら、ゴメンなさいって!」
ツミコの言葉を遮るようにミチエが叫んだ通り、その場にひょっこり現れたコユキはキョトンとした表情のまま、両手に提げた袋の内の片方、右手に持ったビニールを青年医師の前に置くと、帯の中から取り出した二枚の万札を沿えて言葉を発するのであった。
「あんがとね、返すわ、んでこの炒飯と餃子、利息代わりに貰ってチョウダイ! ぬふふふ」
呆然としたままコユキとビニール袋の両方を交互に見返している青年医師(お見合い相手)は頑張って何とか口にしたのである、それが彼自身の矜持(きょうじ)でもあったのであろう。
「い、いいえ、コユキさんが無事戻ってきてくれてこれ以上の喜びは有りませんよぉ! この、えっと、焼いた米と、小麦で包んだ肉野菜ですか? こんな物は要りませんし、先程お渡しした二万円もどうぞお納め下さい! 僕達にとっては泡銭(あぶくぜに)なので!」
おわぁ、やったじゃんコユキ! 食べ物もお金も合わせてゲットだぜぇ!
そう喜んだ私、観察者は『下種(ゲス)』だと思い知らされる事になる、コユキの次のセリフによって……
「それとこれとは話しが別よ、アンタが幾らお金持ちでも世の中の常識に合わせなきゃダメでしょ? それに親しい人やこれから親しくなる可能性がある相手ならいざ知らず、アンタみたいな ア・カ の他人とは貸し借りの清算は確りやるって決めてんのよ、アタシ。 それにね、アンタちょっとはこういった油や塩分多目の物も食べたほうが良いわよ? 何かカサカサしてるし不健康そうよ」
不健康そうの塊に言われてしまってちょっとショックだったのだろうか、黙りこくってしまった青年医師。
彼は暫く(しばらく)の沈黙の後、覚悟を決めた様な顔でコユキに告げるのである。
「実はここ最近食欲が無くて…… 無理して食べても全然美味しく感じられない日が続いているんですよ…… 父にも精密検査して貰ったんですけど、どこも悪い所は見つからなくって、勿論味覚異常かもって事で何度もPCRも繰り返してみたんですけど…… あ、もちろん全て陰性判定なんで、その点はご安心を」
「ふむ、それで? 西洋医学以外の解決策とか探してみなかったの? 東洋医学とか、スピリチュアルな方面とか」
体調の告白が切欠になったのだろうか、あからさまに顔色を悪くした青年は首を振りながらコユキに答えた。
「いいえ、漢方やカイロみたいな物なら兎も角、怪しげな呪いやオカルトなんかはあまりにも非現実的でしょ? こう見えても医者ですからね、非科学的な物は馬鹿馬鹿しいですよ」
そう言って弱々しい声でハハハと続けるのであった。
青年の姿をジッと注視していたコユキが、不意に全身を聖魔力の白銀のオーラに包みながら言葉を発した。
「動くんじゃないわよ! すぐ済ませるからね!」
「えっ?」
彼の疑問には答える気がないのか、コユキは帯にはさんでいた神聖銀のかぎ棒を取り出すと、プス! 青年医師の額に刺し込んだのであった。
「ちょ! コユキっ!」
叔母ツミコが慌てたような声を響かせるが、時すでに遅し……
青年医師の額からは大量の血液、ではなくて黒い霧が噴き出すのであった。
コロン!
青年医師の前のフロアに小さな赤い石が空中から落ちて転がった。
まるで手品の様な顛末(てんまつ)に目を白黒させている青年医師の前でコユキはかぎ棒を大切そうにしまってから声を掛けた。
「どう? 少しはスッキリしたんじゃないの?」
医師は赤い石を指差しながらコユキに聞く。
「こ、これは?」
聞かれたコユキは床に落ちた赤い石を拾い上げ袂(たもと)に入れながら答えるのであった。
「これは悪魔のコア、魔核ってやつよ、アンタの嫌いな非科学的な存在ね、んでこいつの本体の名前は『ウトゥック』人に取り憑いて肉体を乗っ取る量産型、所謂(いわゆる)レッサーデーモンって奴よ」
「あ、あくま?」 グゥゥゥー!
素っ頓狂な声に合わせる様に青年の胃袋から空腹を報せる音が元気に響いてきた。
コユキはビニール袋から炒飯と餃子を一パックづつ取り出して(当然の様に彼に渡した利息分からである)、近くのテーブルに置いてから、笑顔で言うのだった。
「ほら、こっち来て食べなさい、んでついでにアタシの話しも聞いときなさいよ」