待機室に戻り先ほどの会話を思い出す。ミカゲのあの発言は悔しいが本当のことだろう。僕を実験に使い彼女を知ろうとしている。僕という隠れ蓑を使って……。確かにその作戦ならミライソフト側も思惑には気が付かないだろう。なんせエサは覚醒を所持する戦姫使いで、自社のイメージを大きく下げた相手だ。これだけエサが大きければ開発部門の子を作戦に組み込むことがイレギュラーでもかすり傷のようなもので済ませられる。口調や態度こそ大人っぽくないがこういう姑息なことをやる辺りは順当に汚い大人なんだなと再認識させられたものだ。それはそれとして僕は次の相手のことを考えないといけない。というのも相手の戦姫がオールラウンダーというのは分かっているがそれはあくまで武装のバランスの話である。使う射撃や近接が物理なのかビーム兵器なのか、サブウェポンはミサイルなのかなんなのか……。この辺を僕はしっかりとは確かめていない。結局僕も天狗になっていなのかもしれないな……。まぁ、とにかくやることは変わらん。相手が誰であろうと真正面からやってもらうだけだ。カナもこういう小難しいことを考えるのは苦手だろう。
「リナ?」
「うん?」
「何か作戦はあるのか?」
「特にないな」
「特にないのか……。」
「まぁ、実際この大会のレベルは低く設定されているはずだ。」
「確かに、ハナカの試合を見ててそれは顕著に感じたよ」
「だろ?だから、これといった策がなくてもまぁ何とかなるだろうとは思っているが……。」
「けどなんだ?」
「熱くなって覚醒を使わないかが一番の心配だよ」
「それは大丈夫だって!少なくともあれ相手には使わない。出るとしてもハナカとの試合だけだよ!」
「出さないようにしてくれるとありがたいんだけどね?」
カナとそんな雑談をしたことである程度緊張もほぐれて、落ち着いた状態で会場にと向かう。
「さぁ!皆様大変お待たせいたしました!!午後の部準決勝でございます!!いきなりではありますが、ここでルールの変更がございます!制限時間という制度がここから外されました!これによってより緊張感あるバトルが見られるのではないでしょうか!?残す試合もこれからやるのを含めて三試合!午前の部より熱いバトルを皆様楽しみにしましょう!それでは、準決勝第一試合リナ&カナ選手とミクラ&カカルナ選手の入場です!」
(入場前にとんでもない情報を聞かされたんだけど……。これマジか?時間制限がないってなると今回のコンセプトである短期決戦型が圧倒的に不利になるじゃないか……。時間制限があって、そのうえ短いからこの形にしたのにもしこれが相手にバレたらめいいっぱい時間使われてガス欠になったところを叩かれる未来しか見えねぇよ……。)
内心焦り散らかすそんなリナを置いて無情にも時間は進んでいき壇上に立ち観客に顔を見せる。
「さて、いきなりバトルとはいかず午前の部と同じように意気込みを聞いていきましょう!まずは、ミクラ選手!相手は速効性の高い戦姫でそのうえミサイルもものともしない相手ですが何か策はあるのでしょうか!?」
「速攻で来るということはガス欠になりやすい構成にしてるのでしょう。なので今回のこの時間無制限になったことをうまく使い立ち回って勝利をいただこうと思います。」
「いいですねぇ!相手の構成を読んだ戦術をあえて伝えることで精神的揺さ振りをかけていくおつもりですね!確かに戦闘するのは自身の戦姫ですが、その所持者が焦ってしまっては自身の相棒である戦姫も不安になってしまうでしょう。さぁ、これに対してリナ選手どんな意気込みを聞かせてくれるのか!?」
(あぁもう最悪だよこの司会……。司会としては満点かもしれないけど、今の僕からすれば赤点上げちゃうくらいには最低だよまったく。これじゃあどう転んでも煽りにしかならないじゃん……。いいやもう。こうなったらとことん煽りにいこう。)
「……。そうですねぇ。確かにミクラさんの言う通り僕の戦姫は速攻を得意とした構成ですが、先ほどのあなたの発言的に、僕の戦姫から逃げれること前提の話でしたね?うまくいくといいですねその時間稼ぎの作戦。あなたの戦姫がスピード型なら可能性はそれなりに高かったでしょうが、オールラウンダーで今回はエントリーしています。間合いを詰めるのを得意としている戦姫から果たして逃げ切れるのか試合で見せてくださいね。」
「あぁーーと!!?リナ選手精神攻撃をされたことで反撃に出たぁ!!確かに、彼の言う通りミクラ選手の策は逃げ切れる前提の話ですが、リナ選手の戦姫は圧倒的なスピードを持っていることは第一試合ですでに明らかになっている!この勝負、ミクラ選手の時間稼ぎの策が通るか、はたまたリナ選手の速攻勝負が刺さるかの二択です!これを楽しみに試合を見ていきましょう!では、両者戦姫をセット!
戦姫大戦、レディー……ファイトォォォォォォォォォォォォォ!!!!」