テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あの日から、瀬名は理人の部屋が気に入ったらしく、頻繁に泊まりに来るようになった。週末になると決まってやって来て、朝まで抱かれる日々が続いている。
意外にも瀬名の料理は美味しく、それを口実に「泊まっていけ」と言っているのは秘密だ。瀬名と一緒にいるのは楽しいし、落ち着く……。最近、そんな風に思い始めている自分がいることに、理人は驚きを隠せない。
――そんなこと、口が裂けても言えないけれど。
ちゃぽん、とバスタブの中で湯が跳ねた。本来なら一人でゆったりと入れる浴槽に、大の大人が二人。さすがに狭い。
だが、そんなことはお構いなしに、瀬名は理人を後ろから抱きかかえるようにして密着してくる。
濡れた髪や肩に当たる唇がくすぐったくて、身をよじるが、瀬名は気にせず理人のうなじに顔を埋めてきた。
「……おい、いい加減離れろ」
「嫌です」
「狭ぇんだよ」
「知ってます」
「お前なぁ……っ」
文句を言おうと振り返った瞬間、首筋に噛みつかれ、ビクッと身体が震えた。
「んっ……!」
「理人さんは僕のモノだって、マーキングしてるんですよ。ほら、こことか……」
「ん、ぅっ……!」
ちゅうっと吸い付かれ、理人は変な声が出そうになるのを唇を噛んで必死に堪える。瀬名は満足げに笑うと、今度は胸に手を這わせてきた。
「ここも……」
「あぁっ……!」
乳首を摘ままれ、ビクンッと身体が跳ね上がる。
「こんな風に弄られて喜んで……。やっぱり理人さん、敏感ですね。可愛い」
「やっ……あぁっ……! はぁっ……」
胸を揉まれながら、指先で突起を刺激されると、自然と息が上がってしまう。悔しそうに唇を噛み、理人は瀬名の腕を掴んで引っ張った。
「ばか瀬名、んなとこでサカるんじゃねぇよ……」
「……ねぇ、前から気になってたんですが……。僕のこと、そろそろ名前で呼んでくださいよ」
「な、名前……?」
予想外の要求に理人は戸惑う。今まで「瀬名」と呼んでいたのを、いきなり変えるというのは意外に難しい。
「ね、呼んでみてください」
「……調子に乗るなっ」
「良いじゃないですか、減るもんじゃないし。ね?」
「うー……」
瀬名は甘えた声で言いながら、胸を撫で回してくる。乳首をギュッと強く摘ままれ、その感触にゾクリと背筋が粟立った。
「あっ……! ばか……やめ……」
「ねぇ、早く……」
「……っ……」
耳元に熱い息を吹きかけられ、頭がぼーっとしていく。瀬名の低くて甘い声が、脳内を犯していくようだ。
「―――いち」
「聞こえないです」
「チッ……っ、ま、また今度気が向いたら呼んでやるっ! それと、明日は萩原の結婚式に出るから、スるのは無しだからなっ!!」
ばしゃん、と勢いよく水面を揺らして立ち上がると、理人は大慌てで風呂から出て行ってしまった。
「ぇえ~……なんですか、今の……」
浴室の中から、瀬名の呆れたような、不満そうな声が響いたかと思えば、今度は可笑しそうにクックックと忍び笑いが聞こえてくる。
「ほんと、素直じゃないなぁ~……」
(……全部、丸聞こえだっつーの!!)
理人は内心でツッコミを入れながら、顔から火が出る思いで寝室へと逃げ込んだ。
「結婚おめでとう!」
「ありがとうございます」
沢山の祝福を受け、純白のドレスに身を包んだ花嫁は幸せそうな笑顔を浮かべている。
その横で本日の主役である部下の萩原聖哉が照れくさそうに笑っていた。
小さな教会で行われた結婚式は慎ましやかに執り行われ、厳かな雰囲気の中、誓いの言葉が交わされ、指輪の交換がされた。
部下の式に出席し見届けるのは、これで何度目だろう?
結婚願望なんてもとより持ち合わせていないが、うれし涙を浮かべる両家の両親を見ていると、自分の親に申し訳ないようなそんな複雑な感情が湧き起こってくる。
「鬼塚君、君もブーケトスに参加してみたらどうだ?」
花嫁の周りに群がった若い男女を少し遠巻きに見ていると、不意に理人の上司でもある岩隈が肘で突いて来た。
「あ、いえ……私は……」
「キミもいい年齢なんだから、そろそろ身を固めた方がいいんじゃないのか?」
その方が格好がつくと言われ、理人は思わずチッと舌打ちをしてしまう。
確かに、この歳になれば結婚したり子供がいてもおかしくはない。だが、そもそも恋愛事には興味がない理人にとっては結婚なんて別次元の話だと思っている。
「私は、他人と一緒に暮らすのは向いていないので……子供を持ちたいとも思ったことは無いですし」
「まあ、君は仕事一筋だからな。だが、家庭を持つって言うのはなかなか良いものだよ。私のように年老いてから孫を抱くって言うのは格別に幸せな気分になれるものだ」
「……はぁ」
嫁が居るのに堂々と援交している変態のくせに、よくもまぁそんな事が言える。
喉元まで出かかった言葉をグっと呑み込んで、適当にはぐらかすと理人は岩隈の側を離れ、そっと輪の中を抜け出した。
これ以上、岩隈の側に居たら言わなくていい一言を言ってしまいそうだ。 彼は理人が入社当時から何かと目をかけて育ててくれた恩人であり、自分を部長職へと推薦してくれた人物である。
理人が出世出来たのは彼の助力があってこそだし、彼のことは上司として尊敬していた。
自分が開発したGPS機能付きの超小型盗聴器『セーフリンク・パーソナルタグ』を気に入って、会社に巣食う膿を出すのを手伝ってくれないか? と打診されたのが約半年ほど前。 元々、ただのサラリーマンなんてつまらないと退屈を感じていたところだったので渡りに船だったのだ。
誰にも知られず、職員の不正を暴き出す。正義の味方を気取るつもりは毛頭ないが、正直やりがいすら感じている。
今まで何の変哲もない日々を過ごしてきたが、こんなスリルを味わえて給料も上乗せされるならもっと早くから始めていればよかったと思ってしまうぐらいだ。
だが、プライベートの事となると話は違う。つい先日見てしまった岩隈の裏の顔がどうしても脳内から離れてくれない――。
岩隈の女癖の悪さは社内でも有名で、愛人も複数人居るらしい。という噂は前々から知っていた。
だが、実際に自分の目で見たことが無かったので、周囲の妬みや嫉妬がそのようなうわさ話を作りだしたのだろうと思っていた。
だがしかし……まさか援交までしているとは……。
自分の性癖を棚に上げて言うのもなんだが、正直言って気持ちが悪い。
美人な嫁がいるのに、何故浮気や援助交際をするのか理解に苦しむ。
他人の色恋沙汰など全く興味が無い理人ですらそう思うのだから、当然、周りはもっとそう感じていることだろう。それなのに、当の本人は平然とした顔をして愛妻家面をしている。
本当に人間と言う生き物はよく分からない。 萩原も、後10年ほどしたら、この岩隈や、今まで糾弾してきた奴らのようになるのだろうか?
いや、萩原はまじめな男だ。そうはならないと信じたい――。
そんな事を考えながらぼんやりと夫婦になったばかりの二人の姿を眺めていると、不意に背後から名を呼ばれた気がして振り返る。
やっぱり! 鬼塚さんじゃないですか!」
「……東雲……?」
そこには、仕立てのいい礼服に身を包んだ東雲が立っており、思わず驚きに目を丸くする。
「お前、こんな所で何やってるんだ……」
「実は、新婦の子と大学が一緒だったんです。今日は連れも一緒だったんですがっはぐれちゃって。でも良かった。ちょうど貴方に渡したいものがあったんですよ。新郎が萩原君だって知って、もしかしたら……って思ってたんですが、会えてよかった。」
渡したいもの。と言われて一瞬、場の空気が張り詰める。先日、岩隈から調査せよと命令が下った二人の情報が纏まったのだろう。彼の探偵としての腕前は知っていたつもりだったが、仕事が早い。
一人での作業に限界を感じ、当時個人で探偵業を営んでいた東雲を半ば強引に引き入れたのだが、どうやら正解だったようだ。
「鬼塚さんはこういう場は苦手でしょう? 珍しいですね」
「まぁ、萩原は俺の直属の部下だからな……。確かに俺は結婚式に出るようなガラじゃねぇが、どうしても出席して欲しいって頼まれて仕方なくだ」
「あはは。鬼塚さんらしいですね」
クスクス笑いながら、そっと胸ポケットから取り出したUSBを差し出してきたので受け取ると、誰にも見られないうちにとサッとスーツのポケットの中に押し込んだ。
その時だった――。
「……お前はっ! ……鬼塚理人!」
「ぁあ?」
大きな声に振り返ると、そこには明るめの髪を後ろに撫でつけた男が立っていた。年のころは自分と同じか、もしくは2~3歳ほど年下だろうか。長身で、そこそこ顔はいいが、正直言って理人のタイプではない。
「ふっふっふ、高校以来だな鬼塚理人! ここで会ったのも何かの……」
「大吾! って、あれ? 鬼塚さん、知り合いだったんですか?」
「さぁ? こんな暑苦しいの、知らん」
――いや、一度会ったら忘れられないだろうというインパクトなのに、理人の記憶にはまったくない。彼の脳内ブラックリストにすら未登録だ。
「それより、このうるせぇのがお前の知り合いなのか?」
「えぇ、警察学校時代の友人なんです」
「ほぉ、そうか。じゃあ、俺はもう行く」
理人は即座に背を向けた。こういう“過去から来ました系”の人間は、たいてい面倒事を持ち込んでくる。
今夜は祝宴、トラブルはご遠慮願いたい――それが理人の本音だった。
「って!! 話を聞けっ!!」
「悪いが、人違いだ」
「……っ、いやそんなはずはない! その童顔に対しての悪い目付き! 間違いなく貴様は――!」
「チッ、ごちゃごちゃうるせぇな……誰だよ、てめぇ……」
「……っ、この俺を覚えてない、だと……?」
本当に知らないらしい。こんな鬱陶しい絡み方をしてくる知り合いがいるなら、理人の記憶には嫌でも残っているはずだ。
ぎろりと睨み付けられた男は、一瞬ビクッと怯んで後ずさる。
……が、すぐに髪をかき上げ、無駄にうっとおしいオーラを全開にしながらキメ顔を作った。
「……フッ、忘れたのなら仕方がない。高校を卒業してもう十五年以上だしな! 仕方ないから思い出させてやろう――俺の名は、間宮大吾だ! どうだ、思い出したか!?」
「……いや、知らん」
「なっ……!! き、貴様っ!!」
知らないと即答され、間宮は顔を真っ赤にして怒り出す。
理人は面倒くさそうにため息を吐いた。完全に「また厄介なのが来た」とでも言いたげな顔だ。
「まさか……本当に覚えてないとはな……! 俺は片時も忘れたことなんてなかったのにっ!」
「……なんだ、コイツ……きめぇ……」
その言葉は声に出ていたらしい。間宮が一瞬「え?」と固まったが、理人は聞こえなかったふりをして視線を逸らした。
こういう暑苦しいタイプは、相手にしないのが一番――それが理人の経験則だった。
「おい、お前のツレだろ? 何とかしろよ」
「あはは、いいじゃないですか。なかなか面白いですよ?」
「……俺は面白さを提供しに来たわけじゃねぇ」
ここが披露宴会場でなければ、今ごろ張り倒しているところだ。透に静止され、理人は渋々腕を組み直す。
間宮と名乗った男は完全に自分の世界に酔っており、両手を広げ、演説でも始めるかのように語り出した。
「……あれは、高校の卒業式のことだった。通い慣れた屋上で、俺はお前に一世一代の告白をしたんだ」
「……あー……」
そう言えば、そんな奴もいたような……と理人はぼんやりと思い出す。
「なのにお前は……『一昨日きやがれ、くそ野郎』と、嫌味なくらいの笑顔で俺を振りやがった……!」
「そりゃ、そうだろうな」
だって、気持ち悪かったし。いや、今でも十分すぎるほど気持ち悪いが。
「あの日から俺はお前を見返すために、肉体改造を行い、ゲイ専用アプリで経験を積み、男を磨いた!」
「……磨くとこ、そこじゃねぇだろ……」
「いいんじゃないですか? 語らせてあげて下さいよ。なんか、面白いし」
クスクス笑う東雲に、理人はムッとした表情を浮かべる。
面白さなど求めていない。どちらかと言えば、うざくて早く張り倒したい。
「三十を過ぎてオッサンになったお前を、馬鹿にして嘲笑ってやるつもりだったのに……っ! なのに、なんでお前は……そんな若いままなんだ!? しかも、妙な色気が増しているしっ!」
「知るか! ……馬鹿らしい」
感極まったように拳を握りしめる間宮に、理人は眉間に深いシワを刻んだ。
「それにしても……東雲まで手玉に取るとは……」
「あ? 誰も手玉に取っちゃいねぇだろ」
「ハハッ、ウケる。そうなんだよ、俺、もうこの人なしじゃ生きていけなくってぇ」
「……おい」
急にノリよく乗っかる透に、理人のこめかみがピクピクと動く。
そんなことを言えば、面倒くさい展開になるのは火を見るより明らかだ。
「薫も! この男のどこがいいんだ!? テクか? テクがすごいのか?」
「はぁ……コイツの頭ん中、どうなってる?」
「面白いやつでしょ? 本当は悪い人間じゃないんです。ちょっと思い込みが激しいところがあって……。今はどうやら、彼の中では俺達付き合ってるみたいなことになってるみたいですねぇ……」
「きめぇ……っ」
理人はゾワッと背筋を震わせ、不快感を露わにする。
「おい。あんまきしょいこと言ってんじゃねぇぞコラ。……てめぇのその低俗な脳みそ、勝ち割ってやろうか? くそ野郎」
茶番にこれ以上付き合う気はなく、声に怒気が混じった。鋭く睨み付けると、間宮は「ひぃいっ!」と情けない悲鳴を上げる。
「ひっ!! お、おのれっ!! この場では許してやるが覚えていろよっ!! 必ずこの借りは返してやるからなっ!!」
安っぽい捨て台詞を吐き、脱兎のごとく逃げ出す間宮。その背中を睨みつけ、理人は小さく舌打ちした。
「全く、何なんだアイツは……」
「いやぁ、モテる男は大変ですねぇ」
「……うぜぇ」
ニヤニヤ笑う東雲を、ぎろりと睨みつける。すると彼は失言したとばかりにペロッと舌を出して誤魔化した。
いい年をしてTPOも考えられない男は大嫌いだ。
そんな不快感を抱いていると、不意にスラックスのポケットでスマホが震えた。一度は無視したが、再び震えたため、理人は透に断って電話に出る。
相手は瀬名だった。
式は無事に終わり、もうすぐ披露宴が始まることを告げると、「終わった頃に合流したい」という申し出があり、理人は躊躇しつつも「終わったら連絡する」とだけ返して電話を切った。
「おやおやぁ? 今の電話の相手は、あなたの番犬君ですか? 随分仲がいいみたいですねぇ」
「うるせぇぞ、東雲」
冷やかされて、理人は思わず顔をしかめる。
「ハハッ、そう怖い顔しないでくださいって。あぁ、ほら……入場の時間だ。席に着かなきゃ」
「あぁ」
促されるまま会場へ入り、自分の席に腰を下ろす。
さっき理人に意味不明なイチャモンをつけてきた間宮は、新婦側の席に座っていた。
あの男が新婦とどういう関係かは知らないが、もし親戚なら……ご愁傷様だ。
――まぁ、自分には関係のないことだ。
そんなことよりも、この式が終われば瀬名と合流できる。それから……。
新郎新婦の入場を拍手で迎えながらも、理人の頭の中は、すでにこの後の予定でいっぱいだった。
その後、無事に披露宴も終わり、理人は瀬名と合流した。二人は連れ立って近くのバーへと足を向ける。
昼間はあんなに暖かかったのに、夜になると急激に冷え込みが厳しくなっていた。理人は少し厚めのジャケットを羽織り、沢山のイルミネーションに彩られた並木道を瀬名と並んで歩く。
そんな中、不意に瀬名が口を開いた。
「なんか、今日の理人さん。いつもと違った雰囲気がしていいですね」
「……まぁ、結婚式だったしな。さすがに普段遣いのスーツってわけにはいかないだろう」
「あぁ、それもありますけど。今日はなんか、格好いいなって思ったんです」
さらりと褒められ、理人はわずかに動揺する。ストレートに褒められると、どう反応していいか分からない。
「……お世辞はよせ」
「酷いな。僕は本当のことしか言いませんよ――……早く、この姿の理人さんをぶち犯したい」
耳元に息を吹きかけるように囁かれ、一瞬で周囲の空気が凍った気がした。
「お、お前の頭の中はそればっかりだな」
理人がげんなりとした表情を浮かべると、瀬名は妖艶な笑みを浮かべた。
「理人さんだって、嫌いじゃないくせに」
返す言葉はない。この男の本質は、きっとこちらなのだろう。
普段は一見無害そうで穏やかに見える表情の下に隠された獣が顔を出す瞬間、理人はいつだってゾクゾクさせられる。だが、それを表に出すつもりはなかった。そんなことをすれば、この男を喜ばせるだけだ。
「さて、どうだろうな……」
適当に言葉を濁しながら歩いていると、前方に見覚えのある顔が現れた。間宮だった。
もう二度と会うこともないと思っていたのに、まさかこんなすぐ再会するとは理人も予想していなかった。驚きと気まずさが入り混じり、つい視線をじっと向けてしまう。
「な、な……なんでお前がこんな所に……」
間宮は狼狽しながら理人を見て、それから瀬名へと視線を移した。
「っ……東雲じゃない、だと……!? しかも無駄にえろいイケメンだし」
愕然とした表情のまま、間宮の肩が小刻みに震えていた。
「ハハッ、そうか……鬼塚理人……どうやらお前は、俺の想像を絶するような乱れた関係らしいな!」
間宮はどこか勝ち誇ったように言い放った。理人には、その言葉の意味がまるで理解できない。まさか本気で、自分と東雲がそういう関係だと勘違いしているのだろうか。
「……理人さん、この人何なんですか?」
瀬名は怪しげな表情を浮かべ、二人を見比べる。その表情には、明らかな不快感が滲んでいた。
間宮はその視線に一瞬怯んだが、すぐに鼻息荒く体勢を立て直し、ずいっと前へ出て瀬名に詰め寄る。
「ふっ、そこのイケメン君……いいことを教えてやろう。その男は、俺の友人と浮気している!」
「……あ?」
間宮がビシッと指をさした瞬間、周囲の空気がシン……と凍りつく。理人の額には青筋が浮かんだ。
誰が誰と浮気をしているだって? 本気で自分が何を口にしているのか、この男は分かっているのだろうか。
「おい、てめぇ……何ふざけたこと抜かしやがる!」
ドスの効いた声で凄むと、間宮は「ヒッ」と情けない悲鳴をあげ、連れていた美青年の後ろに隠れた。
その姿に、理人は怒りを通り越して呆れ果てる。本当に救いようのない男だ。
どうしてくれようかと考えていると、突然、腕を強い力で掴まれた。
「……理人さん……浮気なんて、何かの間違いですよね?」
地を這うような低い声が響き、掴まれた腕に力がこもる。痛みに眉間を寄せた理人が顔を向けると、瀬名の瞳は仄暗く澱んで見えた。
「……おいおい、まさかとは思うが、あんな戯言、真に受けてるんじゃ……」
呆れを込めて言い返すが、瀬名の冷ややかな視線を浴びた瞬間、思わず言葉が詰まる。
「……まさか、本当……とかじゃないですよね……? いや、でも……理人さんなら……」
表情は穏やかでも、妙な迫力があった。何より、その目は氷のように冷たく、背筋が寒くなる。
「おい、誤解だ……俺は何も……」
慌てて否定しようとするが、瀬名はじっと冷ややかな眼差しを崩さない。まるで尋問されているような圧迫感だ。
「……帰りましょう。理人さん……話は部屋でじっくり と聞いてあげますから」
有無を言わせぬ口調に、理人は胸の奥に広がる嫌な予感を拭えなかった。
昼間あんなに晴れていたのに気が付けば分厚い雲に覆われて月も星も見えなくなっていた。寒気が急に流れ込んできたのか、瀬名の怒りに呼応するように風が強くなる。
そのせいで、イルミネーションがざわめく様に揺れて光を散らし、瀬名と理人を幻想的に照らし出した。
それはどこか神秘的で、美しくもありながら酷く禍々しくもあった。
――正直言って気まずい……。
自分は何もやましい事をしていない筈なのに、何故こんな事になってしまうんだ。
先ほどから腕を強く掴んで離さない瀬名から逃れる術も思いつかず、黙って瀬名について行くしかない状況に理人はため息を吐く。
家に戻るまでの間、互いに一言も口を利かなかった。
ただ、ひたすらに痛いくらいの力で掴まれ、引っ張られる。
――俺は何の罪で裁かれるんだろうな。
ぼんやりと考えていると自宅に着いた。玄関に入り、瀬名が扉を閉めるのとほぼ同時に乱暴にジャケットを脱がされ、引きちぎらんばかりの勢いでシャツを剥かれひやりとした空気に肌が粟立つ。
「ちょっと待て!……瀬名っ!!」
いきなり脱がされ慌てふためいたものの、次の瞬間、唇を奪われて言葉が途切れた。そのまま舌を絡め取られ、口腔内を貪るように蹂躙される。
「ん……っふ……」
苦しい。呼吸が出来なくて頭がくらくらする。やっと解放された時には身体中が熱を帯びていて、心臓がバクバクと音を立てて煩かった。
「……理人さん、浮気は許しませんよ」
耳元で囁かれたと思ったら、今度は首筋に噛みつかれて、鋭い痛みが走った。
「痛っ、ちょ……まて……っ」
必死に押し退けようとするが、びくともしない。瀬名は容赦なく理人の身体を弄り始めた。
「ねぇ、今更言い逃れしようとしても無駄ですから」
そう言うと、逃げようとした足を払われて、床に身体を激しく打ち付けた。
「おいっ、てめっ! 話を……っ」
「聞きたくないです」
「……くっ」
抑えつけるように、瀬名が身体の上に馬乗りになってきた。完全にマウントを取られた状態になって理人は身動きが取れなくなる。
瀬名は無表情のまま、ネクタイを外した。そのままワイシャツのボタンをゆっくりと外していく。
露わになった胸板に掌を滑らせると、長い指先が胸の飾りに触れた。そのまま押したり摘まんだりされるとゾクリとする感覚が全身を駆け抜け、身体が跳ね上がる。
「っ、瀬名……止めろ……」
「嫌だと言ったら?」
「お前なぁ……ッ、人の話を少しは聞けっ」
「……聞いてあげますよ。後でたっぷりと……ね」
スゥっと瀬名の目が細められた。瞳に映る冷酷な色が濃度を増し、理人は一瞬呼吸をするのを躊躇った。本能が危険だと告げている気がする。
馬乗りになっていた体を僅かにずらし、胸元に触れていた手を、腹部に伸ばしてくる。そして、ベルトの金具に指をかけるとあっさりと抜き取った。
「その前に……貴方が誰のものなのかその身体にもう一度わからせてやらないと」
酷く冷たい声色で耳元に囁かれ、後ずさる様に身を捻ると同時に、ズボンのジッパーを下ろされた。
「ふ、ざけんなっ! 俺はお前の私物じゃない!」
叫ぶのとほぼ同時に、一気に下着ごとずり降ろされ、下半身が空気に晒された。
羞恥心で顔がカッと赤くなる。
「理人さん……こんなにして、説得力ないですよ」
瀬名はクスリと笑って、理人自身に指先で触れた。
「……うぁっ、くそっ……」
指摘された通り、そこは既に反応していて瀬名に触れられ、徐々に硬度が増していく。
瀬名の手によって翻弄される自分が、どうにも歯痒くて堪らなかった。
瀬名は慣れた手つきで竿を扱き上げると、理人自身の先端を舐めた。
「っ……!」
思わずビクつくと、「可愛い……」と呟いて瀬名の口の中に飲み込まれていった。
「くっ……あっ、やめ……っ」
ヌルついた粘膜に包まれて吸い上げられると甘い痺れが背筋を走る。
「んっ……」
「うっ……」
じゅぷ、と卑猥な水音が響いた。瀬名の口から漏れる熱い吐息が理人自身を掠めて、余計に興奮が高まっていく。
「無理やり犯されそうになってるのに感じてるんですか? いつもより随分と反応が早いみたいだし……ほんっと、いやらしい身体してますよね」
「ち、ちが……ぁあっ!」
反論しようとすると、突然敏感な部分に歯を立てられ、理人は甲高い声を上げた。瀬名の唾液と自分の体液が混ざったモノが絡み付いてくる。
「ほら、理人さんのココは僕のコレが欲しいってヒクついてますよ?」
そう言って瀬名は硬く張り詰めたものを尻の割れ目に擦りつけてきた。その刺激にさえ、理人は息を荒くしてしまい、そんな自分自身に嫌気がさす。
「っ……や、め……」
何とか抵抗を試みるが、瀬名に慣らされた身体は与えられる快楽を待ち望んでいるように、奥が疼く。
瀬名の言う事は、悔しいがあながち間違っていないのかもしれない。
「こんなに濡らして……そんなに期待しているなら望み通りにしてあげましょうか?」
「あぅっ……」
指で入り口をなぞられれば、浅ましくもそこが震えるのを感じて居たたまれない気持ちになる。そんな様子に瀬名は不敵な笑みを浮かべると、理人の両脚を肩にかけ、いきなり秘所に己の剛直を突き立てた。
「い、…く、ぁあ……!」
瀬名の太く硬い楔が埋め込まれる。その衝撃に理人の背中が仰け反った。
「っく……凄い締め付け……やっぱり、理人さんはこっちの方が好きみたいですね」
「んん、う……」
違う、と言いたいが声にならない。瀬名はゆっくりと腰を動かす。その度に、肉棒が内壁を擦り上げ、理人は快感に打ち震えた。
慣らしていないにも関わらず、瀬名のソレをしっかりと受け入れてしまう自分の身体が恨めしい。だが、一度覚えてしまった快楽に逆らえるはずもなく、理性とは裏腹に、もっと強い刺激を求めて瀬名の動きに合わせて自然と腰を動かしてしまう。
「……ふ、理人さんは本当に淫乱な人だ。僕が欲しくて仕方がないんでしょう? お仕置きしてるのに、ほら、こんなに美味しそうに咥え込んで……こっちは蜜まで垂らして……」
「ちが……っ」
「何が違うんですか? ほらっ」
ピンッと指で性器を弾かれ堪らず声にならない喘ぎが喉から洩れた。
「んんっ……ふっ……」
「ここ、好きですもんね。前立腺も一緒に触られるとたまらないでしょう……?」
瀬名は容赦なく腰を打ち付けながら、理人の感じるポイントばかりを攻め立てる。その度に目の前がチカチカするような強烈な快感が押し寄せて、何も考えられなくなる。瀬名の言う通り、理人はこの暴力的なまでの快楽に抗えないでいる。
瀬名は理人の弱い部分を知っている。それを知り尽くした上で執拗に攻め立ててくるのだ。
「あ、っ……も、無理……だっ……ぁあっ!イく……イきそ……!!」
激しい抽挿に理人は限界を訴え、身体を痙攣させた。もう、我慢できない。
しかし、瀬名は絶頂を迎える寸前で律動を止め、昂りをずるりと引き抜いた。
「な、んで……っ」
中途半端な状態で放り出され、身体の奥底に燻っている熱が理人を苛む。無意識のうちに瀬名を求めてしまい、切なげに瞳を揺らした。
「なんでって……お仕置きだからですよ。簡単に許してあげるわけないでしょ。それに……貴方だけ先にイッて狡いじゃないですか」
「うっ……」
「あぁ、そうだ……アレ、使いましょうか……」
瀬名は何かを思い出したのか、寝室へと移動していった。ベッドサイドにある引き出しを漁り始めたと思ったら、瀬名はあるものを手に戻ってきた。
「コレ、なんだかわかりますよね? 試した事あるんですか?」
瀬名が手にしていたものは見紛う事なき大人の玩具だ。黒い持ち手の先に細長い棒状ものが付いていて、本体には大小のパールがいくつも連なっているという見るからに卑猥なもの。
「……ッ」
以前ネットで思わず購入してしまったものの、尿道に異物を挿入することに抵抗を覚え、実際に使ったことは一度もない。
瀬名はローションをたっぷりと塗すと、それを理人のモノの先端に押し当てて塗り込んだ。
「くっ……つめてぇ……!」
ひんやりとした感触に身体が強張る。
「大丈夫です。すぐに温まりますよ」
瀬名はそう言うと躊躇うことなく細長いバイブを理人の鈴口に突き刺した。
「ひっ……ぐっ、や、やめっ」
痛みはないが、異物が侵入してくる違和感に顔を歪める。瀬名はゆっくりと根元まで押し込むとスイッチを入れた。
「ああぁっ……!」
ヴーっと鈍い音を立てて振動し始めたそれに理人は悶えた。先端を犯される未知の感覚に恐怖を覚える。
「嫌だっ……ぬ、抜けよ……っ」
「嫌です、簡単に抜いたらお仕置きにならないでしょう?」
瀬名はにやりと笑って即答すると、バイブを尿道に刺したまま再び理人の膝を抱え、後孔に挿入した。そして、ゆっくりと抜き差しを始める。
「うぁっ……あっ、ぁっ」
同時に前を弄られて、身体の内側と外側から同時に前立腺を刺激され頭がおかしくなりそうなほどの快楽に飲み込まれる。
「ぁあっ……やぁ……ッ!」
「凄い締め付け、中がうねってビクビクしてますね」
瀬名はうっとりと呟くと、更に深く挿入していく。
「あぅっ……あっ……くっ、これ、無理……だっ! ぁあっ!」
「そう言いながらもどんどん飲み込んでいくじゃないですか。本当はこうやって虐められたかったんじゃないんですか? ねぇ、理人さん……?」
「んな、わ、けっ……! あっ……ぁあっ!だめ、こんなのすぐ……っあぁっ!!」
一番奥を突かれた瞬間、頭の中が真っ白になり全身がビクビクッと大きく跳ねた。
「く、ぁっ……!」
だがしかし、尿道バイブによって堰き止められた事により射精することは適わず、バイブが尚も強烈な刺激をもたらしてくる。
「や、ぁあっ、イく……っあ、ぁっ……ッ!」
「ハハッ、イっちゃったんですか? 出てないですけど。ナカが凄く痙攣してる。ほら」
瀬名の言う通り、身体は何度も小刻みに震え、ビクンビクンと痙攣を繰り返していた。瀬名の言う事を否定できず、恥ずかしさで涙が溢れそうになる。
「んんっ……や、やめ……っ抜けってば……っ」
「嫌です。もっと虐めてあげますから……ほら、連続でイけるでしょう?」
「あぅっ、や、ぁあっ!」
瀬名はそう言うと、バイブの強さを強にして、腰を掴んで激しく打ち付けた。
「やめっ……あぁっ、無理っ、あぁあっ! また、クる……や、ぁああっ」
「ほら、我慢しないでいっぱい出してください」
「あっ、ぁあっ、イくぅ……っ、んんんんっ!!」
瀬名に促された途端、目の前がスパークし、頭の中で火花が散った。身体が痙攣するがバイブが邪魔をして射精することが出来ない。
「うぅっ……ぁっ……」
「あれ? ドライでまたイったんですか?」
「も、もう、いい加減に……」
流石に息が苦しい。これ以上続けられたら壊れてしまう。懇願するように瀬名を見上げるが、瀬名の瞳は妖しく光り、笑みを浮かべていた。
「駄目ですよ。お仕置きはまだ始まったばかりなんですから」
「そ、そんな……っ」
「言ったでしょ? 許してあげないって」
そう言って瀬名はバイブの強度を最大に上げた。
「ひぃっ……!? あ、あぁっ……や、だっ……あぁっ」
あまりの刺激に身体が仰け反る。目の前がチカチカして呼吸すらままならない。
「どうですか? 気持ち良いでしょう?」
「い、い……っ、あぁっ、やだ……っこれ、変になるっ……!」
瀬名は必死に訴えかける理人を無視して、そのまま激しくピストンを繰り返した。肉壁が激しく擦り上げられ、その度に意識が飛びそうになった。
「うっ……ぁっ……」
「気持ち良すぎて声も出ませんか? 可愛いですね理人さん……」
瀬名は熱に浮かされたような表情で理人を見下ろすと、更に速度を上げて腰を打ち付ける。
「も、もう……っ……イきた……っ、頼むから……いっ、イかせてくれ……っ」
理人は快楽に悶えながら瀬名に手を伸ばす。その手を取ると瀬名は唇を重ねた。
「はっ……仕方がないな。じゃあ一緒に……」
瀬名は腰を揺すりながら、バイブを握り、一気にずるりと引き抜いた。
「く、は……っ……ああぁっ!!」
その衝撃に一気に絶頂まで駆け上がる。勢いよく大量に吐き出された精液が瀬名の腹に飛び散り、瀬名はそれに構うことなく、理人の中に己の欲望を叩きつけた。
「あぁっ……あつ、い……んんっ……」
体内に注ぎ込まれた瀬名の熱い体液の感触に理人は身震いし、、そのままぐったりと床に倒れ込んだ。
「ふふっ……凄い、沢山出ましたね……気持ちよかった?」
「……っうるせ……くそ……っ」
満足そうに微笑む瀬名を理人は睨んだ。あんな屈辱的なことをされて、悔しくて堪らないはずなのに瀬名の言う通り身体は反応してしまう。
それどころかもっと欲しいと身体が疼くのだ。浅ましい自分の身体に心底呆れる。
「本当に貴方って人は……。まぁ、そういうところも嫌いじゃないですけど」
瀬名は苦笑いすると、汗で張り付いた理人の髪を優しく撫でた。先ほどまでの冷たい表情は消え去り、いつものように柔らかい笑顔で理人を見つめている。
「俺は嫌いだ……たく、人の話なんて聞きゃしねぇ……」
「そうですか? でも僕は、そんな理人さんが好きですよ」
「……っ」
好きという言葉に理人の心臓がドキリと跳ねる。理人が戸惑っていると瀬名は理人の首筋に顔を埋めた。まだ汗ばんでいる肌に瀬名の髪が触れてこそばゆい。
「理人さんの汗の匂い……すごく好きです」
「変態……」
「失礼な。好きな人の臭いを嗅いで何が悪いんですか?」
「~~ッ! あー!! もう分かったから黙れよ!!」
恥ずかしい事を臆面もなく口にする瀬名に思わず怒鳴ると、瀬名は嬉しそうに笑った。
「理人さん、大好きです」
「っ、だー! だからっ、もう分かったから!!」
瀬名は理人の言葉に耳を貸さず、ちゅっと頬にキスを落とした。理人の頬が見る見るうちに赤く染まる。
(クソッ、マジで調子狂う)
瀬名はクスリと笑うと、理人をぎゅうと抱きしめた。
「――へぇ、ってことはつまり、その間宮って奴が勝手に勘違いした結果が、アレだったってわけですか……」
「……あぁ」
行為のあと、シャワーを浴びてさっぱりした理人は、ベッドのヘッドレストにもたれ、煙草をふかしながら今日の出来事を話し終えた。ふぅ、と煙を吐く。
ようやく冷静に話を聞く気になった瀬名は、腕を組み、眉を寄せて考え込む。
「全く、はた迷惑な奴ですね」
「本当に……おかげでえらいことになって、えらい目にあったぜ」
隣でしれっと言い放った瀬名を睨みつけると、相手は涼しい顔のまま肩をすくめた。
「ハハッ、睨まないでくださいよ。怖いなぁ」
「……誰のせいだと思ってやがる」
「僕のせい、ですかね? あー、でもすっごく気持ちよかったんでしょう? ただでさえ敏感な理人さんがイキっぱなしだったし。一突きするたびに身体がビクビクして、何回もイっちゃって可愛かったなぁ」
「ばっ……! クソッ……!」
瀬名の言葉に、理人はあの時の痴態を思い出し、羞恥に顔を染める。回数は数えきれないほどだったが、それを口にされるのは死ぬほど恥ずかしい。
煙草を灰皿に押し付けて消すと、布団に潜り込み、背を向けた。
瀬名はそんな理人を見て楽しげに笑い、背後から覆いかぶさるように抱きしめる。
「……理人さん、もしかして拗ねてるんですか?」
「んな訳ねぇだろ。離せよ」
「嫌です。理人さん、可愛い……」
くすくすと笑いながら頭を撫でられ、理人は小さく舌打ちすると、不機嫌そうにぼそりと呟いた。
「は、離せ馬鹿! 俺はもう寝るっ」
「え? もう寝ちゃうんですか? 酷いなぁ。もう少しお話しましょうよ」
「うるさい、邪魔すんな! 寝るったら寝るんだよ」
「……邪魔? ……酷いなぁ」
そう言うと、瀬名は服越しに理人の乳首を摘まみ、弄り始めた。
「んっ……ちょっ、やめ……っ」
「おや? もう固くなってますけど? 寝るんじゃなかったんですか?」
「お、お前が……んっ、変なことするから……っ」
「変なことって?」
意地の悪い笑みを浮かべた瀬名は、胸に手を這わせ、首筋に軽く歯を立てる。
「んんっ……! やめ……っ」
「ほら、やっぱり感じるんでしょ? やめていいんですか?」
「……っく……」
先端を指先でカリカリと引っ掻かれ、耳穴に熱い息と舌を送り込まれれば、理性とは裏腹に身体は快楽を求めてしまう。
「ふふっ、身体は正直ですね……」
瀬名は抱き寄せると体の向きを反転させ、胸元に唇を寄せた。首筋から鎖骨へ、徐々に下りていき、ぷくりと立ち上がった突起を口に含む。
「あっ……ぁあっ……」
生温い口内でねっとりと舐められ、甘噛みされれば、甘い痺れが全身に広がっていく。もう片方にも手を伸ばし、同じ愛撫を繰り返す。
「やっ……あぁっ……っ、くそ……っお前……、も、しつ、けぇよ! 馬鹿っ」
理人は瀬名をぐいっと突き放し、生理的に潤んだ瞳のまま睨みつけた。
「あのなぁ、俺は怒ってるんだぞ! 人の話は聞きゃしねぇし……毎回毎回こうやって流れを無理やり持って行こうとしやがって」
「……」
「たく、だからしばらく……今後2週間はこういうことは一切禁止だ!」
「……はい?」
そう告げると理人は背を向けた。瀬名はぽかんとしたまま理人を見つめる。
「……2週間も、理人さん我慢できるんですか?」
「うるせぇな! ダメつったら駄目だ。守れなかったら、お前との関係も終わりだ」
「……」
不服そうな顔をしていた瀬名も、本気で怒っていると察すると、盛大な溜息を吐き、渋々頷いた。
「まぁ、今回は僕が勘違いしちゃったってのもあるので、仕方ないですね。わかりました。あぁ、でも……キスだけはいいでしょう?」
「は? そんなの、だ――……っ」
駄目だと言いかけて、瀬名が捨てられた子犬のような目で見つめてくると、理人は言葉に詰まる。
(うっ……)
その目に弱いことを知っていて、わざとやっているのだと分かっていても、抗えない。
「あーもう、わかったよ! その代わり、キスだけだからな!」
「はい!」
満面の笑みを浮かべた瀬名は、理人の頬にちゅっと軽くキスを落とす。
(たく、嬉しそうな顔しやがって……ほんっと調子狂う……)
理人は心の中で悪態をつきながらも、瀬名の腕の中に身を委ねた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!