テラーノベル
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涼ちゃんが入院して1日と少し経った。
追い返された翌日の朝、俺は若井と涼ちゃんとやっと3人で話し合いの機会が訪れた。2日ほどベットの上で過ごしたからか、顔色はかなり良くなっている。が、表情に前までの花が咲くような明るさが無い。余命宣告されたのだから当たり前だ。当事者じゃない俺ですら昨日は全然仕事を進められ無かったし寝れなかった。
「死ぬほど聞かれたかもしんないけど、体調どう?」
開口一番、俺はそう尋ねる。涼ちゃんは微笑んで、
「ありがと。だいぶ良くなったねえ。やっぱり最近疲れてたのもあって沢山寝たんだ」
とふわふわ言う。
「確かに顔色良くなってるね」
これは約5日ぶりの若井。久しぶりに見た彼も眠れなかったのか目に隈が出来かけている。優しく見つめる彼に、君も嬉しそうに見つめ返す。何この空間。少女漫画の世界ですか?ムカついたので若井に1発殴りを入れて涼ちゃんに話しかけた。
「じゃあ本題入るね。今後の活動について。俺たちは涼ちゃんの意見をまず尊重したい。そんで、取り敢えず動けるうちには記者会見開かないと。って話になったよね?若井」
若干窘めるように彼を見ると、あ、ハイ…と肩を摩りながら答えた。視線をはは…と乾いた笑いをうかべる涼ちゃんに戻し続ける。
「涼ちゃん」
「は、はいっ」
「…どうする?」
「……。」
気の利いた言い回しも出来ないので、真っ直ぐに聞く。すると君は口を閉ざして悩みこんでしまった。若井がこの空気をどうにかしてくれと助けを求める目で見てくる。なんとか言葉を思いつき、話そうとしたのと同時だった。
「考えてはいたんだよね。色々と。病院に行く前からずっと…」
瞳が揺れ、一度深呼吸する。そしてこちらを見た。
「僕、限界までやり切りたい。フェーズ2が完結するまでまだ暫くあるけど、ミセスとして活動して、ミセスの一員として死にたい。…足でまといだし、我儘なのは分かってる」
「我儘なんかじゃない!」
唐突に若井がそう叫ぶ。俺も頷いて続けた。
「足手まといなのかどうかは、やってみて決めればいい。でも涼ちゃん、結局難しいフレーズも最後には弾けてるじゃん」
目を大きく開いて話を聞いていた涼ちゃんが、誰かさんの愛のムチのお陰でね…と苦笑する。すると若井が吹き出し、段々大笑いになっていった。何こいつら、どういう状況で笑ってんの?俺もおかしくなって、吹き出してしまいやっと3人で笑い合えた気がした。
この空気が愛おしくて、今までに無いほど手離したくないと思った。
◻︎◻︎◻︎
その後、お偉いさんにどう説明するかとか、ジャムズにどこまで言うかなどを話し合った。内容は新島さんだけでなく各々のマネージャーにも伝えておいた。活動について涼ちゃんの担当医さんに聞くと羽が目立たないうちの今がチャンスだと言っていた。
それを聞き、3人で話す時にやんわりとしか触れていなかったが、涼ちゃんがいずれ死んでしまうことに変わりない。そう考えると虚しくて仕方がなかった。
俺は未だ飲み込めていない。活動が終わっても10年、20年は一緒に居る仲だと思っていた。老後の妄想には常に君と若井がいて、その頃には俺の思いも上手く誤魔化せるようになっている筈だから。
このままグダグダと過ごしていたら、きっと後悔する。
俺は、最後になるであろう思い出作りの構想を車の中で練り始めていた。昼を過ぎた日差しが強く建物を指していて、何時ぞやの時より暑さが増していると気づいた。
時間は無い。
◻︎◻︎◻︎
読んでくださりありがとうございます!
気づけば8話、いいねの数も総合で1000を超えていて驚きました。そろそろ終盤なので是非最後まで見ていって頂けたらと思います。
次も読んでいただけたら嬉しいです。
コメント
2件
涼ちゃんの羽 消えないかな…。