最後列のファンタジスタ

二十一

 

（レオンが退場になった。うちはエースを失ったってわけっすね。ならどうするか？　答えは簡単。オレがエースになれば良い！　そんでもって勝つ！　絶対に！）

　自分を鼓舞した天馬は、正面のモンドラゴンを見据えた。後半開始時以上の集中力でもって、突破ルートを見出ださんとする。

　天馬は決断した。右に身体を揺らした。一瞬のうちに左足で縦に持ち込む。

　モンドラゴンが重心を移した。天馬はもう一度ボールに触れてから、くるりと身体を回転させる。

　回る勢いを利用し、反対にボールを出した。モンドラゴンの逆を突いた形だ。

　だがモンドラゴンは足を出してきた。（想定内っ！）天馬はもう一度左でタッチし、モンドラゴンの右足側を抜く。

　強敵を下してゴールへと驀進を開始する。敵２番が詰めてきた。天馬は左で跨ぎ、右足で中へと転がす。

　７番が反応した。ダイレクトで簡単に、左前方へとパスを出す。

　天馬は守備ラインを抜け出た。７番からのワンツーパスを受ける。追走する２番に構わず左足でシュートする。

　回転の掛かったボールはゴール左隅へと飛んでいく。キーパーがジャンプ。指先に掠った。だがコースは変わらず、ぱさりとネットを揺らした。

（いよっし！　やってやったっす！　エースのオレ、モンドラゴンに完勝！　これで二対二、同点だ！）

　天馬は喜びを爆発させつつ自陣へとダッシュしていった。やがてチームメイトが駆け寄ってきて、歓喜の表情で天馬と並走し始めた。

 

二十二

 

「やられちゃったね。まあさっきのドリブルは、敵ながらあっぱれって感じだけどさ」

　同点ゴールの直後、モンドラゴンに近寄ったオルフィノは平静に声を掛けた。

　腰に手を当てるモンドラゴンは、鬼気迫る表情で地面の一点を注視している。何やらぶつぶつと呟いているが、オルフィノの慰めの言葉に返答する気もない風だった。

（あちゃー、やっぱりこうなるか。だからモンドラゴンはだめなんだよね。屈強でクレバーな選手なんだけど、精神的に脆くて崩れだしたら止まらないんだよ。どうにかならないかなぁ）

　オルフィノは呆れつつ、モンドラゴンに届く言葉を頭の中で探す。

「でもまだ同点だ。こっちは一人多いし、悲観するような状況じゃあない。僕が点を取ってくるから、モンドラゴンは守備メインで頑張ってよ」

　返事を待たずに向き直り、オルフィノは定位置へと歩き始めた。