テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
156
#ワンナイトラブ
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「これからけっこう変わるよ、たぶん」
人事部の小山田さんが口を開いた
「どういう事?」
「メール見てないの?もう正式に通達されてるよ」
みんな認知していなかった
直接的な日々の業務に追われ
間接部署からのメールまで熟読できていなかった
「うちの会社けっこう古臭い体質残ってるでしょ?抜本的に人事制度見直すんじゃないかな。新しい役員達かなり人事の方介入してきてるの」
小山田さんによると
業績だけに留まらず
主体性を持った行動は
重視され
評価されるらしい
その他にも
評価制度の見直し
昇進基準の見直し
人材開発
キャリアパス
報酬体系の改定
働き方の柔軟化
それは
ガバナンス全体に及んだ
聞いた事はあるが
聞き慣れないワードの数々
抜本的な人事制度改革
「カジュアルミーティングはその一環でもあるんじゃないかなー、たぶんね。その為に現場社員の声を聴きたいのはあった気がする」
私の与り知らぬ所で
物事は急速に動いていた
変化はひしひしと感じている
だが
体感する以上に
目に見える以上に
変化は着実に進行していた
文句を言われようとも
恨まれようとも
冷徹と卑下されようとも
きっと新社長含め経営陣は
目に見えている以上に
実直に
真摯に
会社を改善しようと
一分一秒も無駄にせず
一生懸命取り組んでいるのだろう
そのスピード感に圧倒される
***
社長の事を考えてる
朝からずっと
凝視するスクリーン
小気味好くリズムを刻むキーボードの打音
合の手を入れるマウスのクリック音
仕事に集中し
没頭する
完璧な外見を保ちつつ
頭の中は
社長の事でいっぱい
昨日ギクシャクした営業メンバーとの関係
昨日の母親からの金の無心
私の日常は
私の人生は
相も変わらず
色彩なき空虚な世界
でも
社長の事を考えてる合間は
不思議と満たされ
現実を忘れられた
何故あの時
何故あの場にいたのだろう
何故何も言わず
何故抱きしめてくれたのだろう
考えても分からぬ事を
あれこれと思考を巡らせ
その理由を妄想し
この先を想像する
(変なとこ見られちゃったな……)
(おかしい奴だと思われたよね……)
(何て言い訳しよう)
(何て謝ろう)
脳のリソースを妄想に割り当て
脳死でこなす業務
最悪だった昨日の今日
だが
予想に反し私は
穏やかな一日を過ごした
何も変わらないオフィス
不思議なものだ
視点が変わると
世界はこんなにも変わって見える
新方針の施行後
激減した残業
一日の業務に優先順位を付け
一日の業務のスケジュールをたてる
完遂するよう集中して取り組み
向上する業務効率
以前のような
定時退社に付帯した後ろめたさは薄れ
逆に
サービス残業に付帯した罪悪感
最高だ!
何の憂いがあろうか
日常の枠組みが変わると
人は居心地の悪さを覚える
しかし
時は無常に流れ続けるし
変わらない物などない
同じ日常が続き
思考が凝り固まると
主観的にしか物事が見えず
客観的に俯瞰して見えなくなる
凝りが解れ
バイアス無しで見る新体制は
そんなに悪い物ではないのかもしれない
***
「お疲れ様です、お先失礼します」
ピッ♪
タイムカードを打刻し
定時過ぎに退社する
どこか心は晴れやかで
足取りも軽い
顔を上げて颯爽と歩く帰路
今日は良く街並みが見える
久方ぶりの感覚だった
帰り際に立ち寄るスーパーマーケット
時間が違うと
並ぶ品揃えも違う
(社長は普段何食べてるのかな)
(やっぱ良いもん食べてるんだろうな)
(何が好きなんだろう)
(嫌いな食べ物はあるのかな)
(意外と好き嫌い多かったりして)
妄想の続きを加速させ
徘徊する店内
心持ちが少し変わると
ただの日常に
途端に色彩が灯る
軽い足取りで帰宅し
妄想のながら料理を楽しむ
料理は愛情
とか誰か言ってたっけ
今日は美味しい夕食が作れる気がした
***
夜も22時をまわる
未だ夫は帰宅せず
すっかり冷めた料理
すっかり冷めた妄想
妄想は妄想でしかなく
現実は現実だった
食べられないであろう夕飯にラップを掛ける
朝になれば朝食に変わる
食べられない料理を作るほど
悲しい事はない
***
会社の新体制移行後
初の評価面談を迎える
これまで年一回だった評価は
四半期毎になり
これまで上司によって行われていたレビューは
人事部同席の下で執り行われた
この時の私はまだ気付いていなかった
私の与り知らぬ所で
着々と進行していた変化の波は
私の下へも到来し
私をも飲み込む
そして
私のポジションは淘汰される事になる