テラーノベル
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無意識のうちに、目で追ってしまう。
常に考えてしまう。
声が聞きたい。触れたい。
なに、これ。
頭の中で考えてみたのはいいけども。
これって所謂”恋”なんでしょうね。
パソコン画面から視線を外し、ソファに深く身体を沈めて小さく息を吐き出す。
頭の中に渦巻く思考を止めようにも感情は溢れるばかりで。
最近はずっとこんな調子。
「…あ”ーーー………」
脳内を巡る様々な感情がどうにも鬱陶しく、唸りながら天を仰いだ。
「お疲れですか」
同室の床でギターを鳴らしていた若井が苦笑する。
その声に 表情に 思わず目を逸らしそうになる。
それが何故かなんて考える間も無い。
目の前の彼が、この感情を向けるお相手だから。
無意識のうちに目で追う、考えてしまう。
それが日常茶飯事なくらいには重症だったりする。
メンバーという関係性故、毎日顔を合わせるのは当たり前だけど。
その度、どうにも調子が狂って仕方がない。
「…んー、まぁちょっとね」
何も悟られないように出来るだけいつもの調子で話を合わせる。
平然を装ったつもりだったけど、完璧に誤魔化す事は出来なかったようで。
「無理しないでよ」
弦を指先で弄りながら此方へ視線を向ける若井に、言葉が詰まった。
いつもよりトーンの落ちた声色は、きっと心配してくれているからだろう。
それだけの事だというのにやけに感情が揺れている。
ほんと、なんなの。
今まではもっと軽く、簡単に返せていた。
心配をかけすぎるのも悪いから と「潰れない程度には気を付ける」なんて旨の返事を返していたと思う。
「あれ、心配ですか」
今まで通りに言えるはずの言葉が上手く形にならず、その場凌ぎに笑ってみる。
「心配するでしょ、そもそも寝てないし」
「まぁ寝ては無いね。大森Pは大忙しなんで」
ツアーが近ければ楽曲制作もあって。
リハーサル、打ち合わせ、レコーディングととにかく激務。
そう考えてみると疲れてるって言うのも嘘じゃないな。
有難いことだけどね、と呟いて再度パソコン画面に目を向ける。
取り敢えずキリのいい所まで、かな。
マウスを片手に取り中途半端に切り上げていたページを開く。
見ているだけで疲れるような文字列に軽く息を吐いた瞬間、ソファの沈む感覚がすぐ隣にあった。
若井が隣に座ったのだと言うことを理解したと同時に距離は近付く。
肩が触れ合うまでの距離になったかと思えばそのまま身体を寄せられた。
「え?うわ、なになに、」
ギターを手にしたままの若井に寄りかかられ、横に押され気味な体勢になる。
全く状況が出来ずに居ると、身体を戻してソファに座り直した若井が小さく笑った。
その姿が愛おしくて、どうしようもなく胸が締め付けられる。
指先がじんわりと熱くなり、鼓動の音が胸の内に響く。
「ほんと、無理はしないでよ」
視線をギターに落とし、弦に触れながら若井が言う。
「元貴が思ってる以上に元貴のこと心配してんだからね」
柔らかい声色に、息が詰まった。
頬に感じる熱が先程よりも熱く、何か言おうにも言葉が出て来ない。
「…………………ありがと」
この気持ちを誤魔化せるような返しをすることも軽く流すように笑うことも出来ずに、そっと零した。
今はただ、感情が溢れて仕方が無い。
「…めっちゃ照れてんじゃん」
「………うるさいよ」
「元貴ってそういうの顔出さないタイプだと思ってた」
じゃあ若井は。
今ここで伝えたら、どんな顔するの?
この指先の熱さが伝わるように手に触れ、鳴り続ける鼓動を掻き消すように言葉を紡いだ。
「……………好きな人の前で余裕ぶれるほど器用じゃないから」
コメント
2件
えぐい、これはえぐいですありがとうございます(語彙力皆無なのは許してください)