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教室が騒がしくなってきた。おしゃべりを始める子が多くなる。
「そろそろ、いいですか」と教壇の袖から山田先生は言った。
「松田さん。二民、のところがよく聞き取れなかったわ。もっと横に口を開いてはっきりと。ニ・ミ・ン。言ってごらんなさい」
「はい。ニミン」と美緒。
「そうじゃないの。もっと一音一音大切にして。大きく口を横にひらく。『二』でホラ見てご覧なさい、こうやって」
山田先生は口角に人差し指をのせて、両側に思い切り引っ張った。先生のくちびるが伸びる。美緒はためらいがちに先生の真似をした。
「もっと引いて、もっとよ。ちょっと大げさなくらいがいいの。こんな感じまでしてみたら」
山田先生は唇の両端を親指に持ち替え、引っ張った。唇が上下とも裏返しになり、天井の蛍光灯が反射して照る。タラコくちびる。鼻は左右に広がり、低くなる。
教室から笑い声が上がるが、山田先生は気にしない。
「もっとよ」
「う……うう……」
美緒の目が白黒している。先生も美緒も間抜け顔だ。
「ぷうぎだ」と、教室から声が飛ぶ「ぷうぎの親子」
それを聞いて、それまで塾の宿題をやっていた子も手を止めた。ぷうぎファンの多い小学生の教室だ、これで沸かないはずはない。健太も笑いを抑えることができなかった。何がおかしいって、山田先生も美緒も大真面目にヘンな顔をしているのだから。
健太はふと我に返った。コマーシャルのあまりにドジなずぼしを見てこれまで笑っていたけれども、ひょっとしてあれは天然ではなく、必死に転んで見せているのか? ボーダレスの携帯を持って、ずほんが引っかかってこけるあのシーンは、実は教壇の二人が今汗水たらしているような努力の結果なのか?
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