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brfr 紫赤 様
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日本語おかしい
時計の針が、午前零時を過ぎた。
部屋の中は静かだった。
仕事を終えて帰ってきたばかりなのに、ユエルはなかなか上着を脱ごうとしなかった。
玄関に立ったまま、隣にいるネイロをちらりと見る。
「……ネイロちゃん」
「ん?」
「今日……帰らないよね」
「帰らないよ」
穏やかな返事。
それだけなのに、ユエルの心臓が大きく鳴った。
今日は、いつもと違う。
付き合い始めてから、二人きりで過ごした夜は何度もあった。
一緒に映画を見たこともある。
仕事の疲れを忘れるようにくだらない話をしたこともある。
眠くなったユエルがネイロの肩に寄りかかったこともあった。
けれど。
今夜は、最初から二人とも分かっていた。
この夜が、これまでとは違うことを。
「……座ろうか」
「うん」
二人でソファに腰を下ろす。
けれど、会話は続かなかった。
テレビはついていない。
スマホも触らない。
ただ隣にいる。
肩が触れそうな距離にいるだけで、どうしようもなく意識してしまう。
「ユエル」
「なに」
「緊張してる?」
「……してない」
「そっか」
ネイロが笑う。
「じゃあ、僕だけかな」
「……ネイロちゃんも?」
「うん」
意外だった。
いつも余裕があって、何を言われても柔らかく笑っているネイロ。
そんな彼が緊張している。
それを知っただけで、少しだけ気持ちが軽くなった。
「……俺さ」
「うん」
「今日、ずっと考えてた」
音華(おとか)
396
#いらすと
ℛ𝒶𝒾
160
卯月めあ
37
34
ユエルは膝の上で指を組んだ。
「帰ったらどうしよう、とか」
「うん」
「ネイロちゃんと二人になったら、たぶん緊張するだろうな、とか」
「うん」
「……でも、嫌なわけじゃない」
最後の言葉だけは、ちゃんとネイロを見て言った。
「むしろ……」
そこで言葉が止まる。
「むしろ?」
「……もっと近くにいたい」
ネイロは少しだけ目を伏せた。
それから、ユエルの手に自分の手を重ねる。
「僕も」
指先が絡む。
手を繋いだだけなのに、体温がいつもより鮮明に伝わってくる。
「ユエル」
「ん?」
「キスしてもいい?」
「……聞くんだ」
「聞くよ」
「……いいよ」
ネイロがゆっくり顔を近づける。
目を閉じる直前、ユエルは一瞬だけネイロの目を見た。
優しい目だった。
急かさない。
求めるだけでもない。
ちゃんとユエルの気持ちを待っている目。
唇が触れた。
ほんの一瞬。
離れてしまえば、何もなかったようにも思えるくらいのキス。
けれど、二人ともすぐには動かなかった。
「……もう一回」
ユエルが小さく呟く。
「うん」
二度目は、少し長かった。
触れて、離れて。
また触れる。
ネイロの指がユエルの頬をそっと撫でる。
その優しさが、かえって恥ずかしかった。
「……顔、赤いよ」
「誰のせいだと思ってるの」
「僕のせい?」
「そう」
「じゃあ、責任取らないとね」
「……何それ」
笑いながら言ったはずだった。
けれど次の瞬間。
ネイロの腕が、ユエルの腰に回った。
「……っ」
ぐっと引き寄せられる。
さっきまで少し空いていた距離がなくなった。
「ネイロちゃん……」
「嫌?」
「……嫌じゃない」
「ほんと?」
「うん」
ネイロの手が腰を包んでいる。
その感触を意識してしまって、ユエルは思わず視線を逸らした。
「……ずるい」
「何が?」
「急にこういうことするの」
「ごめん」
「謝らないで」
ユエルはネイロの服を掴んだ。
「……離れてほしいわけじゃないから」
その言葉を聞いたネイロが、ほんの少しだけ目を細める。
「じゃあ、このままでいる」
「……うん」
腰を抱かれたまま、ユエルはネイロの胸元に額を預けた。
耳を澄ませば、心臓の音が聞こえる。
自分のものなのか、ネイロのものなのか分からないくらい、二人の鼓動が近かった。
「ユエル」
「ん」
「今日、本当に大丈夫?」
「……うん」
「無理してない?」
「してないよ」
「途中で怖くなったら?」
「言う」
「嫌になったら?」
「言う」
「僕に?」
「……ネイロちゃんにしか言わない」
ネイロはしばらく黙っていた。
そして、腰に回した腕にほんの少しだけ力を込めた。
「ありがとう」
「なんでお礼?」
「信じてくれてるんだなって思ったから」
その言葉に、ユエルの胸が熱くなる。
「……俺だって、ネイロちゃんのこと信じてる」
「うん」
「だから……」
ユエルは顔を上げた。
「今日は、そばにいて」
「もちろん」
また唇が重なる。
今度は、さっきよりも自然だった。
キスをするたびに緊張が少しずつほどけていく。
ネイロの手が背中をゆっくり撫でる。
ユエルはその肩に腕を回す。
触れる場所が増えるほど、二人の距離は近くなっていった。
けれど、ネイロは急がなかった。
何度もユエルの表情を確かめる。
そのたびにユエルが頷く。
「……ネイロちゃん」
「ん?」
「俺、今すごく恥ずかしい」
「僕もだよ」
「嘘」
「ほんと」
「……じゃあ、顔見せて」
「それは無理かな」
「ほら、やっぱり」
二人で小さく笑う。
その笑い声さえ、今夜は特別だった。
やがて、ネイロがユエルの額に口づける。
頬に。
そして、もう一度唇に。
ユエルは目を閉じた。
怖くない。
緊張はする。
どうしたらいいのか分からない。
それでも、ネイロの腕の中なら大丈夫だと思えた。
「……ネイロちゃん」
「うん」
「この先も……一緒にいてくれる?」
「もちろん」
「ずっと?」
「ずっと」
その答えに、ユエルはようやく力を抜いた。
ネイロの胸に身体を預ける。
腰を抱く腕が、今度は優しくユエルを包み込んだ。
「大好きだよ、ユエル」
「……俺も」
その夜。
二人は初めて、恋人として一歩先へ進んだ。
何を話したのか。
どんなふうに触れ合ったのか。
どんな言葉を交わしたのか。
それは、二人だけが知っている。
ただ一つ確かなのは。
いつもは誰にも頼らず、何でも一人で抱え込んでしまうユエルが、その夜だけはネイロに身を預けたこと。
そしてネイロもまた、いつもの余裕など忘れて、何度もユエルの名前を呼んだこと。
夜が深くなるにつれて、二人の間にあった最後の距離も、ゆっくりとなくなっていった。
翌朝。
カーテンの隙間から差し込む光の中で、ユエルは目を覚ました。
隣にはネイロがいる。
そして、昨夜のことを思い出した瞬間――
「…………」
顔が熱くなった。
「……起きてる?」
すぐ隣から声がする。
「……起きてるなら言ってよ」
「ふふ。ユエルが可愛かったから、もう少し見てたかった」
「……最悪」
「ごめんごめん」
そう言いながら、ネイロは笑っている。
ユエルは恥ずかしさをごまかすように布団を引き上げた。
「……ネイロちゃん」
「ん?」
「今日だけは……もうちょっと、ここにいて」
「もちろん」
ネイロが笑う。
そして昨日と同じように、ユエルの腰へそっと腕を回した。
今度はユエルも逃げなかった。
「……おはよう、ネイロちゃん」
「おはよう、ユエル」
二人だけの初めての夜は、朝になってもまだ、二人の間に残っていた。
コメント
1件
わあああもう読んだ読んだ!!😭💕💕 「紫赤 様」、めっちゃエモかった……! 二人の距離感がすごく丁寧に描かれてて、緊張してるユエルも「聞くんだ」「聞くよ」ってちゃんと確認し合うネイロも、もう尊すぎて胸がぎゅううってなったよ……!💖 特に「キスしていい?」って聞くところとか、お互いを大事にし合ってるのが伝わってきて最高だった〜! 朝のユエルが恥ずかしがって布団に潜るとこも可愛すぎてもう一回読み直すね!!📖✨