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brfr 桃青 様
誤字脱字注意
日本語おかしい
夜は、とても静かだった。
仕事を終えた二人がひづみの部屋に戻ってきたのは、日付が変わる少し前。
同じグループで活動する歌い手同士。
普段から一緒に歌って、配信をして、ライブをして。
けれど、こうして二人きりになれる時間は、らみにとって特別だった。
「らみちゃん、疲れた?」
「ちょっとだけ」
「今日は結構長かったからね」
ひづみが笑いながら、らみの頭を軽く撫でる。
「でも、楽しかった」
「ならよかった」
ひづみはいつもそうだった。
年上らしい落ち着きがあって、何かあっても慌てない。
かっこよくて、優しくて。
グループの中でも頼りにされている。
そんなひづみのことが、らみは大好きだった。
二人は恋人同士だ。
だから今夜も、自然と距離が近くなる。
肩が触れる。
指が絡む。
何度かキスをする。
いつものように幸せな時間だった。
それなのに。
らみの胸の奥には、少しだけ緊張があった。
ひづみが自分の服に触れる。
その瞬間、らみは無意識に身体を強張らせた。
「……」
ひづみは一瞬だけ動きを止めた。
「らみちゃん?」
「……大丈夫」
らみは笑った。
笑わなければ。
変に思われたくない。
そう思った。
ひづみが優しいことは知っている。
自分を大切にしてくれていることも分かっている。
それでも。
見られたくなかった。
身体に残っている傷を。
昔、家族から受けた暴力の痕を。
もう何年も前のことなのに、消えずに残っているもの。
普段は服で隠れている。
誰にも見せないようにしている。
だから、今までは平気だった。
でも今夜は違った。
距離が近くなるほど、隠しているものが露わになってしまう。
「……ひづみちゃん」
「ん?」
「ちょっと、待って」
「分かった」
ひづみはすぐに止まった。
らみは慌てて服を整える。
けれど、その動きがあまりに不自然だったのだろう。
ひづみの視線が、らみの手元に落ちる。
「らみちゃん」
「……なに?」
「隠してる?」
「……」
らみは答えられなかった。
「ごめん」
先に謝った。
「何が?」
「……見られたくない」
「うん」
「気持ち悪いって思うかもしれないから」
声が震える。
ひづみは何も言わない。
ただ、らみとの距離を少しだけ空けた。
「……らみちゃん」
「うん」
「俺、見てもいい?」
らみは顔を上げた。
ひづみの表情には、好奇心も嫌悪もなかった。
ただ、らみを気遣う気持ちだけがあった。
「……嫌なら見ないよ」
「……」
「俺が知る必要もないなら、聞かない」
らみの唇が震える。
「でも、もしらみちゃんが怖いなら」
ひづみは静かに続けた。
「俺はここにいるよ」
その言葉に、らみの目が潤んだ。
「……昔」
「うん」
「家族に、殴られてた」
ひづみの表情が少しだけ曇る。
けれど、何も言わずに聞いている。
「何年も前のことだよ」
「うん」
「もう家族とは離れてるし……今は大丈夫」
「そっか」
「だから、ひづみちゃんが気にすることじゃない」
「でも、らみちゃんが傷ついたことは事実でしょ」
「……」
「だったら、気にするよ」
らみは俯いた。
「嫌われたくなかった」
「どうして?」
「こんな傷があるって知ったら……普通、嫌でしょ」
「普通って何?」
「……分かんない」
「俺は嫌じゃないよ」
ひづみの声は穏やかだった。
「傷があるから嫌いになるなんて、そんなことしない」
「でも……」
「らみちゃん」
ひづみは、らみの手のすぐそばに自分の手を置いた。
触れない。
ただ、選択を委ねる。
「手、繋いでもいい?」
らみは小さく頷いた。
ひづみの指が、そっとらみの指に絡む。
「……あったかい」
「らみちゃんの手、冷たいね」
「緊張してるから」
「うん」
「……怖い」
らみが初めて、その言葉を口にした。
ひづみは握った手を少しだけ強くする。
「何が怖い?」
「見られるのが」
「うん」
「触られるのも……たまに怖くなる」
「うん」
「でも、ひづみちゃんに触れてほしくないわけじゃない」
「分かってるよ」
「……分かるの?」
「全部じゃないけど、分かろうとはしてる」
その答えが、らみには嬉しかった。
全部分かったふりをされるより、ずっと優しい。
「……ごめんね」
「また謝った」
「だって……」
「らみちゃんが悪いことした?」
「してない」
「じゃあ、謝らなくていい」
ひづみは笑った。
「俺はらみちゃんと一緒にいたいだけだよ」
「……ほんと?」
「本当」
「傷を見ても?」
「見ることより、らみちゃんがどうしたいかのほうが大事」
「……」
らみはしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと服の裾を握る。
「……少しだけなら」
「うん」
「見てもいい」
「ありがとう」
ひづみは急がなかった。
らみが自分から見せるのを待った。
そこに残っている傷を見ても、ひづみは何も言わなかった。
驚いた顔もしない。
悲しそうな顔もしない。
ただ、らみの手を握っている。
「……これ」
らみが震える声で言った。
「昔の」
「うん」
「もう痛くない」
「そっか」
「でも……見ると、ちょっと思い出す」
「うん」
「だから、今も隠したくなる」
「隠していいよ」
「……え?」
「隠したいときは隠していい」
ひづみは優しく笑った。
「俺に見せなきゃいけないわけじゃない」
「……」
「らみちゃんの身体は、らみちゃんのものだから」
らみの目から、涙が一粒落ちた。
「……ひづみちゃん」
「ん?」
「抱きしめて」
「いいよ」
ひづみはゆっくりと腕を広げた。
らみが自分から近づく。
その瞬間、ひづみの腕が優しく背中を包んだ。
「……っ」
らみは胸元に顔を埋める。
「怖かった」
「うん」
「ずっと……誰にも言えなかった」
「うん」
「言ったら、かわいそうって思われるのが嫌だった」
「そっか」
「俺、かわいそうじゃないのに」
「うん」
「今はちゃんと幸せなのに」
「知ってるよ」
「……でも、たまに怖い」
「それも、いいんだよ」
ひづみの手が、髪をゆっくり撫でる。
「幸せでも、怖いことはある」
「……うん」
「昔の傷があるからって、今のらみちゃんが壊れてるわけじゃない」
「……」
「俺が好きなのは、今ここにいるらみちゃんだから」
らみはぎゅっと服を掴んだ。
「……好き?」
「大好き」
「本当に?」
「本当に」
「……何回でも言って」
「いいよ」
ひづみは少し笑った。
「大好きだよ、らみちゃん」
「……もう一回」
「大好き」
「……もう一回」
「大好きだよ」
らみの涙が止まらなくなる。
でも、今度は隠さなかった。
「……俺も、大好き」
「うん」
「ひづみちゃんが好き」
「俺も好き」
二人はしばらく抱きしめ合っていた。
やがて、らみが少しだけ顔を上げる。
「……さっきの続き」
「ん?」
「したい」
ひづみはらみの目を見る。
「本当に?」
「うん」
「無理してない?」
「してない」
「嫌になったら言ってね」
「分かってる」
「怖くなったら?」
「……ひづみちゃんに言う」
「うん。それでいいよ」
ひづみが額にキスをする。
それから頬に。
そして、唇に。
今度のキスは、さっきよりもゆっくりだった。
らみは目を閉じ、ひづみの服を掴む。
身体に残った傷を隠すことよりも。
今、自分を大切にしてくれている人の温度を感じていたかった。
ひづみの手が背中に触れる。
らみが少しだけ身体を強張らせると、すぐに動きが止まる。
「大丈夫?」
「……うん」
「本当に?」
「うん。今度は大丈夫」
ひづみはそれ以上急がなかった。
らみが安心できるように、何度も名前を呼ぶ。
「らみちゃん」
「……ん」
「大丈夫だよ」
「……うん」
「ここにいるから」
「うん」
その言葉を聞くたびに、らみの身体から少しずつ力が抜けていった。
夜は静かに深くなっていく。
二人の間にあるものは、欲望だけではなかった。
信頼だった。
安心だった。
過去に傷つけられた自分を、もう一度大切にしていくための時間だった。
その夜、らみは最後まで傷を隠しきれなかった。
けれど、ひづみは一度もそれを嫌なものとして扱わなかった。
むしろ何度も、らみが安心できるように言葉をかけた。
そして翌朝。
「……ひづみちゃん」
「ん?」
「昨日のこと……」
「うん」
「忘れないでね」
「忘れないよ」
「でも、誰にも言わないで」
「もちろん」
「……そっか」
らみは安心したように笑った。
ひづみはそんならみの髪を撫でる。
「らみちゃん」
「なに?」
「これからも、嫌なことは嫌って言っていいからね」
「……うん」
「俺に頼っていいよ」
「……努力する」
「そこは『うん』でいいのに」
「だって、頼るの苦手だから」
「知ってる」
「……でも」
らみは少しだけ考えてから、ひづみの手を握った。
「ひづみちゃんには、少しずつ頼る」
「うん」
「だから……そばにいて」
「もちろん」
ひづみは笑った。
らみも笑った。
傷は消えない。
過去も変えられない。
けれど、それを抱えたままでも誰かに愛してもらえることを、らみは少しずつ知っていく。
同じグループで歌う仲間として。
年上の恋人として。
そして何より、自分を大切にしてくれる一人の人として。
ひづみは、これからもらみの隣にいる。
らみが自分の足で立てるようになるまで。
そして、立てるようになったあとも。
二人はきっと、同じ歌を歌い続けるのだろう。
傷も、過去も、今の幸せも。
全部を抱えたまま。
瑠唯-るい-腐女子投稿頻度🐢
18
寝るきのこ
1,011
#EL6
コメント
1件
ひづみちゃんの優しさが沁みる……😭「隠したいときは隠していい」って言葉、めっちゃグッときた。らみちゃんが「抱きしめて」って素直に言えるようになったのが尊すぎるよ。傷も過去も含めて愛するって、こういうことなんだな。続きも気になる〜!🌸