すちはまだ、みことの身体を逃がさない強さで抱きしめていた。
胸の奥で何かがぎしぎしと軋む音がする。
「みこと。答えろよ」
耳元で囁かれる声は、静かなのに刺すようで。
みことは唇を震わせながら、首を横に振った。
「……っ、むり……選べない……」
声に出した瞬間、胸の中がぐしゃっと崩れた。
すちはその答えに微かに目を細めた。
怒るでもなく笑うでもなく、ただ測るような冷たい視線。
「……そう」
その一言だけで、みことの心は限界に達する。
「でも……っ……すちを失いたくない……!」
堰が切れたように、涙がぽろぽろ溢れた。
袖で拭っても追いつかない。
止めたいのに止まらない。
「すちが……離れていったら……俺……耐えられない……っ……!」
喉の奥がひりつくほど必死に叫んだその言葉に、 すちは一瞬――ほんの一瞬だけ、息を飲んだ。
みことの肩が震える。
その震えごと抱きしめられているから、すちにも全部伝わってしまう。
「……なんで、泣くんだよ」
すちの声が低く掠れた。
責める声じゃなく、戸惑いと抑えきれない何かがにじむ声。
「うそ……じゃないよな」
みことは首をぶんぶん振った。
言葉にならないけれど、とにかく伝えたかった。
「すち……ほんとに……いなくならないで……やだ……やだよ……」
涙に濡れた顔で必死にすがるように見上げる姿は、 すちの理性をぐしゃりと握りつぶすように直撃する。
抱きしめる腕の力が、じわりと変わった。
逃がさないための強さではなく、
噛みしめるような、切実な抱擁へと。
「……みこと」
すちの声が、震えていた。
額をみことの肩に押しつけながら、
ぎゅっと目を閉じる。
「……もう無理だ……」
その呟きは、執着と愛情の境界が崩れ落ちる音だった。
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