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『明くる幻実』上
鍵を片手に軽やかな足取りで一番奥の部屋に向かう。廊下の壁には幾つもの絵画、棚には骨董品が綺麗に並んでいて横目で確認しながらも頬が緩む癒しの時間だ。
そして奥の部屋の鍵を開けると室内には数え切れない骨董品が置いてあるなか、天蓋付きの大きなベッドが一際目立っている。
天蓋のレースのカーテンを開けるとベッドで規則正しく寝息を立てている金髪の青年がいた。
青年、だが寝顔は幼くて実際起きた時もたまに少年のような危うさと儚さも感じる。
ベッドに座って陶器のような滑らかな頬を撫でると彼の眉がピクンと反応した。
「・・・麻樹様」
「ああ、シン。起こしてしまったね」
ゆっくり開いた瞳は猫みたいに大きくて、こちらを見てふにゃりと笑顔を浮かべる。
「仕事お疲れ様でした・・・」
ノロノロと体を起こすシンの背中に手を回すと眠気眼のまま抱き着いてきた。ふわりとボディーソープの匂いが鼻を掠めて強く抱き締めるとシンが甘く息を詰めた。
「シン、また私にお前の美しさを見せてくれないか」
「ーーはい」
サラリとした金髪を撫でるとシンはうっとりと目を細めて微笑んだ。スーツの胸ポケットから錠剤をひとつ取り出すとシンはいつものように自ら小さく口を開いた。
「いい子だ」
錠剤をシンの口の中に含ませるとゴクン、と飲み込んだのを確認して口角が上がる。
鮮やかに、それでいて軽やかな動きは踊っているようにも見えて気に入っていた。
車で廃倉庫に移動して中に入ると私にとってもう用済みである組織の人間を全員引き連れた奴らに対して、こちらは手ぶらで私とシンのみ。
ひとりが高笑いをして、私を指差して笑う。しかしその笑いはすぐに消えて一瞬で近付いたシンに小型ナイフで首を切られた。
そこから数十分、シンひとりに対して寄ってたかって銃など武器を向けるが全て躱して華麗に殺すシンの姿は蝶のように美しい。
シンは人の心の声が聞こえるエスパーだ。
出会ったのはシンが15歳の時だ。骨董品をよく買っていた問屋から「珍しいモノがある」と檻に閉じ込められたシンを紹介されたのがキッカケだ。
無垢で幼い瞳は善悪が分からない無知さを感じる。しかし私は不思議と惹きつけられて彼を買い取った。
幼いシンを洗脳するのは簡単だった。シンが21歳になった頃にはもう完璧な殺戮人形として、そして私好みの性処理として育て上げることに成功した。
出会った頃と変わらない無垢で、私しか知らず他者との関わりを一切断ち切られたシンは私だけを縋り私だけを愛する姿も美しい。
「な、なんだコイツ!!!おい会長聞いてないぞ!」
組織のリーダーが悲鳴混じりに私に向かって叫んでいる。これから死ぬ人間に耳を傾ける気はなくて目線を逸らして「シン、やれ」とだけ言えばシンはすぐに男に銃を向けて発砲した。
一撃で脳天を命中したシンはすぐに銃を捨てて残りの人間を殺していく。淡々と、そこに憐れみも何も感じない心で殺す姿は恍惚な溜め息を漏らす。
そしてひとりで20人ほどいた人間が死んで倉庫はすっかり静かになった。屍の上に立つシンの黒のスーツは新しく卸したオーダーメイドだが返り血で汚れてしまった。
「シン、良くやった」
おいで、と手招きするとパッと振り返ったシンがこちらに駆け寄って来る。しかしすぐにその場から倒れ、咳き込んだと思えば吐血した。
「カハッ・・・」
吐血を乾いたコンクリートに吐いて頭を抱え始めたシンを見下ろして私は漸くここに来て初めて足を動かす。
「新しい薬は合わなかったみたいだな。ああ、瞳孔が開いたままだ」
薬で意識を混濁させて攻撃を未来予知できるエスパーの能力を強める薬は最近開発させたばかりだが、体に合わなかったらしい。
顎を掬い、顔を上げさせるとシンの瞳は虚ろで焦点が定まっていない。額に汗が滲み吐血を繰り返すシンの頬を優しく撫でる。
「とても美しかったよ、私のシン」
「っ、あさき、さま」
「ご褒美をあげないとね」
そう言ってシンを横抱きにするとシンはご褒美と聞いて口元を緩めた。埃と血生臭い空間に長くいたらシンにまで匂いが移りそうで早足で廃倉庫を出ることにした。
待機させていた車の後部座席が自動で開いてシンと共に乗り込んでから、さっきとは違う薬をシンに飲ませる。
躊躇いもなく薬を飲み込んだシンは「麻樹様」と譫言のように名前を呼ぶからポケットからシルクのハンカチを取り出してシンの口元の血を拭う。
「いけません。麻樹様のハンカチが汚れてしまいます」
「構わない。私に顔を見せなさい」
ハンカチが血で汚れることを躊躇うシンが顔を背けようとしたから命令すると指示通り顔を向けてシュンとした様子を見せる。
「あの、麻樹様ーー」
「しばらく構ってやれなかったからな。今日はたっぷり可愛がってやる」
「っ」
頬を優しく撫でるだけでシンはトロンとした眼差しに変わって「はい」と答えた。
媚薬に近い薬は副作用があるから多用はできない。しかし混濁して体が敏感になっているシンの脳は非常に洗脳しやすいから毎日飲ませていた。
部屋に戻るなりシンは自らスーツを脱いでシャツのみの姿で俺の陰茎を咥えようと跪くから腕を引いてベッドに放り込んだ。
「ほら、舐めなさい」
「はい・・・」
1時間くらい前までは惨殺をしていたとは思えないくらい従順で愛らしい姿のシンはベッドの上で半身を起こした俺の自身にしゃぶりつく。
「ん、ぷ、ぁ、っ」
淫らに、それでいて初々しさを帯びたシンの肌が紅潮するから髪を撫でて耳たぶに触れるとピクンと体を震わせる。
「こらこら。ご褒美なんだからシンも気持ち良くならないとダメじゃないか」
奥まで咥えて奉仕するシンにご褒美のことをチラつかせると上目遣いで俺を見る瞳は恍惚としていて、口から陰茎を離したからシャツのボタンを外してやった。
「麻樹さま」
膝上に跨って勃ち上がった陰茎を濡れた秘部に擦り付ける仕草は娼婦のように淫靡だが俺を求める声は小さな子供みたいだ。
「ご褒美ください・・・麻樹様の、欲しいです」
「可愛いお強請りだな、合格だ」
傷一つない胸元を撫でてやればシンは自ら勃ち上がった俺の陰茎を片手に秘部に当てがう。シンが腰を浮かせて蕩けた表情で見つめながらゆっくり先端を秘部に埋め込んでいく。
「ぁ、あ゛」
細身の、程良く鍛えられた体がピクピクと震える。薬の影響で通常以上に快感を与えているからシンが俺から与えられる快感に夢中に溺れていく姿は見ていて飽きない。
「麻樹様・・・♡きもちいいです、麻樹様のが、んっ、奥いっぱい突かれるの、好きです」
根元まで挿入して前立腺を自ら擦るように前後に腰を揺らして強弱をつけるシンは俺の首に手を回してキスをしたそうに顔を近付けてくる。
「ん゛っ、あ、あ、あ、っ、麻樹様、好き・・・っ♡麻樹様も俺のナカで気持ち良くなれてますか・・・?」
薬で与えられる強い快感に呑まれたシンの中はローションで解されて奥を尽く度に締め付けてきて頬を撫でてやるとふにゃりと笑った。
「ああ、気持ちいいよ。シンは可愛いな」
「麻樹様・・・」
「もうイきそうだな、シン」
勃ち上がって先走りを漏らすシンの陰茎に触れると喘ぎが更に甘くなる。手で包んで上下に擦るとシンは腰を揺らしながら甘い声を上げた。
「ぁ、ゔ、ッ、麻樹さま、っ、〜〜っ♡」
背中をしならせてシンは絶頂を迎えて俺の手の中に射精した。絶頂の余韻に浸るシンの背中に手を回して繋がったままシーツに押し倒して足を限界まで広げさせる。
「ひゃ、あ゛っ、あっ」
達したばかりの敏感なシンの体はどこに触れても性感帯になって胸元を撫でるだけで大きな瞳を見開いて口を金魚みたいにハクハク開けていた。
「ああ、私のシンは可愛いな」
更に深く挿入すると「ぃぎっ」と痛みを覚えた悲鳴のような声をしたが構わず前立腺の奥、S字直腸まで挿れて腰を揺らすとシンは涙を流しながら俺にしがみつく。
「あ゛、ぁっ、またイッちゃう、麻樹さま、こわぃ、んんっ、〜〜っ♡」
暴力的な快感に連続の絶頂を迎えるシンは体を震わせて細身の体をくねらせるから背中に手を回して抱き締めるような形で密着すると更に奥に入る。
「ひ、ぅ、ゔ、ぁっ、あさきさま♡きもちいいです、あさきさまぁ、あ゛っ、〜〜っ」
「ナカでイくのにハマったのか?」
耳元で囁くだけで感じるのか中をキュン、と締め付けてきたシンにキスをすると焦点の合ってない瞳を細めて自ら舌を絡ませるシンの足が俺の腰をホールドしてきた。
「ナカに出してやるからしっかり受け止めるんだ、分かったね?」
「ん゛っ♡はぃ、麻樹様の、ッ、ナカにください・・・」
どんな時でも従順なシンは譫言のように俺への射精を求めて自然と口角が上がる。激しいピストンに肌がぶつかり合う音とシンの悲鳴にも聞こえる喘ぎを聴きながら最奥で絶頂を迎えた。
「あ、ぁ、あっ、〜っ♡」
中に射精された快感でまた絶頂を迎えたシン自身からは半透明の精液がダラダラと溢れる。打ち突けるようにゆるゆると射精しながら動くとシンは犬みたいにハァハァ言いながら可愛らしく喘ぐ。
意識が飛んでるシンの耳元に顔を寄せて「いい子だね」と褒めると俺の声に反応して中を締め付けてくる。
「お前は俺だけの美しい人形だ、いいな?」
毒を流し込むように、体の芯まで沁みるように囁くとシンは虚ろな瞳で「はい、麻樹様」と呟いたからご褒美にキスをしてあげた。
泥のような眠りから目を覚ますと見慣れた天蓋の天井が映る。
しばらく目を開けたままボンヤリしてから体を起こすと、昨夜の薬の副作用で体が鉛のように重い。
「麻樹様・・・」
確か早朝までは俺の側にいてくれた。優しく頭を撫でて耳元で「今日は遅くまで仕事なんだ。お土産を買ってくるからね」と言ってくれたことを思い出す。
何とか体を動かしてベッドを出ると室内には麻樹様が趣味にしている骨董品が綺麗に飾られている。
どれも掃除が行き届いていて骨董品も綺麗な状態で毎度増えてくのを感嘆の息を吐いて眺めるのが日課だ。
ーー今日は麻樹様が帰って来るの遅い・・・よし、それなら少し外に出掛けてみよう。ーー
いつも薬の影響で寝てばかりが多いけど、たまに与えられる薬の副作用によって調子がいい時がある。
こっそりピッキング方法も勉強したから部屋から出るのも朝飯前だ。
俺は大きなクローゼットを開けてズラリと並んだ麻樹様が用意した服を漁った。パーティー用のスーツと昨夜のような『戯れ』がある時用の黒スーツばかりだけど、その中から派手な柄シャツを選んだ。
着替えも終わって部屋を出てエスパーの力を使う。
この屋敷には使用人が何人かいて、俺が部屋の外に出ると連れ戻されることは経験済みだったから事前に心を読んで人の気配を探りながら外に出る。
着いた先の庭園は綺麗な花たちが咲いていて手入れが行き届いていた。同じ花ばかり咲き乱れている様子をいつも俺の隣で満足そうに笑っている麻樹様の横顔を思い出す。
この花の名前は知らないけど庭には沢山咲いているから麻樹様の趣味なのだろう。
誰もいないことを確認して数十メートルの高さがある壁を見上げる。
分厚くて、高い壁の向こうに俺は興味があったけど麻樹様以外の人間と関わってはいけない、といつも言われていた。
「街に行きたいな」
幼い頃の記憶で止まってる街の風景はもうあやふやで、麻樹様に迷惑がかかるかもしれないし不安にさせてしまうかもしれないけど俺はどうしても外に出てみたかった。
正面の門からでは当たり前だが俺ひとりで外に出れないし、使用人は全員が優秀な殺し屋で簡単に部屋に連れ戻されてしまう。
ーーそうなるともう、この壁登るしかないよな!ーー
中庭の用具入れから梯子を引っ張り出して壁に掛けると何とか壁のてっぺんまでは登れそうだった。
素早く梯子を登ると壁の頂上までたどり着いたらすぐに飛び降りようとした。エスパーの力も使っているから壁の外にも人がいないことは把握済みだ。
久しぶりに外に出れる高揚感で胸を弾ませながら壁のてっぺんに手をかけて勢いよく飛び越える。
飛び越えた先の真下には人が立っていた。エスパーでは確かに人の気配なんてしなかったのに、真下に人がいることに気付けないほど俺の力は弱かったのか?
「危ないっ」
このままでは下にいる人にぶつかってしまう。見つかるのも覚悟して大きな声を出すと頭上に降って来る俺の存在に気づいて男が顔を上げて大きな瞳を見開いたのが見えた。
ふと、その男の大きな瞳と目が合い心臓が高鳴った。心の奥底に眠っていた感情みたいだ、なぜ今このタイミングでこの感情が芽生えたんだ?
ーーいやそんなことを考えている場合じゃねぇ!てかなんでコイツ逃げない!?ーー
目の前に落ちて来る俺に男は気付くも避けようとしなかった。むしろ少し移動して両手を広げる男に俺は受け身を取ることも忘れて目を硬く閉じた。
ーーぶつかる!!ーー
空から少年が降って来たのは生まれて初めてだ。
曇天模様の空は見上げる価値もない。
溜め息混じりでネクタイを緩めていると頭上から「危ない!」と大声が聞こえて今日初めて空を見上げると少年が降ってきた。
空から降って来たのかと思ったけど、恐らく屋敷の壁から飛び越えてきたのだろう。この高さでどうやって?猿か?ああ、でもあの屋敷くらいなら梯子もありそうだと案外僕の頭の中は呑気だった。
少年は酷く慌てた様子で落ちてくる、短い金髪の猫みたいな大きな瞳に僕は一瞬で魅入られた気がする。
避けることもできた。しかし避けたら少年が怪我してしまうのでは?と考えが過ぎって、僕は両手を広げて彼を抱き留めた。
勢いよく落ちてきたから体の重心がズレて彼を抱き留めたまま後ろから尻もちをつくけど、幸い通行人はいなかった。
「ふぅ〜ナイスキャッチ、僕」
空から降ってきた人を受け止めるなんて映画の主人公になった気分だし、何より怪我をしてない少年に感謝されたいくらいだ。
近くで見ると少年、というより青年にも見えた。
「んん・・・」
「やぁ、大丈夫?」
僕の胸元に蹲った少年に声をかけると目を閉じていた少年がゆっくり瞳を開ける。大きくて澄んだ綺麗な瞳と目が合って僕は初めて人生で誰かを魅力的に感じた。
「ご、ごめんなさいっ」
しばらく見つめ合ってから少年が我に返って咄嗟に僕から離れた。
「いいよ。怪我してない?」
「・・・してない」
お互い無言のまま、とりあえず立ち上がると屋敷を取り囲む壁の内側から声がする。逃げた、早く、と声が聞こえて首を傾げていると少年が困った様子で僕から離れようとしたから「ねぇ」と思わず声を掛けた。
「助けようか?」
「え・・・?」
空から降ってきた少年を抱き留めただけでなく、逃げるのを手伝おうとするなんて昨日の僕だったら有り得ない。
この屋敷は殺連会長、麻樹 栖の住む屋敷でもある。目の前の少年はこの屋敷の壁から出てきたのは明白だ。
何者なのか、という疑問と少年に興味が湧いて手を差し出してみると明らかに警戒するも壁の内側から聞こえる声が気になるのか壁と僕を交互に見ている。
「っ、誰か分かんないけど・・・頼む!」
パッと僕の手を握った少年に僕は子供みたいな高揚感を抱いて口角が上がる。こんなにワクワクするなんて学生以来だ、と胸を弾ませながら僕は少年の手を握って走り出す。
この日から僕とシンくんの人生が大きく変わるなんてその時の僕らはまだ、知らなかった。
『明くる幻実』中
目の前に出されたオムライスの匂いに空腹が刺激されてジッと見つめていると正面に座っていた男がクス、と笑う。
「食べなよ」
「い、いただきます」
屋敷からは何とか出れたけど、咄嗟に俺を助けてくれた目の前の男、南雲は一言で言うと『謎』だった。
ーーなんで心の声聞こえないんだ?よっぽど警戒されてんのかな。ーー
でも高い壁の上から突然落ちてきた俺を怪しまない奴の方がおかしい。でも南雲は詳しい事情を聞かずに俺の手を引いてタクシーに乗り込んで街まで連れ出してくれた。
久しぶりに踏みしめる街並みはどこも華やかで興味が惹かれるものばかりだ。
タクシーから降りてウロウロする俺に「どこに行きたいの?」と聞いてきたから特に目的はないことを伝えようとしたらお腹が鳴ってしまった。
朝食も食べなかったことを思い出していると南雲がまた手を引いて今度は喫茶店に連れて行ってくれた。
賑やかな街並みと一変して落ち着いた小さなカフェで淹れたてのコーヒーの匂いが鼻を掠める。
南雲も同じオムライスを頼んだからスプーンで掬って食べるのを見ながら俺もオムライスを一口含む。
フワフワの卵とケチャップライスとデミグラスソースが相性抜群で優しい味に頬を緩める。
「美味しいでしょ。ここ僕のお気に入りなんだ〜」
「すごく美味しい!」
「良かった」
思えば麻樹様以外と食事するのはかなり久しぶりだ。食事も決められた物しか口にしてはいけなかったし体に負担がかかる薬も飲まなくていい日は久しぶりだ。
「で、君は殺連会長の屋敷から出て来たけど何者?」
「っ!」
唐突な質問だけど当たり前の疑問だ。
麻樹様は殺連会長、そしてその館の近くにいた南雲は恐らく殺連に関わっている人間だろう。上から落ちてきた俺を受け止められるほど体はかなり鍛えられているのが分かる。
「言っておくけど僕に嘘は通じないよ。仕草、目の動き、口調で大体嘘か分かるからね」
笑顔だけど何を考えているのか分からない南雲の雰囲気が冷たいものに変わった。生唾を飲み込んで、これは嘘を吐かない方がいいと判断した俺は口を開いた。
「ーー俺は麻樹様の美術品のひとつだ」
「は?」
きっと南雲も俺が嘘を吐いていないからこそ驚いたのだろう。
「どういうこと?会長の親戚や隠し事とか歳の離れた弟じゃなくて?」
「血は繋がっていない。俺は数年前に麻樹様に拾われて救ってもらった。今日は体の調子がいいから外に出たくて勝手に出たけど・・・」
きっと勝手に外に出たことを知ったら麻樹様は心配してしまうだろう。話して行くうちに罪悪感に駆られていると南雲はオムライスを食べながら頬杖をつく。
「シンくんはあの屋敷に閉じ込められているの?なんで外に出たの?」
「部屋の外に出る時は麻樹様と一緒じゃないといけないって麻樹様に言われている。俺には麻樹様しかいないから従うことしかできない。・・・街の景色を見たかっただけで特に外に行きたい場所はない」
麻樹様以外の人間と会話するのも随分久しぶりで声が震えてしまった。
殺連の関係者だとしても、こんなことを話して大丈夫なのか?と今更ジワジワと不安に思っていると黙って聞いていた南雲はジッと俺を見つめて「ふぅん」とだけ呟いた。
「お、俺、これ食べたら帰るよ。もしかしたら南雲にも迷惑かかるかもしれないし」
外に出て喫茶店で食事することもできたし満足だ。このままだと南雲にも迷惑をかけてしまいそうで慌ててオムライスを食べようとしたけど、南雲は俺の頭を撫でてくる。
ーー優しい手付きだ。ーー
麻樹様と同じ、大きくて優しくて暖かい手だ。セックスの時も麻樹様がよく頭を撫でてくれるのを思い出しながら無意識にふにゃふにゃと笑みを浮かべると南雲は頬を緩めた。
「ねぇ、これからデートしない?」
「デート?」
瀟洒な様子で自然に、まるで目の前の綺麗な女性にデートの誘いをするように言ってきた南雲に俺は驚きのあまり呆然とする。
「あれ?僕にデート誘われて即答しない子なんて初めてなんだけど聞こえなかった?」
おーい、と呆然とする俺の眼前で手を振るから俺はすぐに身を引いて戸惑うと南雲はニコリと笑う。
「会長は屋敷にいないんでしょ?何時に戻るの?」
「えっと・・・今日は遅いって言ってたから多分夜、までかな」
「分かった。すぐに帰らなくていいんじゃない?せっかく久しぶりに外に出れたんだし」
ーー確かに。ーー
本当は街のいろんな店を見てみたい。でも麻樹様に心配かけることや南雲に迷惑がかかるんじゃないか?そんな不安を感じていると南雲は徐に胸ポケットから携帯を取り出した。
「あ、もしもし豹?ごっめーん、ちょっと野暮用できたから今日行けないや」
誰かに電話をかけた南雲は軽快な口調で話し始めると携帯から怒鳴る声が聞こえて思わず不安を露わにしてしまう。すると南雲はウィンクをして「また後で連絡する」と言って電話を切ってしまった。
「お、おい。なんか約束あったんじゃないのか?」
「ん?僕がいなくても楽勝なちょっとした仕事だから大丈夫だよ」
南雲は殺連の人間なのは間違いないから恐らく殺し屋なのだろうか。昨夜、殺した人間たちを思い出して目を逸らすと南雲はオムライスを食べるのを再開する。
「これで僕も今日は1日フリーだよ。断る理由、探してる?」
「う・・・もう考えられない」
「素直でいい子だね」
優しいけど強引な南雲の笑顔につられるような頬が緩む。この後、南雲に勧められてパフェも食べたけど凄く美味しくて久しぶりに外に出れた開放感で俺は浮かれていた。
空から降って来たシンくんという少年は麻樹会長の美術品であると自称した。
麻樹会長は骨董品や美術品に目がないと噂では聞いていたけど、滅多公に姿を見せない人柄で僕も一度きりしか会長を見たことがない。
会長の美術品?まるで物のひとつみたいな発言が気になったけど僕はそのまま話を聞くことにした。
今日は昨夜に廃倉庫で殺連と深く関わりのある組織が惨殺された資料を偶然僕が会長の住む屋敷に渡す仕事だった。
てっきり殺し屋殺しのXの仕業だと思ったけど、現場にはXの落書きはないし殺し方もその場にあった物を器用に使って一撃で殺す方法は今までのXの殺し方とは違っている。
しかも屋敷には会長は不在で資料だけ使用人に渡しただけだ。こんなアルバイトにもできる仕事をORDERの僕がやらなくてもいいのでは?と不満を漏らしているとシンくんが現れた。
会長の美術品だと当たり前のように話すシンくんは嘘を吐いていない。だから一瞬でシンくんが周りとは違う『異常』だと感じた。
ーー仕草や口調からして会長の話の時だけ上擦っている。嘘ではない、シンくんは自分が『麻樹会長の美術品』だと洗脳されているかもしれない。ーー
体の調子が良くて外に出たと言っていたけど壁に梯子をかけて勢いよく外に飛び出す病弱な子はこの世に存在しないだろう。
恐らく薬か、それ以上の何かでシンくんを部屋に閉じ込めて本当に美術品として会長が愛でている可能性を考慮する。
だけど今の僕には関係ない。目の前のシンくんに興味が惹かれて午後の仕事も豹に連絡してキャンセルした。
とても怒られるだろうけど電話の後に『殺連に関わる重要な事件に巻き込まれた』とメッセージを送ったら文句は言ってこなかった。
ーー嘘は吐いてないもんね。ーー
会長がまさか1人の少年を監禁していたなんて、きっと殺連でも極秘内容だろう。
しかし何故シンくんという少年を監禁しているんだ?美術品と言うほど何か価値のある少年なのだろうか?
謎が多いけど、それ以上にシンくんに興味が湧いて喫茶店で食事を済ませてから外に出た。
歩きながらシンくんは自分のことをポツポツ話し始める。
自分は人身売買で高値で会長に買われたこと、幼い頃に預けられた研究所先で誤って薬を飲んでしまってから人の心の声を聞けるエスパーの能力が身に付いたこと。
ーーなるほど。会長は読心の能力を気に入ってシンくんを手に入れたんだ。ーー
シンくんの体付きや軽い身のこなしを見るからに、ただ閉じ込められているだけではなさそうだ。
細身だけど華奢ではない体付き、恐らくシンくんはただの一般人ではない。
会長が身寄りのない子供を引き取った話なんて聞いたことないし、恐らく知っている人間はいない可能性も高い。シンくんの力を利用して会長は何か企んでいるのだろうか。
「シンくんは麻樹会長のこと、好き?」
ペットショップのショーウィンドウ越しから子犬を興味深そうに見つめていたシンくんに聞くと上目遣いで僕を見てくる。
「ああ!カッコいいし優しいから好き」
照れ臭そうにはにかんだシンくんの笑顔は幼くて純粋に会長を慕っているのだと分かる。だからこそ、君の力を利用しているんじゃないかとは言えなかった。
「そうなんだ。あ、もしかして犬好きなの?」
「えっ!い、いや!全然好きじゃねーし!」
さっきからシンくんはケージ越しの子犬に夢中で子犬もシンくんをジッと見つめているのが面白くて聞いてみるとすぐにそっぽを向くも気になって仕方ない様子だ。
「生意気だなぁ。触りたかったら聞いてみれば?」
「いいよ。本当に好きじゃ・・・ないし」
ーーあ、今嘘吐いた。ーー
分かりやすい性格なのか、意地を張っているのが目に見えて分かる。僕は苦笑を浮かべてシンくんの手を引いてペットショップの店内に足を踏み入れると店員のお姉さんが挨拶してくれた。
「いらっしゃいませ」
「すいません、あの犬を触らせてもらっていいですか?」
「はい!」
スムーズに会話するのをシンくんが呆然と見ているうちに店員がケージから小さな柴犬を抱っこして近付いた。
それだけでキラキラした瞳に変わったシンくんに店員も気付いたのか子犬を渡してくる。慣れない様子で子犬を抱っこする様子が初々しくて頬を緩めているとシンくんが「なぐもっ」とパッと顔を上げた。
「ん?」
「見て、めっちゃ可愛い!」
満面の笑顔で子犬を抱っこするシンくんは嬉しそうに無邪気に言うものだから不意打ちで胸が高鳴った。
可愛いのは君の方でしょ、と言いかけたのを何とか堪えて「そうだね」と頭を撫でると撫でられるのが好きなのかシンくんは頬を赤く染めた。
南雲と街を歩いて探索していくうちにあっという間に夕方になってしまった。タクシーで屋敷近くまで送ってくれた南雲は相変わらず心の声は聞こえなかったけど、一緒にいて楽しかった。
「今日はありがとう。久しぶりに外に出れて楽しかった」
「良かった。僕も楽しかったよ」
屋敷に戻らなくてはいけないのに南雲と離れてしまうのが惜しくてなかなか離れられない。もっといろんな場所に行きたい、南雲のことももっと知りたい。
でもそんな我儘を言ってしまうと困らせてしまうから言い出せずにいると南雲が「あのさ」と切り出す。
「またこうして遊ばない?」
「えっ・・・嬉しいけど、どうかな」
今回勝手に抜け出してしまったから次は簡単に出られないかもしれない。それに俺には連絡手段もないから予定も合わせることもできない。
曖昧な返事をすると南雲は予想済みだったかのように上着のポケットから何か取り出して俺に渡す。
「これは僕の連絡先しか入ってない携帯。仕事でたまに使うんだけどシンくんに渡すね」
「えっなんで」
携帯と聞いて慌てて返そうとすると南雲は笑みを崩さないまま俺の手を握った。
「受け取って欲しい。このままだともう2度とシンくんに会えない気がするんだ」
「南雲・・・」
ーー俺は麻樹様以外の人とは関わってはいけないって麻樹様に言われてる。・・・でも、南雲に会えなくなるのは嫌だ。ーー
このままだと会えなくなりそうなのは俺も感じていた。だから麻樹様の言い付けが脳裏に過ぎるも、俺は携帯を受け取って「わかった」と頷いた。
メッセージの打ち方を教えて貰ったあと、屋敷に向かうと門前でちょうど使用人が出て来て俺に駆け寄って来る。
ちょうどまだ麻樹様が帰って来ていないこと、そして使用人が総出で俺を探していたことを聞いて改めて謝るも、使用人たちは「今回のみ内密にします」と言ってきた。
心の声を読むと俺を監視できずに外に出たことを知られたら麻樹様に殺されることを恐れているのが分かった。
そこまで大事ではないし、麻樹様は優しいから無闇に使用人を殺したりしないだろうと思ったけどとりあえず今回は麻樹様にも知られずに済んだことに安堵する。
部屋に戻ってシャワーを浴びてからベッドの中に入って布団に潜った。
南雲に携帯を渡された時に『絶対誰にも知られないように』と言われた。室内でもカメラが仕込まれている可能性があるから誰にも見られない場所で携帯を使うように言われたことを思い出しながら俺は慎重に布団の中で携帯を操作する。
ーー今日、楽しかったな。オムライスも美味しかったし犬もフワフワで可愛かった。南雲はちょっと意地悪だけど麻樹様と同じくらいに優しかった。ーー
今日のことを思い返すとドキドキしてきた。麻樹様以外の人と話すことも外に出ることも俺には必要ないという考えも今では何でそう思っていたのか不思議だと感じる。
部屋の扉がノックされて慌てて枕の下に携帯を突っ込んで寝たフリをすると聞き慣れた足音が聞こえた。
ーー麻樹様だ。ーー
足音が近付くと頬が緩む。ベッドの端に座り、手を伸ばして俺の頭を撫でてから麻樹様は小さく笑う。
「寝たフリをした悪い子にはお土産要らないかな?」
「お土産ですか?」
パッと体を起こして寝たフリをやめると麻樹様は笑みを深くするから俺は麻樹様に抱きついた。
「お帰りなさい、麻樹様」
「ただいま、私のシン。ちゃんと今日もいい子にしてたみたいだね」
「はい」
ーー初めて麻樹様に嘘を吐いちゃった。ーー
しかしここで本当のことを話したら麻樹様が心配してしまうし、南雲のことを知られたら南雲が怒られてしまうかもしれない。
嘘を吐いたことに心の奥に罪悪感が芽生えていると麻樹様が俺から離れてネックレスを着けてくる。
「?・・・これは?」
「お土産だ。シンに似合うと思って作らせた物だ」
シルバーのチェーンにシンプルで小さな青い宝石がキラリと光っていた。俺にはアクセサリーや宝石の価値は分からないけど、麻樹様から貰えたことが嬉しくて頬が緩んだ。
「うん、やはり似合っている。さぁ薬の時間だよ」
「はい」
胸元の宝石が綺麗で見惚れていると麻樹様が錠剤を飲ませてくる。いつものことだけど、この薬は飲むと体が熱くなって頭がフワフワしてくるから不思議な薬だと思っていた。
ーー南雲は俺を、美術品の一部として俺を見ていなかったな。ーー
なんの分け隔てもなく、目線を合わせて俺を見つめてくれた。南雲が触れた手の温もりを思い出していると麻樹様が俺の頬を優しく撫でる。
「シン」
薬がすぐに効いて麻樹様に体を傾けると背中を撫でられた。
「お前は私のモノだ」
その言葉は出会った頃と変わらない酷く冷たく、残酷な言葉なんじゃないかと俺は気付き始めるも薬に犯された体はそんなことすぐに忘れて麻樹様を求めた。
俺と南雲は頻繁に連絡を取り合うようになって、時折会うことが増えた。
相変わらず麻樹様の帰りが遅い日だけ、出入りは使用人たちが使っている裏口を知ってそこから出入りするようにした。
南雲と会う度にいろんなことを教えて貰って、沢山笑うようになって毎日が楽しくて同時に南雲の側にいるといつもドキドキするようになった。
だけど最近は飲まされている薬が変わったのか翌日になっても体調が優れない日が続いた。麻樹様とのセックスも激しいものになって体に負担がかかる行為が増えた。
「シンくん、また痩せた?」
やっと会えることができた日、南雲が俺の顔を覗き込む。今日は曇天模様の空で今にでも降り出しそうだねと話しているタイミングで突然雨が降ってきたから店の前で雨宿りをしている最中だ。
「そ、そうか?」
「うん。それに顔色も良くない」
心配そうな表情で俺の頬を撫でてくる南雲に心臓が高鳴った。前までは頭を撫でられたり手を握られても何にも感じなかったのに今では心臓がはち切れそうなほど煩い。
「薬変わってから体調良くなくて・・・あっ、でも麻樹様がまた薬変えようってーー」
「その薬ってなんの為の薬なの?」
「っ」
ジッと俺を見つめて聞いてきた南雲の言葉に息が詰まる。
「わ、分かんないけど麻樹様は俺の為って言ってて・・・」
「前から話そうと思ってたけどシンくんはモノじゃないんだよ。ちゃんと嫌だと思ったら嫌だって言うべきだ」
「何いってんだよ、俺ーー」
言っている意味が分かんなくてつい声が上擦ってしまう。目眩もしてきて足元がフラつくと南雲が両肩を掴んできた。
「僕は一人の人間としてシンくんが好きだ」
「ーーえ」
心臓がやけに煩い、こんな気持ちは生まれて初めてでどうすればいいのか分からない。
「もちろん恋人になりたいって意味の好きだよ。もっと長く側にいたい、君はモノではないしこれ以上苦しまなくていいんだ」
「俺はこの生き方しか知らない、それに苦しくなんかない」
「嘘だ。苦しくなかったら涙なんて流さないよ」
そう言って俺の頬をもう一度撫でた南雲の手は俺の涙で濡れていた。大粒の涙がポロポロと溢れていることに今気付いた俺はどうすればいいか分からなくて混乱した。
呼吸も浅くなっていく、視界も涙で滲んでくる。南雲の声がどんどん遠のいて意識が薄れていった。
パニックと過呼吸を起こしたシンくんを宥めようとしたら突然意識を失ったからかなり驚いた。
きっと無理をしてまで僕に会いに来てくれたんだろう。
このまま屋敷に帰すこともできないし病院に連れて行くこともできないからタクシーを捕まえて僕の住むマンションに連れて来ることにした。
寝室のベッドで寝かせて頭を撫でているとまつ毛を震わせて目を覚ましたシンくんはもうパニックは起こしていない様子で安堵する。
「シンくん、大丈夫?」
「うん・・・ここは?」
「僕の住んでるマンションだよ」
ーー下心あるって思われないかな?ーー
突然の出来事で家に連れて来てしまったけど、告白した後に連れて来たら怪しまれるかもしれない。シンくんから離れてさりげなく背中を向けてベッドの端に座る。
「ごめんね、いろいろ突然困らせるようなこと言っちゃって」
ーー違う。そんなこと言いたいんじゃない。本当に恋をしたんだ、本当に好きだからこれ以上苦しんで欲しくないんだ。ーー
ここ数日、シンくんのことを詳しく調べていたら殺し屋として殺連のリストに載っていた。しかし詳しい経緯は厳重なロックがかかっていて諜報機関で働く知り合いから会長クラスじゃないと開示できない内容になっていると聞いた。
シンくんは会長に殺しの仕事をさせているのは間違いない。薬で自我を殺してエスパーの能力を使わせて人形のように操ってモノのように性欲処理機として使っている。
薬を変えているのも実験体として利用しているのが分かる。どんどん弱っていくシンくんを見ていると胸が痛んで一刻も早く助けてあげなければと焦燥に駆られることがあった。
後ろからシーツが擦れる音がすると同時にシンくんが僕に抱き付いた。ぐす、と鼻を啜る音に涙を流しているのだと気付いて振り返ろうとしたら「振り返らないで」と小さな声で言われてしまった。
「俺も南雲が好きだ」
小さい声だけど確かにシンくんのそんなにそれだけで嬉しくて僕を抱きしめる震えた手を撫でる。
「でも、どうすればいいか分からないんだ。飲まされる薬は強くて、飲んだら記憶がなくなる。それに麻樹様のエッチも最近ちょっと怖くて、でも薬でどうにかなってる俺は・・・っ」
「シンくん、もう何も言わなくていいよ」
またパニックを起こしそうになるシンくんの腕から離れて振り返って正面で抱きしめるとシンくんは泣きながら僕の背中に手を回す。
「南雲が好きだ、俺も南雲ともっといろんな景色を見たい」
涙で濡れた瞳で話すシンくんに胸が締め付けられる。頭を撫でながらゆっくり顔を近付けるとシンくんは恐る恐る目を閉じたから触れるだけのキスをした。
まるで初めてキスをしたかのような反応を見せるシンくんに角度を変えて繰り返しキスをすると抵抗はしてこなくて遠慮がちに服の裾を掴んでくる。
「・・・これ以上したら止まらなくなりそう」
両思いになって浮かれてキス以上のことをしたら体目的だと思われそうだ。それにシンくんは体の調子があまり良くないから無理はさせれないと必死に理性を保とうとしたけど、当のシンくんは首を傾げる。
「このまま、えっちしないのか?」
「〜っ、したいけど」
「俺が薬使ったえっちしかしたことないから嫌なのか?俺だと勃たない?」
今にでも泣いてしまいそうな顔で言うから僕は頭を撫でて宥めようとするとシンくんは子供みたいに頬を膨らませて不機嫌を露わにするから、つい笑ってしまう。
「笑い事じゃないぞ。俺は本当に南雲と・・・」
「うん、そうだよね」
ごめんね、と頬にキスをするとシンくんが首元に顔を埋めて抱き着くから、そのままシーツに押し倒した。
いつもは薬を使ってセックスをしていると話していたシンくんはてっきり不感症かと思っていたけど、薬なんてなくても十分に感じやすい子だった。
服を脱がせると細身の体は危うげで、ところどころ会長が残した所有痕がくっきり残っているのが痛々しくも感じた。
服の下に隠れていたサファイアの宝石が揺れるネックレスはシンくんの焼けてない肌に似合っていたけど何だか落ち着かなくてネックレスは外してサイドテーブルに置いた。
「んっ・・・」
「ごめんね。痛かった?」
互いの昂った自身に触れ合った後はローションで濡れた手で会長しか触れてこなかった秘部に触れる。
指を一本押し込むと体がビクンと震えたから指の動きを止めて謝るとシンくんは首を横に振った。
「痛く、ない。びっくりしただけ」
「無理しないでね」
慎重に、傷付けないように秘部の中に指を押し込む。出会った頃から会長に抱かれ続けてきたシンくんの体は既に気持ちいい場所を開発されていて、奥の窪みに指を掠めると「ぁっ」と甘い声を上げた。
「前立腺気持ちいいの?」
「ひゃ、ぁ、あ゛」
指を増やして中を広げるように指を動かすとシンくんは敏感に反応して勃ち上がった自身から先走りを溢す。
感じやすくて僕から与える快感を素直に受け取るシンくんが愛おしくて指で慣らしながらキスを繰り返した。
「はっ・・・そろそろ挿れていい、よね?」
「んっ、いいよ」
シンくんの淫らな姿に素直に興奮して指を引き抜いて勃ち上がった自身を秘部の入り口に擦り付ける。そしてゆっくり先端を押し込むとシンくんが頼りなさげに僕の腕に触れてきた。
「っ、怖い?」
「ぁっ・・・ううん、全然怖くない。むしろ・・うれしい」
圧迫感と異物感で苦しそうに顔を歪める姿さえ綺麗で少しでも和らげる為にキスをしたり手を握って奥に挿れるとシンくんが挿入している下腹部あたりを撫でてくる。
「なぐもの、ココまで入ってる・・・」
「っ」
無意識なのか、それとも会長とのセックスはいつもこんな感じなのか分からないけど僕はふにゃりと笑ったシンくんに胸が高鳴って顔が熱くなった。
「動くよ」
根元まで挿れると接合部からローションが垂れているのがよく見える。生唾を飲み込んで、そのままゆっくり律動を始めるとシンくんはトロンとした表情で可愛らしく喘いだ。
「ぁ、あ゛、ぅ・・・」
控えめな喘ぎ声は僕好みで、もしかしたらこれも会長に調教されたのかもしれない。
前立腺を突く度に射精を促すような甘い締め付けは今まで経験してきた中で一番気持ち良くて理性を抑えるのに必死だった。
「ん、なぐも」
「どうかした?痛かった?」
舌足らずに名前を呼ばれて痛かったかと思って動きと止めるとシンくんは照れくさそうに「気持ちいい」と呟いたから僕の頭はフリーズした。
「薬で強制的に気持ち良くならなくても、好きな人とならこんなに気持ちいいんだな」
「っ、そういうの素直に言えちゃうところがシンくんらしいね」
「?」
好きな人とストレートに言われて照れる僕に対してはシンくんは不思議そうに首を傾げたから額にキスをする。
「僕も気持ちいいよ、シンくん」
両手を繋いで律動を激しくするとシンくんの喘ぎもどんどん余裕のないものに変わってきた。握り返された手は震えていて、それが恐怖なのかまた別の不安なのか知りたかったけど知らないフリをしてシンくんの唇にキスをして前立腺を攻めた。
「ん゛っ、う、あ゛っ」
舌をシンくんの口内に捻じ込むと体がビクンと震えたけど健気に舌を絡めて動きを合わせようとするシンくんのくぐもった喘ぎは興奮材料になって僕の限界も近くなる。
外に射精しようと思ったけどシンくんは足を腰に絡めてホールドしてきた。甘い締め付けと誘惑に抗えずに僕はそのまま中で射精した。
「っ」
「ぁ、っ〜〜っ」
奥に射精するとシンくんも遅れて絶頂を迎えて射精する。射精している間もキスをしてゆるゆると腰を動かすとシンくんは蕩けた表情で受け止めきれなかった唾液を口の端に垂らした。
「南雲・・・好き。もう一回、シよ・・・?」
計算ひとつしてない誘惑だからこそ僕は断れる気がしなくて苦笑を浮かべる。ゆっくり自身を引き抜くと秘部からドロリと精液が出てきたから指を挿れて掻き出した。
「んっ、このままで、いい、のに」
「だーめ。もっと具合悪くなったらどうするの。このまま帰れなくなるよ?」
「・・・じゃあ今日は帰らない」
どこか子供じみたように呟いたシンくんの言葉に僕は驚いて顔を上げた。顔を真っ赤にして口元を歪に曲げているシンくんを見て僕は浅く息を吐いた。
「実は僕も、今日はシンくんを帰したくない」
このまま会長の元に帰したくない。できればこのまま僕の側にいて欲しい、そんなことは無理だと二人とも分かっているからこそ今日はせめてシンくんを独り占めしたかった。
「僕のせいにしていいからね」
背中に手を回してシンくんの体を起こして膝上に乗せると僕の首に手を回したシンくんが「そんなことしない」と呟いて触れるだけのキスをしてくる。
腰を浮かせて既に柔らかくなっている秘部にシンくん自ら押し付けて挿入するとキスの合間から色めいた溜め息が溢れる。
「なぐも、今だけ・・・今だけでいいから全部、忘れさせて」
それは自分が会長の所有物ではなくひとりの人間だと気づいてしまったこと、会長を裏切って僕とが変わったこと、その他にも会長への思いを全て忘れたくて、せめて今だけは逃げたくて出て来た言葉だろう。
「うん。僕が全部忘れさせてあげる。シンくん、愛してるよ」
強く抱き締めたら壊れてしまいそうな体を抱き締めて綺麗に涙を流すシンくんの唇にキスをした。
『明くる幻実』下
キッチンで2人分のコーヒーを淹れていると後ろから抱きしめられた。
足音はしていたから驚きはしなかったけど、甘えるように背中に額を擦り付けてきた動作に小さく笑った。
「おはよう。よく寝れた?」
「・・・おはよ。うん、寝過ぎちゃったな」
振り返るとシンくんは僕の貸したシャツ一枚のみ着ている状態だった。まだ眠そうな目のまま上目遣いで僕を見るから額にキスをする。
「コーヒー淹れたけど砂糖とミルク入れる?」
「入れる」
「じゃあたっぷり淹れるね」
淹れたてのコーヒーに砂糖とミルクをたっぷり入れて掻き混ぜたあとシンくんに渡すと何だか元気のない様子で受け取ったのが気になった。
「どこか具合悪い?無理させちゃったかな」
体調も良くないと分かっていたのに僕との性行為で悪化してしまったのだろうかと顔を覗き込んで聞くとシンくんは首を横に振った。
「麻樹様は本当は悪い人なのかな」
恐らく会長がシンくんにした洗脳はまだ完全に解けていないのと、そもそもシンくんが会長のことを純粋に大切な存在だと思っている。
ーー人をモノ扱いして薬漬けにしている人間が善人な訳がない。ーー
言葉に出かけたけど、純粋に会長を慕っているシンくんを傷付けたくなかった。
ーー服とかに発信機はなかった。本当心配してたらどんな手を使ってでもシンくんを取り戻そうとするだろうな。ーー
シンくんが着ていた衣類を洗濯物で洗うフリをして確認したけど発信機やGPSなどは着いていなかった。美術品のように愛でているシンくんをそんな簡単に外に出すのだろうか、と少し疑問が湧いていた。
「善悪なんて人によって違うさ。行き過ぎた正義も悪になるようにね」
頭を撫でて優しい笑顔を浮かべるとシンくんは不安そうな表情を浮かべていたけど、照れ臭そうに笑みを浮かべる。
「これ飲んだら帰るよ。泊まらせてくれてありがと、南雲」
「じゃあ送るよ。僕も泊まるように我儘言っちゃったし会長に会って謝るよ」
本当は会長がどんな人間なのか気になっていた。殺連を取り締まる滅多に表に出ない存在、数年間シンくんの存在を外に漏らすことのなく美術品のひとつのように扱ってきた人間がどんなものなのか気になるところだ。
砂糖とミルクがたっぷり入ったコーヒーを一口飲もうとしたシンくんだけど「熱っ」とすぐにコップから口を離してフーフーと息を吹きかける姿が可愛らしくて頬にキスをする。
「南雲・・・」
「ん?」
「さっきからキス、してくれるけど・・・昨日みたいに唇にはキスしてくれねぇの?」
頬を赤らめながら聞いてくるシンくんは初々しくて口元がニヤけてしまいそうだ。出来れば会長の元に帰したくない、これからも僕の側に一緒にいて欲しい。
「意地悪してた、ごめんね」
「・・・性格悪いぞ」
「あはは。じゃあお詫びのキスをしてあげる」
そう言って無防備なシンくんの唇にキスをすると甘くなったコーヒーの味がする。幸せな朝だ、と思っているとシンくんはカップを置いて僕の首に手を回すからそのまま抱き寄せた。
住んでいるマンションから出ると出入り口に黒塗りの外車が停まっていた。
「麻樹様の車だ」
「!」
ーーやっぱり場所が分かるようになっていたか。ーー
車を見てすぐに呟いたシンくんの言葉に僕は僅かに眉を寄せる。後部座席が自動で開いて高そうなスーツを纏った男が出てきた。
ウェーブがかった髪に冷めた眼差しの30代ほどの男は見た目では若く見えるが雰囲気だけで彼が会長本人だと理解する。
周りに人の気配もない。てっきり他の殺し屋を使って僕を殺すつもりかと思っていたから緊張していると会長はシンくんを見るなり早足で近付いて来た。
そして手を動かす動作に咄嗟にシンくんが殴られると思って助けようとしたらシンくん自ら会長に近づいた。
「シン!ああ、シンだ・・・!無事で良かった!」
「わっ」
会長はその場でシンくんを抱き締めて上擦った声で名前を呼ぶ。まるで側から見たら家族の再会を見ているようで、それがやけに『わざとらしく』見えてしまい心臓がバクバクと煩い。
「心配したんだぞ。体の調子が悪いと聞いていたから早く帰って来たら部屋にいなくて・・・でも良かった。ORDERのメンバーに助けてもらったんだな」
「麻樹様・・・俺、」
「怒っていないよ。私がシンの体が良くなるように薬を変えたせいだ。辛い思いをさせてしまいすまなかった」
どこか演技がかった言葉に違和感を抱いたけど、シンくんは「俺もごめんなさい」と謝って会長に抱き着いた。
「君は確か南雲、くんだったね。シンを保護したのが殺連の関係者で良かったよ」
「はい・・・」
「このお礼はまたさせてくれ。さぁ、帰ろうか」
柔らかい笑みを浮かべてお礼を言う姿は殺連の会長にも関わらず物腰が柔らかい。シンくんの頭を撫でて車に乗るように促した会長にシンくんは振り返って僕に近づいた。
「南雲、また連絡する」
「うん。気をつけて」
会長に聞こえない声で囁いたシンくんに軽く頷いて手を握るとシンくんの手は震えていた。名残惜しそうに離れて車に乗り込んだシンくんを引き止めるべきか悩んだけど、会長の護衛にどんな殺し屋が控えているか分からなかったから下手に手を出せなかった。
車が発車して姿が見えなくなるまで見つめてから嫌な胸騒ぎがしたけど、気付かないフリをして反対方向に歩き出した。
目が覚めたら俺は立っていた。
足元には見知った床、これは住んでいる館の床だと思い出していると一面に血の海が広がっている。
顔を上げると俺の知っている館の使用人が死体になって倒れていた。
そして俺が握っているのはナイフだ、両手は血で真っ赤で「ひっ」と声を上げてその場にへたり込むと後ろから足音がする。
「よくやった、シン」
「っ、あさきさま」
後ろから肩を掴まれて耳元で囁いた声に心臓を鷲掴まれた気分だ。
「お、俺、なに、して・・・」
南雲と別れて車に乗り込んでから記憶がない。頭も上手く回らなくて息遣いも浅くなる。
「気にするな。シンが何度も外に出るのを見逃した使えない奴らだった。明日には奴らより優秀な人材が使用人として来るから安心しろ」
「っ」
何度も館から抜け出していたことを麻樹様は知っていた。
もしかしたら最初の梯子で壁から飛び越えたことも知っていたのではないかと察した。同時に、何故麻樹様は知っていながら今まで何も言わなかったのか疑問に残る。
「おいで、シン」
腕を掴んで引っ張られたから立ち上がるといつもの部屋に連れて行かれた。南雲と一緒に過ごしたからか、南雲が住んでいた部屋と比べて冷たくて怖いと感じてしまう。
ベッドに座らされて麻樹様も隣に座って俺を抱き寄せてくる。
「この薬はあまり使いたくなかったが、仕方ないな」
独り言のように呟いた麻樹様が取り出したのは錠剤の薬ではなく注射器だった。引っ張られた腕に針を当てがわれて反射的に逃げようとしたら麻樹様が俺を見つめる。
「どうした、シン。今までどんな薬も飲んできただろう。今日は注射だが、そこまで変わらない」
「え、あ・・・俺、もう、薬飲みたく、ないです」
ーー言えた。ーー
南雲に言われて何で今まで薬を飲んでいるのか分からなくなった。麻樹様に言われたから、言われた通りに薬を飲んでいたけど今みたいに記憶がない内に人殺しをすることも、薬で淫らになることも今となっては怖い。
「なんだって?」
「っ!」
地を這うような低い声だけで恐怖を感じたのは初めてのことだ。こんな麻樹様は初めて見た、初めて麻樹様に恐怖を抱いて体中が震える。
「ああ、きっとあの男のせいだな。あの男が私のシンに変なことを吹き込んで穢したんだ」
「あの男・・・?南雲、のことですか?」
「そうだよ。お前の愛しい、私に隠れて逢引きしていたあの男のことだ」
そう言って頬を撫でる麻樹様に悪寒が走った。逃げなくては、でも体が震えて足がすくむ。
「大丈夫だ。あの男がそそのかしたんだろう?私のシンはこんなことーー」
「俺はっ、モノじゃありません。貴方の美術品、ではなくて・・・ひとりの人間です」
上擦った声で本音を訴えた。思えば今まで麻樹様に俺の本音を、意思を伝えることができた。
ーーこの屋敷を出よう。出たら俺はちゃんと南雲に迷惑にかからないように働いて、幸せに暮らしたい。ーー
南雲が住む部屋を出る手前に「僕と一緒に暮らして欲しい」と言われた言葉が嬉しかった。こんな俺を南雲は愛してくれて、俺を待っている人がいることが嬉しかった。
麻樹様には失望されてしまうかもしれない。それでも俺はもうひとりの人間として南雲と一緒にいたいと思ってしまった。
「お前は誰に拾って貰ったと思っているんだ」
「ぁっ」
注射器の針を腕に刺されて咄嗟に離れようとしたけど麻樹様に骨が折れるくらい腕を掴まれて逃げられなかった。注射器の中身がどんどん体内に入っていく感覚が怖くて息が上がる。
「お前は私のモノだろう」
「っ、違う!俺はにんげーー」
「黙れ」
注射器の中身が全て体内に入っていくのが怖くて震えながらも抵抗しようとしたら麻樹様が頬に平手打ちしてきた。
勢いでシーツに倒れ込むと麻樹様が体に覆い被さってきて平手打ちされてジンジンと痛む頬を撫でてくる。
「私以外の前で簡単に股を開くような尻軽に育てた覚えはない。躾が必要だな、シン」
呆れたようなため息を吐いてネクタイを緩めた麻樹様が頬を撫でていた手を移動して俺の胸元に移った。
ーー南雲、助けて。ーー
目を閉じて思い浮かぶのは南雲の優しい笑顔だった。せめて自我が残っている今のうちは、南雲との思い出を噛み締めていたかった。
南雲がシンに渡した携帯を確認しながら裸で善がるシンを見下ろす。
「随分熱心に連絡を取り合っていたんだな」
「ぁ、ゔ・・・」
「吐き気がするほどの純愛だ」
2人のメッセージのやりとりを見ていると陳腐な恋愛ドラマを観ているような気分になる。シンの腕と首には新しい注射痕が2つ、なかなか言うことを聞かなかったから薬を追加してみると瞳は虚ろでもう喘ぎ声しか出せなくなった。
「あの男とどんなセックスをしたんだ?答えなさい」
「ひっ!ぁ、あっあ゛っ、ぃく、っ〜〜♡!」
軽く腰を揺らしただけでシンの中は敏感に反応して体を痙攣させながら絶頂を迎えた。「答えなさい」と2度目の催促をすると既に新しい洗脳を上書きされたシンは虚ろな瞳で口を開く。
「た、たくさん、んっ、奥、突いて、っもらいました」
「こんなふうに?」
「あ゛っ、う、っ♡はぃ、奥でいっぱいトントンしてって、ぁっ、お願いしました」
涙を流しながら従順に答える姿はもしかしたらまだ僅かに自我が残っているのかもしれない。
「自分から懇願するなんて淫乱だな」
「ん゛っ、あ、あ゛ぁあっ!あさきさま、っ♡」
「それに奥はココ、だろ?」
腰を掴んで根元まで挿れるとS字直腸まで届いてシンの虚ろな瞳が大きく見開く。腰をくねらせ、目先の暴力的な痛みによる快感にシンは涎を垂らす。
「言え、あの男にここまで挿れてもらったのか?」
「は、ぁ、ゔ、っ!挿れられて、ませ、んっ、ぜんりつせん、たくさん、っ、トントンしてもらいました」
震える手で私の腕に触れるシンの瞳はもう私しか捉えていなくて私しか求めていない。
「あの男に何を吹き込まれたんだ?私の可愛いシンに何を言った?」
「あ゛っ、う、なぐも、は、俺のことひとりのにんげん、として好きって、ぁああ゛っ!またイくっ、〜〜っっ」
もう何度も絶頂を迎えた体は精液も吐き出せずにドライで達するようになった。くたびれたシン自身を指に絡めて上下に擦るとシンは泣きながら「あさきさま」と舌足らずな口調で呼ぶ。
「そうか、私のシンにそんな『くだらない』ことを吹き込んだんだな」
「っ、くだらなくなんて、なぃ、です」
「うるさい」
「ぁ゛っ」
やはりまだ自我が残っていたみたいだ。初めて私に歯向かってきたシンに若干の殺意が湧いて片手で首を絞める。
「お前は私の可愛い人形だ。殺しもできる私の性欲処理機の操り人形だ、お前に自我なんて必要ない」
「はっ、ぁ゛」
首を絞める力を込めるとシンの瞳が痙攣した。目先の恐怖と殺気に当てられているのに首を絞められて中を締め付けてくる。
「やはり躾が必要だな」
挿入したまま事前に用意したゴム製の30センチほどの細い管のようなカテーテルを取り出すも目先の快感に夢中になっているから気付いていない。
私に触られて勃起しているシン自身の尿道にカテーテルを押し込むとシンの体がビクンと震えた。
「ひっ・・・ぅっ?」
「暴れると痛くなるから大人しくしなさい」
すぐに違和感を抱いたシンが逃げようと腰をくねらせるから軽く脅すとシンは怯えた表情を浮かべて大人しくなった。
「あさき、さま・・・」
一体何をしているのだ、と疑問を露わにするシンを無視してゆっくりカテーテルを尿道口に押し込むと媚薬で敏感になっているシンは戸惑いながらも甘く喘ぐ。
カテーテルが半分以上入っていくとシンよ反応が次第に快感を拾い始める。尿道の長さは16cm~18cmであって膀胱に接してその出口をとりまくように前立腺が存在している。
上下に動かすと射精に近い快感がいつまでも得られると記憶していたから少しカテーテルを進めるとシンの体が大袈裟なくらい跳ねた。
「ひゃ、ぁ、あ、あ゛っ」
シンにとって未知の快感と恐怖に首を振りながら子供みたいに嫌々するから優しく頭を撫でてやりながら刺激を与える。
「あさきさまっ、やだ、これ・・・っ」
「気持ちいいだろ?南雲にも同じことをして貰うか?」
「っ」
南雲、と聞いたシンは無意識なのか中を締め付けてきた。やはりまだ自我は失っていない、それなら壊した方が扱いやすいなと判断するとちょうどエスパーを使って私の心を読んでいたシンの表情が恐怖に染まる。
「私の可愛いシン、もっと淫らな姿を私にだけ見せなさい」
「あ゛っ!ぁ、ゔ、っ、あさきさま、怖い、ッ、イく、っあ、っ〜〜っ♡」
執拗にカテーテルを動かして尿道を攻めながら律動を始めると接合部からぐちゅ、といやらしい音が聞こえた。
カテーテルを入れられているなら射精できないシンはまたドライで絶頂を迎えて涙を流しながら「なぐも」と愛しい恋人のように名前を呼んだ。
「ちょうどいい。その南雲にお前がどれだけ淫乱か見てもらおう」
南雲がシンに渡した携帯を操作して動画撮影モードにして陰茎が挿入されて尿道もカテーテルに入れられている姿を映す。
「今すぐ私に服従を誓え。そうすればこの動画は南雲に送らないでやる」
「っ」
媚薬で犯された頭でも理解できたのか、シンはまた涙を流すから腰を揺さぶると甘く喘ぐ。
「っ、ぁ♡あさき、さま、好き・・・」
「私もだよ、シン」
「麻樹さまとのエッチ、気持ち良くて、んっ♡だいしゅき、です」
音を立ててシンの心が壊れていく様を見ているみたいで興奮する。完全に自我を捨て、私に服従するシンはもうこの薬なしでのセックスは満たされないだろう。
そして南雲との甘いだけのセックスではシンの体は満たせないことを確信して更に激しくピストンを繰り返す。
「ぁ、っ、あっ、あ゛っ!あさきさま、また、イッちゃいます、んっ、気持ちいいです♡」
「可愛いね、シン。ご褒美に沢山イくといい」
すっかり快感の虜になったシンは腰を浮かせてきたからカテーテルをゆっくり引き抜くと同時に陰茎を奥に突くと悲鳴に近い声を上げてシンは絶頂を迎える。
ドライで絶頂を迎えていたシン自身から勢いよく精液が飛び立って新しく仕立てたばかりのスーツにかかるが、そんなことは今はどうでも良かった。
シンの膝裏を掴んで体を屈めて激しいピストンを繰り返すと達したばかりのシンからは呻き声に近い声が漏れる。
近付いてキスするとシン自らが舌を出して求めてきたから完全に南雲のことを忘れている様子のシンに口角が上がった。
この様子も携帯には撮影されているから後で上手く撮れているか観てみよう。
「可愛いシン、沢山ナカに出してやるからな」
「ひっ、あ、あ゛っ!あさきさま、苦しい、も、っ、イきたくなぃ、んっ」
舌を絡めるとシンの意識は更に朦朧として目の前の私に縋るように背中に手を回す。
そうだ、お前には最初から私しかいなかったんだ。あの男はお前をそそのかすために優しくしたんだ、と心の声を読ませるとエスパーで読み取ったシンの瞳がトロンと虚ろに戻る。
枕元に置いた未開封の真空パックされた注射器を取り出してシンの首元に刺すも快感でどうにかなっているから気付いていない。
「シン、出すぞ・・・っ」
「〜〜っ♡」
最奥で絶頂を迎えるとシンの体が痙攣する。中に射精される感覚さえ気持ちいいのか、私にしがみついたシンは夢中でキスをしてきた。
「は、ぅ・・・麻樹さま、好き・・・♡」
「良かった、いい子のシンが戻って来てくれたんだね。怖い思いをさせてすまなかった、これからはお前を甘やかすだけのセックスをしてあげよう」
完全に洗脳されたシンはもう南雲を想うことはないだろう。優しく頬を撫でてキスをするとシンは頬を赤らめて「はい・・・♡」と虚ろな瞳のまま微笑んだから私は小さく笑って2度目のセックスを再開した。
シンくんが会長と帰ってから3日間、連絡もなくて正直生きた心地はしなかった。
てっきり会長が隠していたシンくんの存在を知ってしまった僕は暗殺されるんじゃないかと警戒していたけど刺客らしい人物も現れないから余計に妙だった。
屋敷に訪れてシンくんの様子を聞くことも出来ず悶々と過ごしていると僕がシンくんに渡した携帯番号から電話がかかってきた。
「っシンくん」
自然と声が上擦ってしまった。もしかしたら僕のせいでシンくんが会長に殺されてしまったんじゃないかと思っていたほどだったから電話がかかってきて心底安堵した。
『ーー南雲、連絡できなくてごめんな』
「いいよ。それより電話してきて大丈夫なの?」
電話越しからの気配を読もうとするけど、なかなか集中できない。非常に僕らしくなくてシンくんの声が聞けて嬉しくて全てどうでも良くなる。
『今は平気。なぁ・・・南雲の部屋にネックレス、忘れてたんだけど』
「あ、うん。そうだね」
寝室に置きっぱなしにしたシンくんが身に付けていたネックレスの存在を思い出した。性行為の時に僕が外してシンくんに渡すのをすっかり忘れていた。
『麻樹様に失くしたこと怒られたんだ。だから今から会って返してもらえないか・・・それに南雲に今すごく会いたいんだ』
「シンくん・・・」
上擦った震えた声は聞き覚えがある。僕は今すぐシンくんを抱き締めてあげたい衝動を抑えながら「わかった」と呟く。
軽く会話をして待ち合わせの場所を決めてから電話を切って僕は今まで息をしていたのを忘れていたんじゃないかと思うほど深く息を吐く。
「ーー行くか」
愛しいシンくんに会いたい。会って自分には何もしてあげられなかった、そしてシンくんを連れてこれから会長も何もかも裏切ってどこか遠くに行こうと決心する。
ーー僕がシンくんを助ける方法はこれしかないんだ。ーー
寝室に放置したネックレスを上着のポケットに入れて、サイドテーブルの引き出しに隠しておいた真空パックされた注射器も一緒にポケットに突っ込んで寝室を出た。
電話を切られたあと、携帯をシンの耳から離すもぼんやりとした様子のシンを見て頬にキスを落とす。
「良くやった。後は南雲を殺すだけだ」
「・・・はい」
銃をシンに持たせて抱き寄せると簡単に引き寄せられたシンは完全に私の従順な操り人形と化した。
「南雲を殺したらもう私とシンを邪魔する者はいなくなる。その時はご褒美をあげよう」
陶器のような滑らかな頬を撫でてから手を滑らせて注射痕だらけの首筋を撫でる。
「ひとりで行けるか?ああ・・・でも私の可愛いシンが少しの間でも離れてしまうのがとても悲しいよ」
心を壊されたシンを抱き締めながら、そんな三文芝居を打つもシンは「麻樹様」と私に体を傾けてきた。
「ご褒美のために、俺・・・がんばります」
「いい子だね。でも相手はORDERだ、一度お前に惚れた相手でも油断はするなよ」
「はい」
素直に、従順に私だけを見つめる姿に支配欲が満たされる。壁に掛かった時刻を確認してからシンの無防備な唇にキスをすると、すぐにトロンと蕩けた表情に変わったから薄く口角を上げてシーツに押し倒した。