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アイスバース
アイスとは
体温が生まれつき低くジュースと好き、というと溶けてしまう。
ジュースとは
アイスと好き、というとアイスを溶かしてしまう。
故に罪悪感があり悩まされる。
繰り返している。
このオチを。
言葉にならないため息が洩れる。
理由は会社のクソ上司に残業を頼まれたから。
しかもサービス残業。
せめて金を稼がせてくれよと思う。
いつもはこんなにイラつかない。
でも俺がイラついているのはパートナーで同居している海斗が今日誕生日だからだ。
俺たちの間に愛が無いのはわかっている。
それでも誕生日くらいは祝うものだろうと俺は考える。
海斗の誕生日プレゼントはペンにした。
名前も彫って。
早く渡したいのに仕事は全然終わらない。
どんどんと時が進んでいく。
あぁ、零時になってしまった。
そして二十五時になる頃にやっと仕事が片付いた。
早く帰らないと。
会社から走って家へ向かう。
海斗はプレゼントを見て気味が悪いと言うかな。
それでもいいや。
海斗は新しい男でも作ったからこんなにも愛は無いのかな。
俺たちの間に最初から愛なんてなかったじゃないか。
パートナーは友達みたいなものだと海斗は思っているのか。
頭の中でグルグル考えが渦巻く。
息切れが俺の思考が邪魔した。
それでも海斗のためになるならと急ぐ。
少し重いドアを開けて家の中へ行く。
寝ているのか、と思っていたが海斗は起きていた。
でも海斗は。
海斗は。
人を殺していた。
キッチンの床で転がる男と海斗。
男は包丁で刺されたみたいで息はもう無かった。
とにかく海斗は混乱していた。
それでも俺は冷静だった。
だから俺は海に信じ込ませた。
海が殺したのではない、と。
俺が殺したのだと。
海斗はすぐ信じた。
これで一つの問題が片付いた。
あとはこの男だ。
どう処理するか…?
いっそのこと海に投げ捨てる。
そうするか。
部屋をしっかり片付けてから俺たちは岬に行った。
車はいつも海斗が運転するが今は俺が運転した。
残酷なほど星は綺麗だった。
パートナーが人を殺したっていうのに清々しい気持ちになった。
どうにかこうにか男の入ったキャリーバッグを海のそばまで持ってきた。
そして俺は海斗に言った。
俺は飛び降りる、と。
理由は自分の近くに人を殺した奴がいたらいやだろうからだ。
海斗は俺が殺したと信じ込んでいるため多分大丈夫だ。
でも海斗の返答は意外なものだった。
おれも飛び降りる、と言ってきた。
驚いたが海斗がそうしたいのなら俺は止めない。
話をした後まずキャリーバッグを落とした。
あとは俺たちが飛び降りるだけだ。
あまり恐くなく少し楽しみだ。
手を繋いで飛び降りた。
海斗は少し不安な表情をしていた。
それでも花が咲き乱れたように今までのことがフラッシュバックしてきた。
初めて出会った日。
なんだか惹かれあっていたね。
友達になれた日。
嬉しかったな。
初めてキスした日。
あれはもう事故だったね。
初めて身体を重ねた日。
俺の手で善がる海斗は可愛かったよ。
最後に身体を重ねた日。
相変わらず海斗は小さい腰で頑張っていたね。
そして俺は海斗のことが好きだ。
海斗はそう思っていないだろうけど。
それでも良かった。
伝えたかった。
ただ一言だけ。
この気持ちに偽りは無い。
「好きだよ」
そう零してしまってからはもう遅い。
一緒に落ちて死ぬと思っていた海斗が溶けていく。
溶けるのが速い。
でも海斗は最後の力を振り絞ってキスをしてくれた。
まるで先に逝くのを惜しむように。
「おれも好きだよ」
海斗は最後にそう言ってから溶けた。
俺の心は満たされて手には海斗の温もりが残っていた。
俺は自分がジュースだということに気がついた。
そして海斗はアイスだったということも。
それでも海斗の温もりを残したまま。
俺は海斗を追いかけるように落ちていった。
「次のニュースです。先程ーー岬にて男性が飛び降りました。
男性はすぐに病院に運ばれましたが死亡しました。」
ニュースでは心中したと伝えられなかった。
心中したのは彼らだけの真実なのかもしれない。
それでも彼らはきっと生まれ変わる。
ハッピーエンドを迎えるために。
きっとそれは無理な話だ。
それは分かっているが。
この二人に幸せになって欲しい。
そう思うのは罪なのだろうか。