テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
K「はわー、大きいねー」
主は馬車の窓からグロバナー本家の屋敷を見ていた。
新しい主とその保護者が現れたと聞いたフィンレイは、ようやく憎たらしい前任がいなくなって清々していたのに、と少しの怒りを覚えながら即座に呼び出した。
また碌でもない主だったらすぐ処刑してやろうと考えて、連行するための手筈と処刑人の予約まできっちりしていた。
さぁどうしてやろうかと馬車を目で追い、ルカスが降りてきてエスコートする人間を凝視した。
ありとあらゆる考えがフィンレイの頭の中にごちゃ混ぜになるが、あまりにも小さいローブの人影がぴょんっと降りてきて目を疑った。
いやきっと見間違えだろう。
考えすぎて目が疲れたのだ。きっと。
「悪魔執事の主が参りました」
🎩「よし、通せ」
「はっ」
今度はこそマトモな主であることを願って、扉を見つめる。
🍷「失礼いたします」
KNB「「「失礼します」」」
4人が部屋に入ってくる。
が、やはり一人だけ小さすぎる。
🎩「…その子供と見覚えのない二人は?」
🍷「新しい主のケイ様とそのお兄様方です」
B「お初にお目にかかります、フィンレイ様。私がブラン、片割れがノワールと申します」
N「どうも」
K「主になりました、ケイです!」
三人がそれぞれ頭を下げると、フィンレイは長く息を吐いた。
その様子に、ルカスの笑顔が引き攣る。
ルカスは前任の主がフィンレイに対して自分の上に立つものが居るのは気に入らないだとか、依頼は執事達だけで済ませられるものじゃないと嫌だとか言いやがったので、かなりキツくフィンレイから注意を受けていた。
気に入られなかったらどうしようか。
ルカスはそれだけが心配だった。
🎩「……ふぅ……まず、聞いておきたいのだが…悪魔執事の主…」
K「はいっ」
🎩「ちゃんと仕事をする気はあるかな?」
K「一生懸命頑張ります!!」
🎩「そうか、なら良い。…では、保護者の二人」
NB「「はい」」
🎩「依頼の達成のため尽力すると誓えるかい?」
NB「「はい、誓います」」
とりあえずはちゃんと働いてくれそうな主と保護者だったので、フィンレイは肩の力を抜いた。
ルカスはそれを見てこっそりと冷や汗を拭った。
何事もなくて良かった。二人の気持ちは奇しくも同じだった。
ルカスはあちこちよそ見をして真っ直ぐ歩かない主を誘導しながら馬車に戻り、ようやく落ち着いた。
ふかふかの座席に座り、魂まで抜けるような溜息をつく。
しかし主は全く気にする素振りもなく、自分を挟むように座った兄弟に楽しそうに話しかけていた。
K「あのフィンレイ様って割といい人そうだったね!」
B「どうかな…あまり信用しすぎてはいけないと思うよ。
長年交渉をやっている人なんだから、自分に利がないと判断したら割とすぐ切り捨てそうだし」
N「警備もやけに厳重だったしな…俺たちのことを警戒していたのかも知れないぞ」
主はむー…と考え込み、ルカスの顔を覗き込んだ。
K「ルカス大丈夫?今日の顔合わせ、フィンレイ様だけでよかったね」
🍷「え、えぇ、大丈夫です…
ですが、パーティーで顔合わせとなると少々面倒なこともあるかと存じます…」
そう、他の貴族との顔合わせはパーティーですることになったのだった。
主は全く怖気づくような様子もなく、へー、と興味なさそうに返事をした。
N「パーティーとか面倒すぎんだろ…」
B「そう?コネを作るには絶好の機会だよ?」
主はともかくブランが頑張ってくれるようなので、案外何とかなるのではないか、という淡い期待がルカスの中に浮かぶ。
しかし、貴族たちに「何もしない主」と思われてもまた厄介だし…と一人頭を抱えていた。
パーティーとなると、衣装が必要だ。
フルーレは可愛らしい主のため必死に考えたデザイン画を抱えて主の部屋をノックした。
K「はーい!どうぞー!」
よく通る可愛い声で入室を許可され、ついてきたラトと一緒に入った。
🪡「失礼いたします、主様。今度のパーティーの衣装のことでご相談があって参りました」
フルーレは声が震えそうになるのを必死に堪えて主に用件を伝える。
K「そうなんだ。フルーレ大丈夫?座って話そ?」
ガチガチに緊張しているフルーレの手を取り、主はテーブルセットまで導く。
ノワールとブランがまるで執事のように椅子を引き、二人を座らせた。
ラトは入り口に立ったまま主とフルーレを見守っている。
🪡「ぁ、あの…主様はどのようなデザインがお好みでしょうか…?」
フルーレは震える手でデザイン画を広げて見せる。
K「えーっすごい!これ全部フルーレが描いたの!?」
主はフルーレのデザイン画を見て驚いていた。
🪡「は、はい…」
K「全部可愛いーっ!!」
🪡「!ありがとうございますっ」
フルーレは主に褒めてもらったことで、ようやく緊張が解れてきた。
前任の主に出した案を全て否定され、貶され、センスがない、向いてない、と散々罵倒されたのがトラウマで酷く緊張していたが、主が素直な感想を伝えてくれたことでその呪縛から解放されたのだった。
きゃっきゃっと話で盛り上がっているフルーレとケイティ。
それを見守る兄弟。
そしてそれを窓枠に座って眺めるラト。
ラトはまたフルーレが傷つけられるのではないかと心配してついてきたのだが、杞憂に終わってしまった。
ラトは前任に反抗したということで拘束室に閉じ込められ、暴力を振るわれた過去がある。
前任への恨みはまだ根深いのだ。
新しい主がもしまた大切なフルーレを傷つけるような奴であれば今度こそ自分が守らなくては、と決意してついてきたものの、二人は楽しそうに話し続けているし、兄弟は何もせずに立っているだけ。
暇だ。欠伸が止まらない。
何度目かの大きな欠伸をしていると、兄弟がラトの方に歩いてきた。
❤️🩹「…なんですか?」
N「いや、暇だからさ」
❤️🩹「…暇、ですね…」
B「よければ少し話しませんか?兄として」
❤️🩹「兄として…ですか…」
ラトとしては、兄弟には特に興味はなかった。
しかし、フルーレの兄として話そうと言われると少々心が動く。
退屈しのぎにはなりそうだし、話しても良いのではないかと判断し、頷いた。
B「ラト君はフルーレ君のこと、とても大事にしてるよね」
❤️🩹「はい、大切な弟ですから」
N「俺らもケイトのことは大切に思ってるから、気持ちはわかる」
❤️🩹「…そうかもしれません」
ラトはようやく少し笑った。
❤️🩹「くふふ…同じ気持ちの人と出会えるなんて不思議な気分です」
B「そうだね、でも不快ではないでしょう?」
N「俺たち、仲良くできそうじゃねぇか?」
❤️🩹「仲良く…ですか…?」
首をかしげるラトに、ノワールはニヤリと笑って見せた。
N「なぁ、ラト。あんた強そうだよな。ちょっと身体動かすなんてどうだ?」
❤️🩹「そういうことでしたら、行きましょう」
ラトは模擬戦の相手ができたことを素直に喜び、好戦的な目で兄弟を見た。
B「待って、僕そういうの向いてないって。パス!」
しかし、戦闘能力に自信があるわけではないブランは両手を振って拒否した。
❤️🩹「そうですか…残念です…」
ラトは少々興が削がれたような表情をするが、ノワールに肩を叩かれてすぐ気持ちを切り替えたようだ。
N「さ、行こうぜ」
ノワールとラトは庭に出ていき、お互い素手での戦いをするように決めたらしい。
二人の無駄のない動きの組み手を眺めながらブランは羨ましそうに呟いた。
B「ノワールってば楽しそう。あーあ、僕もチェスの相手とか探しに行こうかなぁ」
ブランは頭脳戦が得意そうなユーハンやルカスなどに声をかけようかなと考えながら部屋を出た。
デザインがまとまり、衣装を作る段階になってからは早かった。
フルーレの力を解放すると、フルーレは瞬く間にドレスを縫い上げていく。
K「すごーい!」
🪡「へへっ、ありがとうございます!」
人見知りのはずのフルーレだが、ドレスのこととなれば話は別。
いつの間にかケイティと打ち解けて楽しそうに話しながらドレスを完成させた。
そして、パーティー当日。
フルーレが仕立てたドレスを身に纏った主はまるでお人形のように可愛らしかった。
可愛い可愛いと執事たちや兄達から褒められて上機嫌な主は意気揚々と馬車に乗り込む。
ルカスも気合を入れてローブを羽織り、馬車に乗った。
ルカスは幼い主に向けられるであろう白い目や悪意のこもった言葉の数々を心配していた。
どうか、この可愛い笑顔が曇りませんように。
そう願いながらの出立だった。
しかし、主が会場に姿を見せた瞬間、貴族たちの見る目が一瞬で変わっていくのが分かった。
更に主に深々と頭を下げ、道を開け、跪く者まで現れた。
🍷(これは一体…まさか!?)
ルカスには一つだけ心当たりがあった。
それは馬車の中でのこと…
シュッシュッ…
B「なにそれ?香水?」
K「うん、いい匂いでしょ?」
N「馬車の中に籠もるから外で着けろよ…」
K「駄目。匂いに慣れてもらわないと困るから」
主が首元に振っていた香水。
その匂いが会場中に広がっていたのだ。
『あぁ…美しい主様…』
『主様に尽くしたい…』
『まぁ、手を振ってくださったわ!』
『こちらに笑いかけてくださったわ!』
『あぁ、なんて素敵なの…』
匂いを嗅いだ人間がどんどん主に心酔してゆく。
主はたくさんの貴族たちが頭を下げる中、小瓶を片手にゆっくりと歩いていく。
たまにシュッと自分に香水を振りかけるたび、会場中に広がった甘い香りが強くなっていく。
主は会場を縦断し、階段を登ってギャラリーまで進んでいった。
ルカスはハンカチで口元を覆い、別の馬車で来た執事たちを探した。
ラムリはまるで神様にでも会ったように目を見開いたまま涙を流していた。
ナックはその隣で主の美しさ、素晴らしさを延々と語り、他の執事たちは恋する乙女のように顔を紅く染めてうっとりと主を見上げていた。
主がギャラリーから手を振ると、まるでアイドルが手を振ったかのように黄色い悲鳴が会場中に木霊した。
『主様ー!!!主様ー!!!』
執事たちまで主に手を振ってもらった幸福に酔いしれ、涙を流しながら主を声の限り呼び続けていた。
香水の香りに乗せた魔力が全体に行き渡ったことを確かめたケイティは満足そうに笑った。
使った魔法は気分を高揚させる魔法と、魅了の魔法だけ。
耐性がないとはいえ見事に酔っ払った貴族たちにケイティは従属の魔法を詠唱して聞かせてやる。
一つ一つ丁寧に発音される可憐な声に、聴衆はうっとりと聞き惚れた。
K「これで皆さんは私に従属することになります!さぁ、契約書にサインを!」
『契約書にサインを!!!』
その瞬間、紙の束を抱えたノワールとブランが紙をばら撒き始める。
それは従属を受け入れるという契約書。
気分が高揚し、サインをしなくてはいけないと思い込んだ貴族たちは我先にと紙を奪い合い、サインをした。
ルカスはその紙にサインをしようとしているミヤジを見つけて慌てて紙を取り上げた。
🕯️「…何をする」
🍷「ミヤジ!目を覚ましてくれ!頼む!」
こんなにも取り乱すルカスは珍しいと思ったミヤジはとりあえず人の少ない場所で話そうと言った。
二人はバルコニーに向かうと、ルカスはミヤジの両肩に手を置き必死で説得した。
🍷「ミヤジ!今君はおかしいんだよ!あんなのにサインしてはいけない!」
🕯️「ルカス…煩いぞ。主様がサインをと言ったのだから従わなくては」
🍷「内容をよく見てから言ってくれ!」
ルカスは握り潰した契約書のシワを伸ばしてミヤジに見せる。
🕯️「ふむ…これは…!?」
バルコニーに吹く風のおかげで香りから解放されたミヤジはようやく自分が何をしようとしていたのか気づいた。
それは主に無条件で従うという内容で、違反した場合は命をもって償うという条件付きだった。
🕯️「これは…主様はこれにサインしろと…?」
ミヤジは会場中にばら撒かれている契約書を取り合う貴族たちを見て身震いした。
こんな恐ろしい光景はない。
その中心で愛らしい人形のように微笑みながら手を振っている主を心底恐ろしいと感じた…。
K「…538!どうかな?」
B「うん、名簿に載っていた主要な貴族のサインもあったし上々でしょ」
N「8割以上の貴族がサインしたことになるのか?」
帰りの馬車の中、ケイティは契約書の数を数え、ブランが内訳を作っていた。
中央の大地の主要な貴族たちのほとんどと契約ができたことに満足し、ケイティは歌でも歌い出しそうなほどご機嫌だ。
K「これでお金もモノも困ることはないねっ!
私よくやったでしょ?ねぇルカス」
🍷「え…えぇ、そう…ですね…」
いきなり話を振られ、ルカスは慌てて返事をした。
K「ふふっ、心配しなくても執事の皆の分は燃やすから大丈夫よ」
不安なルカスの心を見透かすようにケイティは笑った。
N「そんなに不安ならアンタが燃やしてもいいぜ?」
ルカスに10枚ほどの紙が渡される。
それはどれも執事たちの名前が書かれた契約書だった。
ルカスはそれを大切に握りしめて、馬車の中から屋敷までの道をちらりと見た。
ぼう、と音を立てて紙は一瞬で炭と化す。
屋敷に着くなり自室の暖炉に火を入れて契約書を燃やしたルカスはやっと安堵の息をついた。
🕯️「ルカス…」
🍷「大丈夫…これで契約はなかったことになる…」
まるで自分に言い聞かせるように呟いたルカスの肩をミヤジが優しく叩く。
🍷「ミヤジ、主様のことを信用して良いと思うかい?」
🕯️「私は……私は……信用、したい……
主様はきっと…我々のためにしてくれたんだと…思いたい……」
🍷「ミヤジ……」
二人は答えが出せないまま互いの名を呼び合っていた…
おまけ 弊害
🔑「貴族の方の献金のおかげで修繕費も潤沢にありますね!」
🌟「でもさー、主様に一目でいいから会いたいって貴族が毎日毎日来てうざいんだけどー…」
🍽️「はぁー、買い出しに行っただけなのに主様への手紙いっぱい預かっちまった…」
⚔️「俺もだ…」
『ひと目だけ!遠くから見るだけでも!!』
🌹「うげー…花壇踏まれてるっす…」
🦾「煩くて昼寝もできねぇ…」
☔「お引き取りください!お引き取りください!」
🧸「主様はコチラにはいらっしゃいませんってば!」
N「お前、どんな魔法使ったんだ?」
K「おかしいなぁ…軽い魅了くらいのはず…」
B「落ち着かせることってできないの?」
K「えー……あ、命令すれば良いのか!」
ケイティが窓を開けて外を見ると、大勢の貴族たちが窓に向かって手を振り声の限り主を呼んだ。
『主様だ!!主様ーー!!』
屋敷が揺れるほど大きな歓声が上がり、ケイティはちょっと怖くなった。
しかし、大きく息を吸い込んで言葉を伝える。
K「みんなーーーっ!!!真面目に働きなさい!!!命令!!!」
その瞬間、歓声がピタリと止んで貴族たちはそそくさと馬車に乗り込んで帰っていった。
それから汚職事件や横領事件が劇的に減り、とてもクリーンな運営が行われるようになったという。
フィンレイは仕事が減って主に感謝した。
10
MAKO
龍
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!