テラーノベル
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新沼晴永と藤井田千紗の婚約解消の記者会見以来、社内を騒がせていた話題もようやく少しずつ落ち着きを見せ始めていた。
「かんぱーい!」
ガヤガヤと騒がしい居酒屋の個室で、カチン、と三つのグラスがぶつかった。
「いやー、やっと飲めたねぇ」
生ビールのジョッキを置きながら、木嶋悦子が満足そうに息を吐く。
「本当だよぉー。なかなかみんなの予定が合わなかったもんね」
「いや、みんなっちゅーか、誰かさんが忙しかっただけだろ」
ジョッキ越し、日下仁人に苦笑されて、小笹瑠璃香はキョトンとして自分を指さした。
「えっ、私?」
「他に誰がいんだよ」
「でも、私だけじゃないでしょ。日下だって忙しいって言ってたじゃん」
「俺は普通。お前は普通じゃねぇーだろ」
「えー。何それ」
瑠璃香がぷぅっと頬を膨らませて見せると、
「だって瑠璃香、全然違う畑に異動したじゃない。覚えることが多すぎて、毎日残業続きだってぼやいてたじゃない」
悦子がすかさず口を挟んでくる。
「あー……」
(やっぱりその話になるよね)
覚悟はしていたけれど、乾杯してまだそれほど経っていない。
「まさか小笹が秘書課とはな」
「しかも新沼社長補佐の専属秘書でしょ?」
「うん」
正式な人事発令が出てからというもの、この数日は何度同じことを言われただろう。
企画部企画宣伝課から、総務部秘書課へ。
しかも、ただ秘書課へ異動するだけではない。
少し前に社長補佐へ就任したばかりの新沼社長補佐の専属秘書。
そんな異例の人事が出れば、社内で話題にならないはずがなかった。
「私も打診された時はびっくりしたよ」
「そりゃそうだろ。今まで秘書やってたわけでもねぇのに」
「やっぱりそう思うよねー」
唯一〝これが理由かも?〟と皆が思えることがあるとすれば、元々企画宣伝課で課長をやっていた晴永と瑠璃香が、旧部署では席が近く、割と言いたいことを言い合える〝風通しのいい関係〟だったということくらい。
「そうだよー。私だったら絶対無理。顔見知りの新沼社長補佐はともかくとして、社長とか副社長とかがいるフロアで仕事するだなんて……考えただけで胃が痛くなりそう」
「木嶋は普段から態度でけぇから案外平気なんじゃね?」
「何ですって?」
「ほら、そういうとこ」
「ホント、あんたって辛辣で腹立つー!」
「お褒め頂き、光栄です」
「褒めてない!」
瑠璃香は仁人が〝わざとらしく〟悦子のことを「木嶋」と呼んだことに少しだけ首を傾げてから、悦子をちらりと見た。
悦子は瑠璃香の視線に視線だけで『まだ彼には瑠璃香にバレてるの、言えていないの』と訴えてきた。
(そっか)
瑠璃香は悦子の表情に心の中で一人納得すると、彼らが関係性を打ち明けてくれるまで知らないふりをしようと心に決める。
ひとしきり言い合いする同期の二人を眺めていたら、
「そういやーさぁ」
焼き鳥の皿へ手を伸ばしかけていた仁人が、不意にその動きを止めて瑠璃香を見つめてきた。
「ん?」
ビールをこくんと飲んで視線を仁人へ向けたら、
「……前に社長秘書と一緒にいたじゃん?」
「え?」
「ほら。エレベーターんトコですれ違った時」
「あ……」
言われて、すぐに思い出した。
「藤代さんと一緒だったとき?」
「そうそう」
「ねぇ、瑠璃香。あれって……やっぱり」
悦子も仁人からその話を聞いたのを思い出したらしく、話に入ってくる。
そもそもそれがあったから、悦子から瑠璃香に電話があって……大分時間はかかってしまったが、今日こうやって同期飲みをすることになったのだ。
「……人事異動の件での呼び出しだったの?」
悦子に続けられて、瑠璃香は小さく頷いた。
「……うん。そう」
「そっか。そうなんだー。仁……日下から聞かされた時『なんで?』って思って瑠璃香に電話しちゃったけど……なんか納得」
悦子がふふっと笑う。
「俺さぁ、なんで小笹が社長秘書と一緒なんだろ? ってすっげぇ疑問だったんだ」
「ごめんね。あの時はまだ誰にも話せなかったから」
「そりゃ仕方ねぇよ。正式発表前だったんだし」
仁人はそう言ってくれながらも、まだ何か引っ掛かっているような顔をしていた。
「でもさ、小笹。ぶっちゃけ秘書なんて大変じゃねぇの? そもそも企画宣伝課と業務内容が違いすぎる」
「うん。私もそう思う」
「だったらなんで……」
「藤代さんがね、私の仕事への取り組み方とか……そういうのを評価して社長や副社長と相談して〝私に〟って白羽の矢を立ててくださったっておっしゃったの」
「マジか……」
「うん。多分……晴……新沼社長補佐と面識があったって言うのも大きいとは思う」
「確かに瑠璃香と新沼さんって……割れ鍋に綴じ蓋って印象ではあったけど……」
悦子の言葉に、瑠璃香は一瞬ドキッとさせられてしまう。
だってそれは……。
#極道
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月詠 涼
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コメント
2件
いい雰囲気! ところでその諺って確か…🤭
わあ〜第138話お疲れ様です!!🌸 同期飲みいいですね〜!🥺✨ 瑠璃香ちゃんの異動の理由がちょっとずつ明かされていく感じ、じわじワ〜って来ますね。悦子の「割れ鍋に綴じ蓋」発言に瑠璃香がドキッとするところ、何かあるのかな⁉️ って期待が膨らみます…! 仁人くんと悦子の関係性を察してるのに知らないふりする瑠璃香の優しさも大好きです😭💕 続きめっちゃ気になる〜!!