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#独占欲
帝都の空は、新しい時代の幕開けを祝福するような
どこまでも澄み渡るクリスタルブルーに染まっていた。
◆◇◆◇
即位式当日───
王宮のバルコニーを埋め尽くした数万の民衆の前に立つレオ様は、まさに理想の君主そのものだった。
黄金の冠を戴き、眩いばかりの光を背負って微笑むその姿は
かつて私が契約を結んだ「陽だまりの皇子」が
名実ともに本物の「陽だまりの皇帝」へと昇華した瞬間でもあった。
「……皆の者、共にこの国の未来を歩もう。君たちの幸せこそが、私の誇りだ」
彼の朗々とした、温かい声が広場に響き渡るたび
花吹雪が舞い、地鳴りのような歓声が上がる。
隣に立つ私もまた
幸せに満ちた皇后の微笑みを浮かべ、彼の歩幅に合わせて優雅にドレスの裾を翻していた。
しかし、式典の合間
重厚な扉に閉ざされた貴賓用の控室に逃げ込んだ、その刹那───
周囲の目が消えた瞬間、彼の「仮面」は甘く蕩けるような熱を帯びて剥がれ落ちた。
「……ああ、ようやく二人きりだ。一秒も、君に触れずにいるのは拷問に近いよ、ローラ」
扉を閉めるなり、レオ様は皇帝としての威厳を脱ぎ捨て、私を背後から包み込むように抱きしめた。
首筋に寄せられた彼の鼻先から、熱い吐息が漏れる。
「レ、レオ様……!? お気を確かに。まだこれから祝賀パレードがあるのですよ。そんなに甘えていては、髪が乱れてしまいますわ」
私が顔を赤らめて嗜めようとしても
彼は私の耳たぶに柔らかな口づけを落とし、うっとりとした声で囁いた。
「いいんだ。パレードの群衆に見せる笑顔より、君の一瞬の微笑みの方が、僕にとっては価値がある」
「……さっき、隣国の公使が君の手を握った時、嫉妬で胸が焼けそうだった。……ねえ、ローラ。早く僕だけのものだと、その可愛い唇で証明してくれないかい?」
私の膝の上で、彼はまるで最愛の飼い主に甘える大型犬のように
あるいは愛しい宝物を慈しむ少年のように、私の腰を優しく
けれど離さないという確かな力で抱き寄せた。
国民の前で見せるあの完璧な微笑みの裏側で
彼はこれほどまでに甘く、そして狂おしいほどの情熱を私だけに注いでいたのだ。
「……陛下は、本当に困った甘えん坊でいらっしゃいますね」
「甘えん坊で結構だよ。……僕は君の愛がなければ、この広い王宮で道を見失ってしまう」
「君が隣にいてくれるから、僕は初めて『皇帝』でいられるんだ。君は僕の命の光であり、すべてなんだよ」
見上げた彼の瞳は、琥珀色の奥に蕩けるような甘い慈しみと、深い愛情を隠そうともしていなかった。
かつては「ビジネス」という言葉で線を引いていたけれど
今、私が彼の頬にそっと手を添え、愛おしそうに見つめるのは、契約上の義務などではない。
「……私も、同じですよ。あなたが私を見つけ、愛してくださったから、今の私がいるんですから…」
私がそう囁き、彼の唇にそっと自分から触れると
レオ様は満足そうに目を細め、私の指先の一つ一つに深く、愛を刻むように口づけを落とした。
「契約書は、あの日暖炉で燃やしたね。……でも、代わりに僕が君の指に贈った指輪は、一生消えないよ」
「ええ…ずっと大事にしますね」
「嬉しい…君を幸せにすることだけが、僕に残された唯一の『契約』だからね」
パレードの開始を告げる鐘の音が、遠くで華やかに響き渡る。
私たちは再び、完璧な「皇帝」と「皇后」として大衆の前に戻っていくだろう。
けれど、その重厚な衣装の下で繋がれた手と手は
二度と離れることのない、優しくも強い愛の魔法で結ばれていた。
その夜
祝祭の篝火が消え、静寂が支配する寝室で
私たちは初めて「契約」でも「演技」でもない
魂のすべてを預け合う本当の夫婦としての時間を迎えた。
新婚の初夜を照らすのは、窓から差し込む銀色の月明かりと、互いの瞳に映る隠しきれない情熱。
「ビジネス」から始まった二人の嘘は
いつしか命よりも甘い「永遠の愛」へと形を変え
私たちは溶け合うように、初めての本物の接吻を交わし、身体を重ね合ったのだった。
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