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御自宅を訪れて、華さんが淹れてくれた美味しいお茶を味わっていると、
「今日は、長野の方にでも行かないか?」
蓮水さんが、急にそんな話を切り出した。
「……長野って、もしかして山道を走りたいと……」
まさか今日はそういうつもりでと思いつつ、上目遣いに彼の顔を窺った。
「ああ、いいだろう?」
懇願するようにも言われて、「ですが……、」と、言いよどむ。
きっと気落ちして見えた私に気をつかって誘ってくれたのだろうけれど、峠道を走ることはもう何年もしていなかったし、何よりかつての趣味の走りなどを彼の目の前で披露すること自体が照れくさかった。
「ダメだろうか……?」
ああもう、そんな風に口説かれたら、断り切れないじゃないですか……。
「では、はい……」
根負けした感じで、短く頷く。
「じゃあ、ベントレーで……」
さっそくとばかりに口にする彼に、
「いえ、あの車では峠を流すには、ちょっと大きすぎますから」
車体の大きな高級車でカーブを攻めるのは、さすがに難しいだろうと思えた。
「そうなのか? なら、現地までは電車で行って、レンタカーを借りようか?」
まるでピクニック気分みたいに楽しそうにも喋る様《さま》に、こういうところに惹かれちゃうんだよねと、くすりと笑いが漏れる。
時折り見せる、普段のパーフェクトな紳士ぶりとは異なる一面に、惑わされて心が掻き乱されて、その度にどうしようもなく──
彼が、好きになっちゃうんだよね……。