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## 第37話:『白銀の翼、再誕の予兆』
岩礁地帯での死闘から一夜が明け、ゼストの格納庫には重苦しい金属音と溶接の火花が散っていた。
中央に鎮座するプロト・ウイングエックスの姿は、あまりに無惨だった。かつて白銀に輝いていた装甲は焼けて剥がれ落ち、右腕は肩の付け根から失われている。背部のリフレクターは衝撃波によって根元からひしゃげ、内部から崩壊したブラックキャノンの残骸が、抜け殻のようにぶら下がっていた。
「……ひどいもんだな。これじゃ、ただの粗大ゴミだぜ」
ゼロ・ドラートは、煤にまみれた手で機体の脚部を叩いた。
整備班のリーダー、リンがタブレットを片手に溜め息をつく。
「サテライトシステムは完全に沈黙。マイクロウェーブの受電回路が焼き切れてるわ。ゼロ・システムは辛うじて生きてるけど、これじゃ計算する『体』がないわね」
「へっ、計算通りに動けたことなんて一度もねえよ。……なあ、リン。これ、直るのか?」
「今のゼストの備蓄じゃ無理ね。右腕の予備パーツもないし、何よりリフレクターの代替品なんてどこにもないわ」
ゼロは悔しげに拳を握った。その視線の先、格納庫のさらに奥には、同じくボロボロになった漆黒の機体、ノワールレイスが安置されている。そしてその脚元には、ミラに付き添われたノアが、落ち着かない様子で周囲を伺っていた。
「……何よ。そんなにジロジロ見て。……私の顔に、何か『失敗作』って書いてある?」
ノアは近づいてきたゼロを鋭い目付きで睨みつけた。毒のある口調だが、その肩は微かに震えている。
「書いてねえよ。……ただ、そんなに怯えてんなら、端っこで縮こまってろって言いたいだけだ」
「怯えてなんていないわ。……ただ、この艦(ふね)の連中の視線が、気持ち悪いだけ。……あっちの女の人なんて、さっきから私のこと『可哀想に』って顔で見てる。反吐が出るわ」
ノアが顎で示した先には、エマたちがいた。確かに、ゼストの乗組員の多くはノアを「恐怖の対象」として見ていたが、一部のクルー、特にオペレーターの3人や炊き出しのスタッフたちは、ミラと瓜二つの少女に対して、恐怖よりも戸惑いや同情を抱いているようだった。
「アンタが、あんなデタラメな攻撃仕掛けてくるからだろ。……ま、安心しろ。俺はこの艦の連中ほど甘かねえ。お前が変な真似したら、即刻つまみ出してやるよ」
「……ふん。生意気なヴァルチャー(拾い屋)。……腕の一本もないガンダムで、何ができるっていうの?」
ノアの痛烈な一言がゼロの胸に刺さる。だが、ゼロは言い返さなかった。今の自分には、彼女を守るどころか、自分の機体を動かすことすらできない。
その時、ブリッジから艦長の声が館内に響いた。
「総員、警戒を解け。本艦はこれより中立地帯、ジャンク屋街『フォート・セバーン』へ入港する。カイル、ジュード、セレス。各機はいつでも発進できるよう、待機しておけ」
カイルのバスターヴァイス、ジュードのシャドウエッジ、セレスのヴィヴァーチェは、幸いにも装甲の修理程度で済んでいた。彼らは格納庫の片隅で、それぞれの愛機を磨きながら、ゼロの様子を静かに見守っていた。
「ゼロ、あまり腐るなよ。……たまには、後ろから俺たちの戦いを見て、勉強するのも悪くない」
カイルが重厚な声で声をかける。
「そうだよ、新入り。お前がいない間、俺たちがしっかり稼いできてやるからさ。……もっとも、ミラちゃんの護衛役を奪われないように気をつけるこったな」
ジュードの軽口に、セレスが冷たい視線を送る。
「ジュード、茶化さないで。……ゼロ、悔しいのは分かるけど、今はリンに協力して。ウイングエックスを直せるのは、あんたしかいないんだから」
「……分かってるよ。……ったく、どいつもこいつも」
ゼロはレンチを拾い上げると、再び機体へと向き直った。
数時間後。
ゼストのモニターに、巨大なクレーターの跡地に築かれた雑多な街並みが映し出した。
そこは、あらゆる陣営の「ゴミ」が集まり、再利用される街。通称、ジャンクの街。
錆びついたクレーンが空を指し、あちこちから金属を叩く音が響いてくる。
「……ここが、フォート・セバーンか」
艦長はブリッジの窓から、広大なジャンクの山を見つめていた。彼の脳裏には、かつて旧大戦の記録で見た、ある一機のガンダムの姿が浮かんでいた。サテライトシステムを失いながらも、ハモニカのような巨大な盾を掲げ、戦場を駆け抜けた不屈の機体。
「リン、ゼロを呼べ。……サテライトシステムを直すのではない。この機体を、全く別の『翼』へと作り変える」
艦長の声には、確かな希望が宿っていた。
ウイングエックス・ディバイダー。
その再誕に向けた第一歩が、この埃っぽいジャンクの街から始まろうとしていた。
タラップが下り、ゼロはミラの隣で、新しい「風」の匂いを嗅いだ。
ノアは、ミラの後ろに隠れるようにしながら、その異様な活気に満ちた街を、不安げに見つめている。
「……ゼロ、行くわよ。……私たちの、新しい翼を探しに」
ミラの言葉に、ゼロは力強く頷いた。
機体はボロボロで、武器もない。だが、ゼロの胸の中にある闘志は、サテライトキャノンよりも熱く燃え上がっていた。
**次回予告**
ジャンクの街に隠された、旧大戦の遺産。
艦長が提案する驚愕の換装プランに、整備班のリンが頭を抱える。
「サテライトを使わずに、どうやって高出力を補うっていうのよ!」
一方、街を彷徨うゼロとミラ、そしてノアの前に、ルカス軍の残党が姿を現す。
守るべきもののために、武器を持たぬゼロが選んだ手段とは?
次回、『ジャンク屋街の邂逅』
**「俺の腕なら、ここに二本ある! 拳一つで守り抜いてやるよ!!」**