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 「っ──」

 Aは、乱雑にパソコンの破片を隅へと蹴りやると、逃げるようにドアへ向かった。

 考える暇が欲しかった。

 一秒でもいいから、あの部屋から離れたい。

 取っ手を掴み、勢いよく扉を開ける。

 そこに──Bがいた。



 「わああっ!?」



 反射的に、悲鳴に近い声が飛び出した。

 「な、な、何してるんだよ……!」

 目を逸らしながら絞り出した声は、情けなく上擦っていた。

 「……夕飯の時間だから、呼びに来ようかと思ってね」

 「夕飯っ……?」

 いつもの調子。どこか呑気で、どこか底が見えない。

 それより──


 やばい、聞かれてたか……?


 さっきの物音。怒鳴り声。

 床に散らばったパソコンの残骸。

 ──もし、あの全部を聞かれていたとしたら……。


 「……聞いてた?」


 意図せず口から漏れた問いに、Bはわずかに首を傾けた。


 「──何を?」


 問い返すその目は、まるで感情の裏側を覗くように、Aをじっと見据えていた。Aは、喉がカラカラに乾くのを感じながら、どうにか笑った。 

 「……い、や、なんでもないよ」

 Bは微笑んだまま、そのまま横をすり抜けて中を覗き込む。

 破片。コード。焦げ臭い匂い。そして、Aの背中。

 「……ずいぶん、派手にやったみたいだね」

 「……」

 Aは答えなかった。

 代わりに、目を伏せていた。

 沈黙の中、Bの足音がひとつ後退する。

 「とりあえず、冷めないうちに行こうよ」

 「……え?……う、うん」

 Aはかすれた声で返事をし、Bの背中を追った。

 歩幅は、自然と半歩遅れる。

 階段を下りる。すれ違う子供たちの声。何もかもがいつも通りのはずなのに、胸の奥で、ドクドクと心臓が警報のように鳴っている。


 ──おかしい。

 Bが、夕飯に誘ってくるなんて。


 出会った日から今の今まで、あいつが「夕飯に呼びに来る」なんて、ただの一度もなかった。

 そういう役目は、いつも誰か別の子だった。

 なのに、どうして今日に限って── 



 ──絶対に気づいている。



 その確信が、Aの背骨をひやりと伝う。

 バレた? それとも、試されてる?


 Aは足を止めた。


 「……ご、ごめん。食欲ないから、今日はいいや」


 ぽつりと落ちる声は、Bの背中には届かないかもしれないと思うくらい、弱々しかった。

 「……いいの?」

 振り返らずに問う声。その抑揚のなさが、かえってAの神経を逆なでする。

 「うん。……いい」

 まるで自分に言い聞かせるような、短い返事。

 少しの沈黙ののち、Bは首だけをねじるようにしてAを見つめた。その目には、どこまでも深く、どこまでも火が灯っていた。

 


 「じゃあ──Bもいいや」


-デスノート- 欧州バイオテロ事件 R15+

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