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⧉▣ FILE_021: 呼出 ▣⧉
「っ──」
Aは、乱雑にパソコンの破片を隅へと蹴りやると、逃げるようにドアへ向かった。
考える暇が欲しかった。
一秒でもいいから、あの部屋から離れたい。
取っ手を掴み、勢いよく扉を開ける。
そこに──Bがいた。
「わああっ!?」
反射的に、悲鳴に近い声が飛び出した。
「な、な、何してるんだよ……!」
目を逸らしながら絞り出した声は、情けなく上擦っていた。
「……夕飯の時間だから、呼びに来ようかと思ってね」
「夕飯っ……?」
いつもの調子。どこか呑気で、どこか底が見えない。
それより──
やばい、聞かれてたか……?
さっきの物音。怒鳴り声。
床に散らばったパソコンの残骸。
──もし、あの全部を聞かれていたとしたら……。
「……聞いてた?」
意図せず口から漏れた問いに、Bはわずかに首を傾けた。
「──何を?」
問い返すその目は、まるで感情の裏側を覗くように、Aをじっと見据えていた。Aは、喉がカラカラに乾くのを感じながら、どうにか笑った。
「……い、や、なんでもないよ」
Bは微笑んだまま、そのまま横をすり抜けて中を覗き込む。
破片。コード。焦げ臭い匂い。そして、Aの背中。
「……ずいぶん、派手にやったみたいだね」
「……」
Aは答えなかった。
代わりに、目を伏せていた。
沈黙の中、Bの足音がひとつ後退する。
「とりあえず、冷めないうちに行こうよ」
「……え?……う、うん」
Aはかすれた声で返事をし、Bの背中を追った。
歩幅は、自然と半歩遅れる。
階段を下りる。すれ違う子供たちの声。何もかもがいつも通りのはずなのに、胸の奥で、ドクドクと心臓が警報のように鳴っている。
──おかしい。
Bが、夕飯に誘ってくるなんて。
出会った日から今の今まで、あいつが「夕飯に呼びに来る」なんて、ただの一度もなかった。
そういう役目は、いつも誰か別の子だった。
なのに、どうして今日に限って──
──絶対に気づいている。
その確信が、Aの背骨をひやりと伝う。
バレた? それとも、試されてる?
Aは足を止めた。
「……ご、ごめん。食欲ないから、今日はいいや」
ぽつりと落ちる声は、Bの背中には届かないかもしれないと思うくらい、弱々しかった。
「……いいの?」
振り返らずに問う声。その抑揚のなさが、かえってAの神経を逆なでする。
「うん。……いい」
まるで自分に言い聞かせるような、短い返事。
少しの沈黙ののち、Bは首だけをねじるようにしてAを見つめた。その目には、どこまでも深く、どこまでも火が灯っていた。
「じゃあ──Bもいいや」
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