テラーノベル
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ゴールデンウィーク終盤の休日。スタジアムの外はもう人でごった返していた。まだ試合前なのに熱狂はもう始まっていた。
もちろん萌さんは青いユニフォーム姿。萌さんは僕のためにサイズXLの今年のアスルヴェーラのユニフォームを買ってプレゼントしてくれた。背番号は24、もちろん桜町選手の番号だ。僕もそれを着ている。今日のためにネットの動画でアスルヴェーラのチャントを何度も聞いて、チャントの歌詞も覚えた。戦う準備ならもうできている。
何かスタグルを買って食べようかと手をつないで歩いていると、前の方から萌の名を呼ぶ男の声が聞こえて僕らは立ち止まった。
「萌じゃん。久しぶり! おれと別れたあともスタジアムに来てたなんて知らなかったぜ。新しい彼氏もできたみたいでよかったな」
視力が足りないから、男の顔を見てもすぐには気づかなかった。目を凝らして見てようやく状況を把握した。彼が所属する静岡花井組のサッカー部員紹介のページで見てから、その顔を忘れたことがない。
男は山田康二だった。山田康二は二人連れで、もう一人も男。もう一人の男はアニメとコラボしたユニフォームを着ている。サッカーファンというよりアニメファンなのだろう。山田康二はその男に頼まれて久々にスタジアムに来たようだ。
「康二さん、久しぶり……」
山田康二の登場より彼女の返事にショックを受けた。元カレにはさん付けなの? 結婚を誓い合った僕には呼び捨てなのに。普通逆では――
コラボユニの男が康二に尋ねた。
「去年康二を振ったという元カノさん?」
「ああ、最高の女だった」
「自分を振った女を褒めるなんて偉いじゃん。一言で言うと、どう最高だったんだ?」
「そうだな。いつでもどこでも何度でもって感じ?」
「確かに最高にエロい!」
二人とも腹を抱えて笑いだした。萌さんの前に出て彼らと対峙しようと思ったけど、萌さんが手を離さないのでそのまま並んで手をつなぎ続けた。
「もとからエロかったわけじゃないぜ。出会ったとき処女で奥手だったのを、三年かけておれがエロく変えたんだ」
「サッカーよりそっちの世界の方が向いてるんじゃねえの?」
「バイト中でもいつでも、呼び出したら沼津から静岡まで飛んできてくれるんだ。心の中でコールガールって呼んでたもんだ」
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