明け方の空は、どこまでも静かで、どこまでも冷たかった。
ベンチの上、雨に濡れたパーカーが張りついて動けない。
ポケットの中、握りしめたスマホが何度も震える。
それでも、ほとけは画面を見ない。
💎「……怖いんだよ」
声がかすれた。
💎「また、裏切っちゃいそうで……また、笑えなくなりそうで……」
💎「僕だけが、置いてかれるのが……怖かったんだよ」
ぽつり、ぽつりとこぼれる独白は、誰にも届かない。
🦁「ほとけに、何て声かければええんかわからへん……」
悠祐の声が震えていた。
🦁「正直さ、いむくん、前から限界近かったんよな……」
🦁「頑張ってるフリ、ずっとしとった」
🦁「でも、それが逆に“普通”みたいになって……」
🦁「……俺らが甘えてたのかもしれへん」
初兎が低く言う。
🐇「なあなあ、覚えとる?」
🐇「いむくん、最初ライブ直前に吐いてんよ。あん時も“寝不足です”って笑って……」
りうらが、歯を噛みしめながら言った。
🐣「……ねぇ、ほんとに間に合うの? 今、何してると思う……?」
ないこが、指でテーブルを叩きながら呟く。
🐶「何か……最悪のことになってなきゃいいけど……」
静寂が、通話部屋を支配する。
そのとき、いふが震える声で言った。
🐱「“ごめん”って言葉、最後に使ってほしくないねん……」
🐱「“また会おう”って、言ってほしいんや……!」
震える指で、スマホを開く。
通話はまだ続いている。
でも、ほとけは参加せず──ただ、そっと、指を動かした。
【グループチャット】
「……ごめん」
「これ以上、みんなの隣に立てる自信がないんだ」
「“ほとけ”として笑うの、もう無理みたい」
「ほとけ、降ります」
「ありがとう。みんな、ずっと大好きでした」
送信ボタンを押した瞬間、心臓が締めつけられたように痛んだ。
🐱『ほとけ!?』
🐇『やめてや、それだけは送らんとって!!!』
🦁『待って、待ってくれ、今すぐ行くから!!』
🐣『……まだ、話せてないんだよ、りうら』
🐶『お前の代わりなんていない、だから──!』
画面に飛び込んでくる文字たちを、すべて見終えたあと、ほとけは静かにスマホの電源を切った。
ゆっくりと立ち上がり、背負ったリュックのジッパーを閉じる。
💎「やっぱ、僕は“間違い”だったんだろうな」
💎「でも、みんなに出会えて、幸せだったよ」
最後に見た空は、どこまでも曇っていて、
その中で、彼はひとり、
何も言わず、消えるように姿を消した。
【お知らせ】
このたび、「ほとけ」は体調不良および精神的な理由により、グループを脱退し、すべての活動を終了することとなりました。
🐇「……見捨てたわけやないのに」
初兎は、ひとり部屋で何度もメッセージを読み返していた。
🐇「戻ってくるって……信じとったのに」
🐣は、ステージで「ほとけのポジション」に目をやりながら、
誰にも見られないように袖で涙を拭っていた。
🐶「リーダー失格だな……」
ないこは、誰にも言えずに飲み込んだ言葉を、深夜の空気に呟いた。
🦁「あいつ、今どこで何しとるんやろ……」
悠祐は、帰らないLINEを眺めながら、いつもより早く部屋の電気を消した。
そして──
いふは、ずっと“未読のまま”のチャット欄に一言、そっと残す。
🐱『……いつか、また笑える日がきたら。戻ってきてや』
🐱『完璧じゃなくてええから』
それでも──ほとけのアイコンは、二度と光ることはなかった。
「バッドエンド」は、残された側にもずっと続く。
本当は止めたかった。
本当は声を届けたかった。
でも、気づくのが遅すぎた。
あの夜の空は、今でも彼らの胸に、痛みとして残っている。
そして今日も、誰かが思っている。
「もう一度だけ、会えたら」って──
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