💎「……今日も、生きてる」
窓の外、雨は降っていない。
それだけで、少しだけ安心する自分がいることに気づく。
名前を捨てて、役割も捨てて、ただ“僕”として生きる日々。
それが、こんなに苦しいなんて──ほとけは、知らなかった。
「──“いむくん”、ですか?」
一瞬、心臓が止まりそうになった。
顔をあげると、店員の女の子が、そっと微笑んでいた。
💎「……え、いや、あの」
「ごめんなさい、間違ってたら。でも、動画で何度も……救われたこと、あって」
「あの笑顔、あの声──私、今も忘れてません」
ほとけは、俯いたまま何も言えなかった。
でもその子は、ただそっと、こう続けた。
「いつか、また聴けたらいいなって思ってます」
「あなたの声──“生きてる”って感じがするから」
カフェを出たあと、ほとけは思わず泣いた。
誰にも見られてないのに、
誰にも責められてないのに、
心がずっと、痛かった。
それでも──
その一言が、また彼を“生きる”側に引き戻してくれた。
『既読がついた』──
それだけで、ないこは涙をこぼした。
🐶「いむが……ログインしてる……?」
初兎がすぐに打ち込む。
🐇『いむくん、生きてるんやんな?』
🐇『それで、いい。……それだけで、もういい』
りうらも打つ。
🐣『でも俺、言わせて。待ってるから』
🐣『今でも、ずっと──待ってるから』
その夜、ほとけは何も返さなかった。
でも、スマホの画面を閉じるとき、
久しぶりに、ほんの少しだけ笑った。
💎「失ったものは、戻らない。
でも、“何もかもなくなったわけじゃない”って、今は少し思える」
💎「あの頃みたいには戻れないかもしれない」
💎「でも、僕はまだ、音楽が好きで」
💎「誰かの言葉に、心が震えることがあって」
💎「──だから、もう一度だけ、生きてみようと思ったんだ」
春の風が吹く坂道を、
帽子を深くかぶった青年が、ゆっくり歩いていく。
鞄の中には、小さなノートとスマホ。
そして、折れたピックがひとつ。
画面の中に、止まっていたアプリが開かれる。
【録音開始】
💎「えっと……久しぶりに、声を出します」
💎「誰かに届かなくてもいい。ただ──」
💎「これが、今の俺の声です」
“ほとけ”ではない、
でも、どこかに“ムードメーカー”が残っている声が、そこにはあった。
いつかまた、光の中へ──それはまだ少し先の話。
コメント
4件
えぇ!最高です!! 次どうなるんだろ……? 気になりすぎて重症です!(?) 次も待ってます!
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