テラーノベル
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俺はそのままバスを走らせ、都会へ出た。きっともうこのバスを知っている人は居ない。
奥で手を挙げる少女が目に留まる。勘違いかもしれないが、少女の少し奥でバスを止め、扉を開く。
「初めまして!」
元気よく挨拶をした少女はバスの中へ入ってきて、運賃を俺の手のひらへ出した。俺は微笑み、少女の手へ小銭を返した
「最近、再開したばかりなんだ。だから今日は払わなくて大丈夫だよ」
「そーなの?でもパパがタダより怖いものはない!って言ってたよ!」
よ、よくできた教育で…
「じゃあ、お金の代わりに今日楽しかったことお話してくれないかな?目的地に着くまで」
俺は運転席から降りて、少女の前にしゃがみこむ。少女は首を傾げ、んん?と言ったが、少し考えて「わかった!」と言い席へ座った。運転席の後ろの席だった。
「帰路01へご乗車、ありがとうございます。目的地はどこにしますか?」
「えっとね、大きな病院!お母さんに会いに行くの!」
「大きな病院…もしかして2つ先の駅かな?」
「うん!あのねあのね!」
バスを発進させれば少女は楽しそう話し始めた
「私お姉ちゃんになったの!ママがね、ゆーくんをお迎えしてくれたの!だから私、ママとパパと、ゆーくんを病院に会いに行くの!」
「そうなんだ。パパと一緒には行かなかったの?」
「うん、私もうお姉ちゃんだから、一人で行く!って」
「すごいね、立派なお姉ちゃんだ」
少女は何かを思い出したようにあ!と声をあげ、椅子から横に顔を出し、俺を見て笑った
「きろぜろわんって、どこにでも連れていってくれるバスなんだよね?」
「え…?知ってるの?」もう知ってる人は居ないと思っていたのに、どうして。と思っていると少女は楽しそう笑った
「おじいちゃんがね!昔きろぜろわんにのって、おばあちゃんがいた病院に行ったんだって!だからもし黒くて、おっきいバスにきろぜろわん、って書いてあったら乗ってみて、どこにでも連れていってくれるよ、って教えてくれたの!」
「そう…なんだ。おじいさんに、帰路01は再開したから、また乗りに来てくださいね。って伝えておいて欲しいな」
「わかった!」
それからも少女は色々なことを話してくれた。楽しかったこと、嬉しかったこと、最近知ったこと。沢山、沢山話してくれた。話しているうちに、もう目的地に着いていた。
「着いた!」
「気をつけて降りてね。」
ドアを開け、嬉しそうに飛び跳ねる少女に笑いかければ、少女はバスを降りて振り返り、笑った
「お兄さん、”ありがとう”!またね!」
「っ…うん、またね!」
『ありがとう』ずっと、ずっと聞いていた、けれど聞けなくなってしまった言葉。
そうか、俺はやっとまた、みんなを笑顔に出来るんだ
どこにでも送り届けられるバス『帰路01』
このバスはどこにでも送り届けられる。それは、生者だけではなく___現世を迷い続けている、死者を送り届けられること
死者と生者は入ってきた瞬間わかる。死者の雰囲気はもちろん、バスの中の雰囲気がガラリと代わり、ライトが優しく、少し暗くなる。
バスを走らせ、奥に立ち止まる1匹の猫、俺はバスを止めて扉を開けた。
にゃあ
ひと鳴きしてバスへ入る猫に俺は微笑み、問いかける。
「帰路01へご乗車、ありがとうございます。目的地はどうなされますか?」
にゃぁん
“おかあさんのところ”
「…かしこまりました。席へお座り下さい」
猫はゆっくりと歩き、俺を見つめた後、俺の膝に飛び乗った。ひんやりとした体を俺は撫で、バスの扉を閉めた。
「発進いたします」
バスを走らせ、暗い、トンネルへ入る。膝で丸まっていた猫はなにかに気がついたのか、耳をピン、と立たせ膝から降りた。
トンネルを抜けた先、トンネルを入る前は明るかった空が暗く、星が輝いていた。俺はバスを止めて、扉をカリカリと引っ掻く猫を抱き上げて扉を開ける。
「到着です」
猫を優しく下ろす。猫はバスから飛び出て、離れた場所にいる1匹の猫へ走った。
にゃぁん
“ありがとう”
振り返った猫はそれをだけをいい、再会できた母猫と共に歩いていった。その奥には、数匹の猫、きっと兄弟だろう。その子達と消えていった。
俺はその姿が完全に亡くなるまで帽子を外し、胸に当てお辞儀した。
「ご乗車、ありがとうございました」
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