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闘技場の扉をでて幾ばくも走らないうちに、あちらからこちらから、指導教員である先生たちが駆けつけてくれた。
「なんだい、この恐ろしい魔力は!」
「何が起こってる!?」
「闘技場か?」
あたしが必死に頷くと、先生たちは我先にと闘技場へと入っていった。きっと、異変を感じて来てくれたんだ。
良かった、魔力を霧散させるっていう変わった授業をしてくれたアイルゥ先生もいたもの。これならきっとなんとかなる。
ホッとしたのも束の間。
扉の向こうから、鼓膜どころか体中にが震えるような爆音が何度も何度も響き渡る。その度に縦揺れの地震みたいに地面が揺れて、もはや立ってもいられない。
こ、怖い……!
でも、どう考えてもこれ、あたしの魔法が原因の爆音と振動だよね……。
あああ、やっぱり全力で魔法を撃つなんて、あたしには十年早い話だったんだ。
扉を開ける勇気はなくて、あたしは耳を抑えて座り込んだまま、扉にひっそりと寄りかかった。
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そして今、あたしは正座のまま学長のお叱りを受けている。
学長の話、いつも思うけど長いよー。今日は正座だからダメージが酷いんですけど。
それにしても、リカルド様はともかく、学年主任もよく神妙な顔のまま正座していられるなぁ。なんかコツとかあるのかな。
「聞いておるかねぇ、ユーリン・サクレスくん?」
「はいっ!!!!」
うおお! 足が痺れるのに神経集中してたわ。びっくりしたぁ、名指しとは。
「だからねぇ、君はこれから魔力の制御をしっかりと学ぶんだよ。君はうっかりで万単位の人を殺せる凶器というか……兵器を持っているようなものなのだからねぇ」
「はい! ……は、い???」
え、今なんか学長、不穏なこと言わなかった? 兵器って、あたしの魔力が?
「ユーリンくんは、もう足を崩しても良いがねぇ」
「あっ、ありがたき幸せ……!」
嬉しくていつ言葉がヘンになっちゃったけど、もうこの際どうでもいいよ。めちゃくちゃ足がジンジンして、思考力なんかとっくの昔にどっか行っちゃってるもの。
くうう、久しぶりの正座は効いたわー。
「ユーリン君はまだね、魔力の発動に目覚めたばかりだからねぇ、この惨事になることを想定出来なかったのは仕方ない部分もあるがねぇ」
長〜い長い白い顎髭をゆったりとしごきながら、学長はあたしの前を通り過ぎた。痺れに悶絶するあたしをスルーするスルー能力、半端ないな。
そして学長は、ゆっくりとリカルド様の前で立ち止まる。
「だが、リカルド君。君なら想像出来たんじゃないかねぇ?」
責めているわけでもないゆるやかな口調だけれど、リカルド様は痛そうに顔を顰めた。
「すみません、ついムキになって判断を誤りました。ユーリンの魔力が信じられないほど強力だというのは分かっていましたが、まさかあの規模で連発できるとは想定外でした」
「うむ、詳しく聞かせてくれるかね」
「はい。ユーリンはほんの数刻前、演習中に強力な魔法を放ったために、魔力が枯渇して倒れたのです」
「ほう」
「彼女の魔力の回復が異常なほど早いのは気がついていましたが、枯渇状態からわずか数刻で、またあれほどの魔力を放てるほどだとは思っていませんでした」
「なるほどねぇ、それは興味深い。して、ムキになって……というのは?」
「それは……」
言い淀んで、リカルド様は一瞬だけ学年主任の先生を見たけれど、唇を引き結んだままそっと俯いた。
「おや、ここまでの事態を引き起こしたのだから真実を述べねばならないよ? 絶対に再発させてはならない案件だからねぇ」
学長が優しくリカルド様に諭している後ろでは、さっきあたしの魔力によってめちゃめちゃに破壊された闘技場の回復作業が急ピッチで進められている。
ボコボコになってしまった地面は土魔法で綺麗にならされて、どんどん平らになっていくし、がれきは結界の中で粉砕されて土に還っていく。すべての修復を魔法でできるわけじゃないんだろうけど、魔法って極めると本当に便利なのね。
学長様に説得されてもしばらく迷っている様子だったリカルド様は、そんな荒れてしまった闘技場を見回してからゆっくりと顔を上げて、学長に目を合わせ口を開いた。ついに、話をする決心がついたのかも知れない。
「……ザブレット教授へ討伐演習の成果報告をする際に、この一年、魔力をほぼ放出できなかったユーリンの能力が開花したことも報告しました。その才能は素晴らしく、今回俺が討伐したAランクの飛龍の二倍はあるドラゴンを消し飛ばしてしまうレベルの魔法を放ったほどだと」
「それは、本当かね……!」
学長の声がうわずる。そして、闘技場の回復作業に従事していた先生方からも、息を呑むような感じやら小さな悲鳴やらが漏れ聞こえてくる。
こんなにスゴイ先生達ですら驚くようなことなんだと改めて分かって、あたしは今更緊張してきてしまった。
あたし、なんかよく分かんないけど、すごいことになっちゃってるんじゃ……。
足のしびれはだいぶ収まってきたけれど、心臓のバクバクが尋常じゃない。リカルド様はあたしと違って今や落ち着いた、真摯な態度で学長に事情を説明している。