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「えっ…あ、あのっ…」
俺が困惑して何も言えずにいると、先輩は壁から手を離し、俺から離れる。
「ごめんね。急にこんなことして、驚いちゃうよね」
「あっ、いや…」
「まぁ、とにかくそういうことだから。これからよろしくね」
先輩はそう言った後、俺の頭をそっと撫でた。
「またね」
先輩はそう言ってニコッと笑い去っていった。そんな先輩を見て周りがザワザワとする。俺はわけが分からず硬直した。
(えっ…今何が…いや、どういうこと…?)
そんな混乱している俺の元に翔が寄る。
「ちょっ、大丈夫?」
「いや…ちょっと意味わかんない」
「なんかすごいことされてんじゃん。壁ドンって。しかもなんか好きとか言ってなかった?」
「言ってた。やっぱりあれ?興味ないってやつ聞かれてたのかな」
「俺に興味ないとかありえない!みたいな?」
「そう。学校1の有名人だし。やっぱプライドとかあるんじゃない?」
「なるほど。じゃあ春人は佐野先輩に興味持たないとな」
翔のその言葉に俺は苦笑いする。
「あんなことされたら嫌でも興味持つよ」
「おっ。佐野先輩の事好きになった?」
「いや。好きとか嫌いとかじゃなくてなんかもう、意味わかんない」
「まぁ、確かに。急にあんなことされてもね。まぁ、とにかく頑張れよ」
翔はそう言って俺の肩をポンッと叩き、歩き出した。
「えぇ〜、ちょっと待ってよ〜」
そう言いながら俺は翔の後を追いかけた。
それから数日、特に何もなく最初の当番の日になる。昼休みの当番は特に問題なく終わった。
そして放課後。同じ当番の斎藤先輩と図書室のカウンターに座っていると、廊下で歓声が上がる。見なくてもわかる。佐野先輩だろう。
そしてそれから数秒後、図書室に佐野先輩が入ってくる。
先輩は俺を見てニコッと笑った。そしてそのまま、こっちに来る。
「こんにちは。春人くん」
「こんにちは」
「これ、返却お願いします」
先輩はそう言って本を俺に差し出す。俺は本を受け取り先輩を見た。
「はい」
俺は貸し出しカードに返却の判子を押して本に戻す。その様子を先輩はじっと見ていた。
「はい。もう大丈夫です」
「ありがとう」
先輩はそう言ってニコッと笑った。普通はそのまま去るのだが、先輩はなかなかその場を動かない。
「あの、先輩?」
「先輩じゃなくて冬馬でいいよ」
「えっと…冬馬…先輩。もう判子押したんで大丈夫ですよ」
「うん。知ってるよ」
「えっ…えっと…あの…」
俺が困惑していると、先輩はフフッと笑った。
「困ってる春人くんは可愛いね」
「なっ」
そう言う俺の顔はカーっと熱くなり、胸もドキッとする。
そんな俺を見て先輩は再びフフッと笑う。
「ねぇ春人くん。しばらくここに居てもいいかな?」
「あぁ…えっと…」
(さすがにダメって言えない…)
「別に大丈夫ですよ」
俺がそう言うと、先輩は嬉しそうに笑って言う。
「ありがとう」
そしてその後、先輩は仕事をこなす俺をニコニコしながら見ていた。俺はそんな先輩の視線を感じながら、なんとか仕事を終えた。
先輩はしばらくと言っていたのに結局最後までいた。俺がカバンを持ってカウンターから出ると、先輩に話しかけられる。
「お疲れ様」
「ありがとうございます」
「ううん。明日も頑張ってね」
先輩はそう言って俺の頭を撫でる。そんな先輩に俺は聞く。
「あの、冬馬先輩」
「なに?」
「なんでそんなに俺に構うんですか?」
「なんでって…言ったでしょ。俺は春人くんのことが好きなの。だから春人くんに好きになってもらえるようにアピールしてるんだよ」
先輩はそう言ってニコっと笑う。
「えっと…もしかして、俺が先輩に興味ないって言ったの聞いてました?」
俺がそう言うと、先輩は悲しそうな顔をする。
「春人くん、俺に興味ないの?」
「えっと…」
(やばっ。余計なこと言った…)
焦った俺は慌てて誤魔化す。
「冬馬先輩に興味ないっていうより、学校で人気者とかそういうのに興味ないってだけです」
俺のその言葉にしばらく沈黙が走った後、先輩は言う。
「…そっか。じゃあ、もっとアピールして春人くんに興味持ってもらえるようにしないとだね」
先輩はそう言って微笑んだ。その笑顔に思わずときめきそうになる。
「じゃあ、今日はもう帰るね。また明日」
「はい…」
先輩は俺の返事を聞いて満足そうに図書室を出た。そんな先輩の後ろ姿を俺はただ見つめる。そして急にハッとする。
(ん?さっき″また明日″って言った?)
明日もまた来るって意味だろうか。俺はそんな疑問を抱えながら先輩の後ろ姿を見続ける。その時、背中をトンッと叩かれた。振り向くと、同じ当番の斎藤先輩が立っていた。
「もう鍵閉めちゃって大丈夫かな?」
「あ、すみません。大丈夫です」
俺はそう言って図書室を出る。斎藤先輩が鍵を閉めた後、二人で職員室に向かう。しばらく無言で歩いていたが、気まずくなったのか、ふと斎藤先輩が口にする。
「…なんか、すげぇ気に入られてるね」
「え?」
「佐野先輩に」
「あぁ。俺もよくわかんないんですけど、すごい距離詰められてて」
「そうなんだ」
「はい」
二人の間に再び沈黙が走る。何か話した方がいいかと話題を考えている途中、斎藤先輩が言う。
「…なんか、気をつけた方が良いかもね」
「なんでですか?」
「俺、佐野先輩と中学同じだったんだけど、男と付き合ってるって噂聞いたことあって。いくらイケメンでも同性に恋愛感情持たれるってちょっとキツくない?」
「えっ…まぁ…そうですね」
そうは言ったけど、俺は別に同性愛とかに抵抗はないし、自分に同性から恋愛感情を持たれても構わないと思った。
その後職員室に鍵を返し、俺達は解散した。
帰り道を一人で歩きながら、斎藤先輩の言っていた事と冬馬先輩の言葉を思い出す。
(…あの″好き″って、もしかして…)
しばらく考えた後、急いで頭を振る。
(いやいや。ただの噂でしょ。そもそもそんな話聞いた事ないし)
俺はそう考えながら家に帰った。