テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「天野さま、お待たせいたしましたわ」放課後。クラスメイトたちが静まり返った校舎から去り、静寂が包み込む夕暮れの教室。
ガラガラと引き戸を開けて戻ってきた美咲は、ドアの鍵をカチャリと閉めた。
(か、鍵閉めたーーーーーっ!?!?)
心臓が跳ね上がる。
夕日が教室を赤く染め上げ、僕たちの影を長く引き延ばしていた。密室。逃げ場なし。100人を沈めてきた魔女と、僕の二人きり。
美咲はゆっくりと歩み寄り、僕の机の向かい側——普段は前の奴が座っている席の椅子を引いて、優雅に腰掛けた。
「ふふ、二人きりになりますと、少し緊張いたしますわね……」
頬をほんのり朱に染め、上目遣いに僕を見つめてくる。
そのあまりの可憐さに一瞬見惚れそうになるが、騙されるな。これは100人の男を油断させてきた『魔女』の基本戦術だ!
「さて、天野さま。さっそく……『お始め』いたしましょうか?」
美咲が制服のバッグから取り出したのは、小さな漆黒の革製ケースだった。
(出た……! 噂の『お道具』……!!)
彼女は細くしなやかな指先でケースのファスナーを開ける。
僕は生唾を飲み込み、胸ポケットのデッキケースを固く握りしめた。どんな怪しい道具(ローションだの拘束具だの)が出てこようと、僕は断固として拒絶する……!
だが、彼女の手からテーブルの上に置かれたのは——
**「さあ、お互いの『魂』を賭けた盤面(フィールド)を作り上げましょう……!」**
ドサッと重厚な音を立てて広げられたのは、重厚なレザー製の『TCG用デュエルマット』。
そしてその上に置かれたのは、寸分の狂いもなく角が整えられた、重厚なスリーブに包まれた**【60枚のカードデッキ】**だった。
「……え?」
思わず、素の声が出た。
「天野さまも、ご自身の『デッキ』をお出しになって? 私の【絶対防衛(フルロック)パーフェクト・ディザスター】、生半可な構えでは一瞬で砕け散りますわよ?」
美咲はそう言うと、美しく手入れされた指先で、カードの束を滑らかに、かつ超高速でシャッフル(ヒンディ・シャッフルからのリフル・シャッフル)し始めた。
ぱららららららっ!!
教室に響き渡る、あまりにも完璧で無駄のないシャッフル音。
その目つきは、先ほどまでの「可憐なお嬢様」でも「淫乱な魔女」でもない。
——眼前の敵を完膚なきまでに叩き潰すことだけを考え抜いた、**【ガチゲーマーの目】**だった。
(……は?)
目の前の光景に、僕の脳が完全にフリーズする。
え? デュエルマット?
60枚構築のガチデッキ?
『絶対防衛パーフェクト・ディザスター』って、それ現環境で最もヘイトを集めてる鬼畜ロックデッキの名前じゃねえか!!
「天野さま? どうなさいましたの? お顔色が真っ白ですわよ……まさか、私との『対戦』を前に怖気づいてしまわれましたの?」
くすくすと上品に微笑む美咲。
その手元で舞うカードの扱い、シャッフルのキレ、そしてデッキに対する圧倒的な愛着と誇り——。
(……待て)
脳内で、これまで聞いてきた「100人斬りの噂」と、今目の前にいる彼女の姿が、猛スピードで再演算されていく。
『昨日もオンラインで3人を立て続けにベッドへ送った』
→ 【昨日の夜、TCGのネット対戦で3連勝して相手を降参(投了)させた】
『100人を超えたあたりから数えるのをやめた』
→ 【通算100勝を達成したから勝敗カウントをやめた】
『動けなくなった男たちをベッドへ運ぶ』
→ 【道場で怪我した男たちを介抱してベッドに運んだ】
(嘘だろ……)
冷や汗が、先ほどとは全く違う意味で吹き出してきた。
(この人……魔女でもビッチでも何でもねえ……!! 単に世間知らずで言葉足らずなだけの、【本物の超超ガチカードゲーマーお嬢様】じゃないかーーーーーっ!!!)
#青春ラブコメ
ラスターダノン
486
おねぎ
235
コメント
1件
「魔女の真実」がまさかのTCGガチ勢だったオチ、めちゃくちゃ笑いました!夕日の教室で密室&鍵閉めからのヒンディシャッフル、ギャップが凄すぎる。あの「100人沈めた」の謎が全部カードゲーム用語に変換される爽快感、たまらないですね。これで美咲さんのキャラが一気に立ったし、設定の緻密さに脱帽です。続きでどんなデッキで対決するのか気になりすぎます!