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──セミの声ってこんなにうるさかったっけ。
田んぼの向こうから響いてくる甲高い声に
僕は思わず目を細めた。
照りつける太陽に、腕がじりじりと焼かれる。風もない。
アスファルトが靴の裏にくっつくように熱い。
駅のホームで母を見送ったのは、数時間前のことだった。
「約一ヶ月、がんばってね。
おばあちゃんと仲良くするんだよ」
この時期になると忙しくて 祖母の家に毎年、
夏休みに 泊まりに行っている。
僕は「うん」とだけ答えて、特急の窓が閉まるまで無言で立ち尽くしていた。
祖母の家は、駅からバスで2時間程掛かる
山と田んぼに囲まれた静かな場所。
スマホの電波はほとんど入らない。
テレビは地上波しか映らず、
コンビニも自転車で十五分かかる。
つまり、娯楽という娯楽が、何もない。
でも祖母は、僕の顔を見るなり目を細めて言った。
「元貴、大きくなったねぇ。もう私の背、抜かしたろう?」
「……まぁね 。笑」
曖昧に笑いながら、
僕は玄関に足を踏み入れた。
涼しい風が、畳の間を抜けていった。
昼食を終えて、荷物を整理して、
それでも時間が余ってしまって──。
僕は裏手の細い道を、ふらふらと歩いていた。
遠くの田んぼに水が張られていて、
空の色をぼんやりと映している。
ぬかるんだあぜ道の端を歩いていると、
不意に前方に人影が現れた。
「… あ 」
僕より数十cm背の高い男
フェイスラインは整っていて
思わず惹かれてしまう。
彼は僕の気配に気付いたのか
後ろを振り返って 目が合った。
僕は思わずバッと顔を逸らして
目だけで彼を追った。
それを見るなり彼は片方の口角を上げて笑う
その姿が短時間の間で何度も何度も
頭のなかで再生されては離れない
そして、気付かぬうちに彼は
少し先の踏切へと歩き始めていた。
かっこいいというか美しい。
スラッとした身体 キリッとした顔立ち
笑った時の 眉の上がり方。
異様な程に彼の魅力に惹かれてしまう 。
夕方 祖母の家に帰ると 祖母が駆け寄って来た
「外 暑かったろ? ほら、中で涼しみなね」
祖母は 、そういうなり 僕の背中に軽く触れて
そこに誘導するように優しく押した。
そこへ行くと テーブルの上には カレーライス
僕が外へ行っている間に作っていたらしい。
「美味しそう 。いただきます 」
僕は手を合わせたあと直ぐにスプーンを持ち
カレーをすくいあげて口に放り込んだ
甘い 。甘口だ
小さい頃の感覚を思い出す。
祖母のカレーはいつも甘口で具だくさんだ。
…あれ。
「…今日は具 あまり入れてないんですね 笑」
「え ぇ 〜 笑よくわかったわねぇ
最近暑くて暑くて 雨も降らないもんだから
野菜があまり育たなくて。高いのよねぇ…」
雨は基本的には降らない地域で 、
本当に振ることはまれなのだ。
でも、太陽はいつも顔を出していて 。
外に出るとぶわっと熱気が来るような そんな所
「それにしても いい食べっぷり
昔と変わんないわねぇ 笑」
「美味しいから 、笑」
それからは普段のこと 学校のこと等
世間話をしていた。これも毎年恒例だ。
──夜
畳に敷布団を引いて 勢いよく飛び乗る。
扇風機の音がよく耳に通る。
僕は被っていた薄い毛布を横に置いて
ぼーっと天井を見つめる。
彼の顔が頭から離れない。
本当に綺麗だった。 誰もがそういうくらい
また みたい 会いたい 話してみたい
様々な願望が頭の中で交差する。
僕は深く深呼吸をして 目を閉じた
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