※誤字脱字は大目に見てください。
 
 kn視点
 
 制服姿のシャケはこちらを見て驚いたように目を見開いている。
 「シャークん!きんときさん来てるよ!」
「あ、あぁ…」
 シャケが俺を見た瞬間、一瞬だけ目が合った。
でもその視線はすぐに外れた。
 「?」
 (どうしたんだろ…)
 いつもと違う様子に首を傾げる。
 シャケの表情が、なんだかいつもと違って見えた。
 「…注文は?」
「ブラックとカフェラテ。カフェラテは俺がやろうか?」
「いや、いい。冷蔵庫から牛乳取ってきて。」
「はーい。」
 Nakamu君とシャケの会話を聞きながら、改めてお店全体を見回す。
暖かい色の照明に、窓際を彩る観葉植物。
優しい木の造りが心を安心させた。
 「俺ちょっとトイレ。」
「あ、うん。」
 きりやんが席を立って、カウンターには俺とシャケしかいなくなる。
 「…」
 目の前のシャケは無言でカップとミルを準備していた。
カチャカチャと食器同士が当たる音が静かな店内に響く。
 「ごめんね、この間は誘い断っちゃって…」
「…」
 何も喋らないのも気まずいかと思い、先日のことを謝る。
 俺の言葉を聞いて、シャケがピタリと手を止めた。
手を止めても何も喋らないシャケが珍しくて、疑問に思いながらも言葉を続ける。
 「シャケが良ければまた時間がある日に…」
「…なぁ。」
 シャケがゆっくりと視線を上げる。
照明の光に反射して綺麗に輝く緑色の瞳と目が合った。
 その瞬間、店のBGMが止まる。
 換気扇の音が響く静かな店内の中、シャケが口を開いた。
 特徴的な低い声が、店に響く。
 「きんときは、」
「?」
「サークルんときいた、タレ目の人…」
「タレ目…Broooockのこと?」
「…きんときは、」
 ガリ、と豆が擦れる音が聞こえた。
 
 
 「そいつのこと…好き、なの?」
 
 
 
 
 「…え?」
 
 
 
 
 
 
 shk視点
 目の前のきんときは俺の発言に目を見開いている。
俺が言い終わると共に、BGMは再び店内に響いた。店に流れるジャズ調の音楽も、心臓の音がうるさすぎて聞こえなかった。
ドクドクと心臓の音が体に響いて、手先が震える。
 「な、なんで…?」
「…べつに。なんとなく。」
 緊張で歪む顔を隠すように俯く。
視線をさげると、この店に入ってからずっと連れ添ってきたコーヒーミルが目に入った。
ただのバイトのつもりだったのに、すっかりハマってしまったコーヒー作り。
初めてのバイト代で買った自分用のコーヒーミルは少し擦り切れた色をしていた。
 「…好きだよ。」
 「っ…」
 ミルに手を伸ばした途端。
その言葉が耳に入った。
 ずっと、聞くのを恐れていた言葉。
 震えていた手先がピタリと止まる。
 「シャケにもバレるって、俺そんな分かりやすいかな…?」
 固まる体を無理やり動かして、きんときの方を見る。
きんときは赤くなった頬を掻きながら、優しくはにかんだ。
 その笑顔を見て、頭がスっと冷えていく。
暖かいきんときの笑顔とは対象に、俺の体はどんどん冷えていった。
 あぁ、やっぱり。
…やっぱり、そうなのか。
 Broooockさんの言葉は本当だった。
 きんときがまだ何か言っているが、耳に入らない。
俯いたら涙が零れてしまいそうで、その笑顔から視線を逸らせなかった。
 
 
 
 …飲み会で見せてくれたきんときの笑顔が好きだった。
 でも、Broooockさんのことを話すときの笑顔は、あの日見た笑顔の何倍も優しくて綺麗だった。
完全に、恋してる奴の顔だった。
 喉がキュッと締まって上手く言葉が出ない。
ズキズキと胸あたりが強く痛んで、息が上手く吸い込めない。
 出会った時のきんときの顔が脳裏に蘇る。
 …今になって気づいた。
 傘を渡したあの日、
店先で彼を見たあのときから、
 きんときが、好きだった。
 「…へぇ。」
 楽しそうにBroooockさんの話をするきんとき。
泣かないように強く握った拳に、爪が食い込む。
 相槌を打つので、精一杯だった。
 
 
 
 
 
 nk視点
 
 冷蔵庫から返ってくると、カウンターにシャークんはいなかった。
カウンターキッチンに残されているのは、シャークんが愛用しているミルだけ。
 (…?)
 きんときさんとそのお友達が話しているのを見ながら、シャークんの姿を探す。
 疑問に思いながら、冷蔵庫から取ってきた牛乳をカウンターに置くと、後ろのスタッフルームから音がした。
 ガチャ
 「!」
 ドアを開けると、こじんまりとした薄暗い部屋の中に、彼はいた。
 「…シャークん?」
 コーヒー豆が入っている棚をボーっと見つめているシャークんに声をかける。
 「っ…!」
 俺の言葉に驚いたようにシャークんがこちらを振り返った。
 「どうしたの?」
「……なんでもない。」
 俺の問いかけを軽く返して、シャークんは俺の横を通り抜けていく。
 「しゃーく、」
 「すいませーん!」
 「あっ…はーい!」
 呼び止めようとした途端、別のお客さんの声がした。
カウンターに立つ、酷く小さい背中を横目で見ながら、お客さんの元へと駆けていった。
 
 
 kr視点
 奥ゆかしくて品があるこの店のコーヒーは、評判通り美味かった。
満たされたお腹をさすりながら、きんときを見る。
辛そうだった顔が少しだけ良くなっている気がした。
その顔に安心してホッと息を吐く。
…俺に出来ること言ったら、これくらい。
 
 料理を完食し、お店を出る。
きんときと知り合いらしい店員の2人が店先まで見送ってくれた。
Nakamu君の後ろに隠れて、少し俯いていたもう1人の店員の子が気になったけど、きんときの知り合いなら多分悪い子ではないだろう。
 外から改めて店の外観を見る。
やっぱりお洒落なお店だ。
おまけに料理もコーヒーも美味いときた。
これは大満足の星5だな、と心の中で呟く。
2人にお礼を告げ、店を後にした。
 
 「きんとき、この後どうすんの?」
「俺バイト。」
「お、じゃあ道反対か。」
「そーだね。」
「じゃあね、きんとき。」
「うん、じゃあね。あ、奢ってくれてありがと。また今度お金返す。」
「いいっていいって。」
 律儀なきんときに苦笑しながら、きんときの後ろ姿を見送る。
 「…」
 …きんときとBroooockの関係は日に日に悪くなっていってる。
 俺がなんとかしないといけないのに、きんときの様子は酷くなるばかり。
 どうしたら、きんときを…
 「…?」
 耳に入った音を聞いて、足を止める。
どうやら、この店の路地から聞こえてるみたいだ。
 …これは、話し声?
店横の路地。
薄暗い路地の奥の方から、なにやら言い争っているような声が聞こえた。
 (この声、聞いたことある気が…)
 いつもならスルーしてるけど、今日はなんとなく気になって、路地に入っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 nk視点
 「ま、待って、シャークん!」
 しばらくして、きんときさんとその友人が退店した。
2人を見送ったあと、逃げるように店裏に向かうシャークんを慌てて追いかける。
細い腕を掴むと、ようやくシャークんは立ち止まった。
 「どうしたのシャークん、今日なんか変じゃない…?」
 息を整えながら、シャークんに問いただす。
店裏の狭い路地裏の中、換気扇の音だけが耳に入った。
 「きんときさん来てから、いつもと違うしさ…」
「…」
「疲れてるなら休んだ方が…、、!!」
 シャークんがこちらを振り返る。
ゆっくり顔を上げたシャークんの顔を見て、体が固まった。
 「な、んで、泣いてんの…?」
 シャークんの頬に流れる涙を見て、目を見開く。
 俺が驚いていると、シャークんはいつもより低い声で言葉を紡いだ。
 
 
 
 shk視点
 Nakamuの言葉でようやく自分が泣いていることに気づいた。
慌てて頬に手をあてるが、涙は止まってくれない。
 「…今日、先帰る。」
「え…、」
 震え声でそう言って、Nakamuの横を通ろうとする。
 「待って!」
 でも、許さないと言わんばかりにNakamuに腕を掴まれた。
 若干の苛立ちを感じながら、Nakamuを見上げる。
 「っ…」
 Nakamuの顔を見て、体の動きが止まった。
 「…隠さなくていいんだよ。」
 聞こえたのは酷く優しい、Nakamuの声。
 「え……?」
 俺を見るNakamuの顔は真剣で、冗談で言ってないことはすぐ分かった。
Nakamuがゆっくりと俺に近づく。
 「…俺さ、一応お前の親友じゃん。シャークんが困ってんなら、力になりたい。」
 「っ…」
 Nakamuの言葉を聞いて、目頭が熱くなる。
喉の奥が痛くなって、もう、我慢できなかった。
 
 
 
 
 
 
 「…お、おれ…きんときのこと…、すきだった…」
「!」
 ボロボロと、涙と共に言葉が溢れていく。
拭っても拭っても、涙は止まらなかった。
 「『だった』?『だった』ってどういうこと?」
 Nakamuが俺の顔を覗き込む。
さっきのことを思い出して、更に涙が溢れてきた。
 「でもあいつ、好きな人、いるから…」
「っ!」
 俺の言葉にNakamuが声を上げる。
 「何言ってんの!?」
「え…」
 反射的な速さで出た言葉に、体が固まった。
 「なんで、勝負もしてないくせに勝手に諦めてんのっ!」
「っ…」
「シャークんがそんなんになるくらい、きんときさんのこと好きなんでしょ!そんな簡単に諦めないでよ!」
「……俺だって!俺だって、好きで諦めてねえよ!!」
「じゃあなんで…!」
 至近距離でNakamuの顔が映る。
Nakamuの頬にも涙が流れていた。
歪んだ顔で声を荒らげる親友を見て、自身の口から出た声が震える。
 「あの人に、Broooockさんに!俺が、かなうわけない…」
「そんなのわかんな…」
「分かるわそんくらいっ!!俺より身長も高くて、俺みたいに目つきも悪くない!俺にないもんぜんぶ持ってる!!」
 自分の声が路地裏に響く。
涙は出っぱなしで、たぶん今の俺は酷い顔してる。
 「俺が、勝てるわけねえんだよ…」
「っ…」
 俺がBroooockさんに勝てるわけない。
きんときに似合うのは、俺より…
 
 
 
 
 
 
 「ねぇ、あの…、」
 
 
 
 「「!!」」
 
 
 
 2人が言葉に詰まった時。
背後から、聞いたことがある声がした。
驚いて背中がピクリと跳ねる。
慌てて後ろを振り返った。
 「!あんた…」
「きんときさんの、お友達の…」
 後ろにいたのは、きんときと一緒に来ていた、金髪の人だった。
 「話、聞いちゃったんだけど…」
 金髪が、ゆっくりと俺の顔に視線を動かす。
 「君、きんときのこと、好きなの…?」
 
 
 
 
 
コメント
4件
どう転がっていくのかわからなくてワクワクしながら読んでます!krさんはどこまで真実を話すんだろう…✨
凄く々このお話大好きなのでとても続き気になります……😭読んでてきんさん可哀想だなって思うんだけどそれがまた可愛くて、ぶるーくはもう、なんだろう、とてつもなくクズな感じかしてそれもまた良くて、…あとシャークん、!!シャケもっとアタックしちまえ!って思いながらいつも見させて貰ってます笑。とにかく、きんさんが可哀想で可愛い…‼️‼️💕