金髪の人の視線が刺さる。さっきまで泣いてた顔を見られたと思うと、息が詰まった。
声を出そうとしても、喉が痛くて音にならない。
「い、いつからそこに…」
「えっと…わりと、最初の方から…」
Nakamuが聞くと、金髪が気まずそうに視線を逸らした。
「ごめんね、盗み聞きしちゃって…」
「…」
「その…きんときって、あのきんときのことだよね?」
金髪の言葉に黙って頷く。
「あのさ、」
…もしかしたら、きんときに告げ口されてしまうかもしれない。
不安に駆られ俯く。
でも、金髪の口から出たのは意外な言葉だった。
「きんときのこと、助けてやってくんない…?」
「え…?」
金髪の言葉に耳を疑った。
驚いて目を見開く。
横を見ると、Nakamuも全く同じ顔をしていた。
「ど、どういうことですか…?」
「助けてやれって…」
俺らが困惑しながら声を出すと、金髪はスっと深く息を吸って、ゆっくりとこっちを見た。
「…きんときに普通の恋愛をさせてあげてほしい。」
「え…?」
kr視点
今のきんときを助けてあげられるのは、この子しかいない。
ごめんね、きんとき。
親友の恋愛事情を人に話すなんて、良くないことだけど、今回だけは許してほしい。
「あのね、」
俺は、きんときのBroooockの関係を全て話した。
nk視点
誰も通らない、店の路地裏。
響く音は換気扇の音だけ。
そんな静かな空間の中、目の前の男が、ゆっくりと話し始めた。
きんときさんが、大学の友人に片思いをしていること。
その片思いを拗らせて、良くない関係になって行ってしまっていること…
彼から出てきた言葉はどれも衝撃的で、一気に情報を処理するには脳が混乱した。
シャークんは何も言わず黙って話を聞いていた。
きっと、シャークんも混乱しているのだろう。
きんときさんのことが好きなシャークんなら尚更。
「…きんときは、普通の恋愛を知らないんだよ。」
全てを話し終えた男が、静かに声を出す。
話すたび歪む顔が、彼の苦労を物語っていた。
「きんときの今の状態は危険だし、俺が止めなきゃいけないのは分かってる。」
「…」
「…でも、俺じゃ無理だった。」
「っ…」
「でも…!君なら、きんときのことを止められると思う。」
「!」
男が、シャークんを真っ直ぐ見る。
「きんときが普通の恋愛を知れば、きっと変わる。」
「!」
shk視点
「それって…」
「…シャークん、もう時間だよ。戻らないと…」
金髪に聞こうとすると、Nakamuがそれを遮った。
スマホを見れば休憩時間はとっくに過ぎていた。
「…分かった。」
「…ごめんね、急にこんな話。」
「いや…、」
「…君がもし、まだきんときのことを好きなら、」
黄金色の瞳が真っ直ぐ俺を見る。
「きんときのこと、助けてあげてほしい。」
「っ…」
「……じゃあね。」
金髪がくるりと踵を返す。
「あの…!!」
路地裏を出ようとする背中に向かって声をかけた。
金髪がこちらを振り返る。
「俺、、」
金髪の言葉を聞いて、動揺したのは事実だ。
でも、俺がきんときを思う気持ちは変わらなかった。
それを伝えたいのに、上手く言葉が出ない。
言葉を詰まらす俺を見て、金髪は優しく笑った。
「頼んだよ。」
「っ…!」
「一緒に、きんときを助けよう。」
金髪の言葉に深く頷く。
「じゃあね、仕事がんばって。えっと…」
「あ、俺Nakamuです。こっちがシャークん。」
「俺きりやん。Nakamuとシャークんね。よろしく。」
きりやんさんはそう言うと、路地裏を抜けていった。
「シャークん…」
Nakamuが心配そうにこちらを見る。
「俺、もう逃げない。」
「…うん。」
俺の言葉に、Nakamuが笑う。
「よし!早くシフト戻ろ!店長に怒られちゃうし。」
「うん。」
Nakamuの言葉に頷いて、エプロンの紐を強く結んだ。
kn視点
すっかり日が沈んで、窓の隙間からは冷たい風が吹き込む。
スタッフルームのデスクで在庫確認をしていると、ドアの外から足音が聞こえた。
ガチャ
「!」
ドアを開けて入ってきたのは、スマイルさん。
白いシャツに大きめの黒いカーディガンを羽織っていた。
俺の方を見て、なにやら驚いたように目を見開いている。
「なんですか?」
「なんかお前、最近いつもいないか?」
「あー、」
スマイルさんの言葉に目をそらす。
「稼ぎたいんで…」
ガチャ
再びドアが開いて、見ると私服姿の店長がいた。
「こんにちは。」
「おつかれ。きんとき君、在庫確認ありがとね。」
「大丈夫です。」
「今日はきんとき君とスマイル君だけだから。仲良くやってね。」
「…っす。」
スマイルさんと2人きりの事実に心が沈む。
明らかに自身の気分が下がっているのを感じていると、店長に肩を叩かれた。
「そういえばきんとき君、最近いっぱいシフト入ってくれてるけど大丈夫なの?」
「あ、はい!全然大丈夫です!」
「そう?体調には気をつけてね。」
「大丈夫です、若いんで!」
笑顔でそう返すと、店長は安心したような顔をしてスタッフルームを出ていった。
「トイレ掃除してくる。」
「あ、はい。お願いします。」
スマイルさんがスタッフルームを出ていき、部屋は俺1人だけになる。
「…」
張り紙だらけのコルクボード、書類が積み重なったデスク…
部屋の中を意味もなく見ていると、きりやんに言われた言葉が鮮明に蘇ってきた。
『きんときは、今、幸せ?』
きりやんに言われた、その言葉。
その言葉が何度も、頭の中でこだまする。
Broooockは俺の事好きじゃない。
そんなの分かりきってる。ずっと分かってるのに。
心のどこかで、期待してしまっている自分がいる。
本当は、好きだとは言わなくても、少しの好意なら抱いてくれているのではないか。
そんな希望的観測が頭に渦巻く。
Broooockに対する好意は諦めたくない。
諦めたくないけれど…
…きりやんにあれだけ迷惑をかけているのに、Broooockのことを好きでいていいのだろうか。
諦めなきゃいけないのに、諦められない。
考えるたび、体が重くなる。
キャスター付きの椅子の背もたれに体重をかけると、椅子が鳴いた。
五連勤目のバイトで頭が疲れてきてしまっているのかもしれない。
なんで、こんなことしてんのかな…
sm視点
今日は比較的客が少なかったから、早めに閉店作業をすることにした。
カウンターの上を片付けていると、あるひとつのグラスが目に入った。
グラスに微かに残る青いカクテル。
深い青色のそれは、きんときの瞳の色によく似ていた。
そういえば、最近きんときの姿をよく見るようになった。
さっきシフト表を見て分かったのだが、どうやらアイツは最近はずっと開店から閉店まで働いてるようだ。
ただの大学生なのに、そんなに金がいるのだろうか。
ガタッ
「!」
考え事をしていると、酒が残ったグラスを倒してしまった。テーブルの上に、鮮やかな色のカクテルが広がる。
「きんとき、布巾。」
スタッフルームにいるはずのきんときにそう声をかけるが、返事はない。
「…?」
ガチャ
「きんとき?」
不思議に思ってスタッフルームを開ける。
「え…」
スタッフルームを開けて目に入った光景を見て、体が固まった。
「おい、嘘だろ…」
目に入ったのは、書類だらけのデスク。
そして、その上で突っ伏して寝ているきんときだった。
誤字はおおめに見てください。
コメント
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言った!krさん言った!shkも頑張れ!そしてknは休め!あと一度よく冷静になって考えるんだ!みんな整理整頓とか含め休め!