「樹さん? 何ですか?」
「これ、この荷物運ぶの手伝って」
目の前に置かれた1つのダンボール。
え? これを私に運べって?
「あの……」
「早く持って、着いてきて」
よくわからなかったけど、とりあえずダンボールを持って、樹さんのあとを着いていった。
中身は…何? すごく軽いけど……
私達はフロアを出て、エレベーターで最上階に向かった。
最上階に着くと、「ここに置いて」と、樹さんが言った。
「あっ、はい。わかりました」
言われるままにダンボールを下ろした。
そこは、大きな窓のある見晴らしの良い場所。ソファがいくつかあって、外を眺められるようになっている。
ちょうどその辺に立ちながら、樹さんが言った。
「柚葉。柊と何かあった?」
「えっ……」
樹さん、私達の様子がおかしいことに気付いてたんだ。
「い、いいえ。別に何にも……」
会ったばかりの人に話せることじゃない。
しかも、樹さんはちょっと怖いし。
「お前、嘘が下手過ぎる。朝は目が腫れてたし、今日は柊と一言も話してないだろ」
うわ、鋭い。
「ケンカでもしたのか?」
「あの、放っておいてもらえますか? 樹さんには関係ないんで」
「関係なくない。今日1日、柊の覇気が感じられなかった。無理して頑張ってる感じだ。柊があんなだと仕事に支障が出る」
そんな……
そんなに柊君は落ち込んでるの?
本当は私のこと、どう思ってるんだろう?
やっぱり、柊君の気持ちを聞きたい。
今の柊君の素直な気持ちを。
「樹さん、ごめんなさい。確かにケンカみたいな感じになってます。でも、柊君とは今夜ちゃんと話そうと思ってますから」
「結構、大変そうだな」
樹さんは、私の顔をじっと見ながら言った。
そんな、ジロジロ見ないでほしい。
今日の顔は、きっと、今まで生きてきた中で1番最悪だろうから。
「その話し合い、俺も立ち会わせて」
「樹さんが? どうして……ですか?」
少し黙る樹さん。
「ちょっと……な」
そう言って、また黙った。
「もしかして、樹さんは、柊君の女性関係のこと知ってたんですか?」
樹さんは、ため息をついてから、その質問に答えた。
「最近の柊のことはよく知らない。それは、本当だ。俺は、柊のことは悪く言いたくない。だけど、昔からあいつのことをずっと見てきたし、あいつのことは誰よりもわかってるつもりだ」
私は、樹さんの言葉に真剣に耳を傾けた。
「もし、お前が柊の女性関係で悩んで、その……そんなに目を腫らしてたんなら、俺、黙ってられないって思ってる」
樹さん……
「私、正直、この先どうすればいいのかよくわからなくて……」
何故だろう、私、樹さんを頼ってる?
樹さん、どうして私をここに連れてきたんだろう?
もしかして、この話をするために、わざわざフロアから連れ出した?