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本当の柊君がどんな人なのか、それを聞くのはすごく怖い。
だけど、知らなきゃいけない。
「あの……やっぱり一緒に聞いてもらえますか? 柊君と話す時……」
「ああ、わかった」
「すみません。2人の問題なのに付き合わせてしまって。ありがとう……ございます」
「……。仕事が終わったら、社長室で」
そう言って、樹さんは、私が持ってきたダンボールを拾い上げて、さっさとエレベーターに乗った。
樹さん、私のことを気にかけてくれてるの?
ううん、まさかね。気にかけてるのは私じゃなくて、柊君の方だよね。
大切な兄弟なんだから、柊君のことが心配なんだ、そして、もちろん会社のことも――
確かに、柊君と2人で話すのは怖かった。だから良かったのかも知れない。
誰かがいてくれた方が、少しは冷静になれる気がするし……
それでも、心臓は小さく音を立てる。
まだ、自分の気持ちは全然整理がつかないし、話し合いの中でどんな感情が溢れ出すのかもわからない。
本当に冷静でいられるの?
私達は、付き合って間もないカップルではない。結婚式を目前に控えたもうすぐ夫婦になるはずだった2人なんだ。
だからこそちゃんと考えて答えをださないとダメだと思う。
だけど、やっぱり無理なんだ。
今はきっと、感情に任せるしか……
考えても考えても、答えなんて出せるわけないから。
大好きだった柊君との別れ……それがどれだけ辛いか、想像しただけでこんなにも胸が苦しい。
冷たい心のままフロアに戻ったら、柊君はまだ社長室にいた。
私が樹さんと話したことは、知らないみたいだ。
ガラスの向こうの柊君は、いつもと何も変わらない。
パソコンに向かってる姿は、やっぱりかっこよすぎて……
本当に、どうしてこんなことになったんだろう。
どうしようもないくらい、私は柊君が大好きなのに。
時間は無情にも過ぎ、とうとう終業時間がやってきた。
みんな、次々と帰ってゆく。
残業組が全員帰るのを待ってから、私は社長室に呼ばれた。
樹さんは、少し離れて黙って椅子に座ってる。
樹さんが残ることは、きっと柊君は自然に受け入れてるんだろう。
ゆっくりと、柊君が私に近づいてきた。
空気がピンと張り詰める。
私の前に柊君が立って、そして、話し始めた。
「柚葉。昨日は驚かせてごめんね。でも、僕の気持ちは変わらない。僕は柚葉が好きだ。愛してる。だから、結婚してほしい」
柊君は、真剣だった。
――と、思う。
愛してるから結婚してほしい。
その言葉は、柊君がプロポーズの時に言ってくれた言葉だ。付き合って1年半後の私の誕生日に、柊君がプレゼントしてくれた大切な言葉。
あの時、私は、本当に体が震えるくらい嬉しかった。