高校に入っても、あいさつが飛び交うことは変わらないらしい。
「おはよう!」
「おはよ」
「おっはよーございまーす!」
各自個性の現れるあいさつをし、みんなは教室に入る。
ちなみに僕は、「………………」と無言で会釈をして教室に入る。
そう、お察しの通り、僕の高校デビューはあっけなくできずに終わったのである。
友達もできていないし、正直学校なんて行く必要なんてないんじゃないか。
春風がふく。
教室に桜の花びらがふわっと入り、僕の頭に乗った。
僕はそれを取って、桜の花びらを外へ放つ。
窓に目を向けると、あの日のように桜が舞っていた。
その時、君は現れた。
君は桜の木の幹に座って、桜に手を乗っけて足を揺らしていた。
まるで、今にも死んでしまいそうなほど細い体に、僕は見つめていた。
しばらくすると、僕は彼女と目が合った。
彼女は、あっと声を上げるように小さく口を開け、そして、小さく微笑んでくれた。
そして彼女は僕に手を振ると、彼女は木から軽やかに降りてどこかへ消えていった。
なんで彼女がここにいるのか、なんでそんなところにいるのか。
そんなことを考えたのは時間がかなり経ってからで、それまではずっとボーっとして彼女がいた場所を見つめていた。
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「ねー、れんどーくん!」
明るく、無邪気な声が聞こえてそちらに意識を向ける。
二つに束ねた髪の上についた赤色のリボン。
少し丸顔の童顔。
明るく、無邪気で人を疑うことを知らない声色。
夕日の色をした瞳は、まるで魅了されてしまいそうだ。
「なに?」
僕は少しめんどくさそうに顔を上げた。
彼女は僕の顔をじーっとみた後、にこっと笑ってこう言ったのだ。
「ね、れんどーくん、私と付き合って?」
「は……………?」
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僕はこの間、告白された。
相手は陽キャ女子である。
とっかえひっかえ男と付き合っているらしいが、大体すぐ別れているらしい。
でも、歴代彼氏って確かイケメンばっかだったはずだ。
正直結構可愛い彼女は歴代彼氏が証拠なように、男なんかいっぱいいるはずなのに。
なんで僕なのか、さっぱりわからない。
もう一度あの日のことを振り返るーーー
「ね?いいでしょ??」
そして彼女はあっと声をあげて、そういえば一応自己紹介しなきゃ、と言い、僕の返事を待たずに続ける。
「小涙 萌だよ〜、名前は覚えてると思うけどね!」
僕はふとさざなみってなんて書くんだろうと思って聞いてみた。
「さざなみって、漢字どうやって書くの?小さいに、波?」
彼女はさっきみたいな笑みを消した。
一気に雰囲気が変わった気がした。
「小さいに、涙。」
そして彼女は自嘲するように言った。
「あはは、小さい涙なんて、なんか暗いよね〜。
だから私のこと、小涙さんって呼ぶんじゃなくって、萌って呼んでよ〜?」
僕はそんな彼女の表情で彼女の今までの苦労を悟った。
だから、そんな苦しそうな表情で下を向いている彼女へ励ましを込めて、小さい声で小涙、と呟いた。
「?」と彼女は不思議そうに首を傾けた。
僕はそんな彼女にこう告げる。
「いいじゃん。世界に一つだけの苗字。」
彼女は、黙ってしまった。
僕は慌てて、「ご、ごめん」と謝るけれど、彼女はこちらを向いてはくれない。
そのかわりに、涙をぽたぽたと落とし始めた。
「へ?」と僕が間抜けな声を出すと、彼女ははっとした顔をして、「ち、違うよ!?悲しいんじゃなくて、う、うれしい、から………」と言った。
嗚咽に混じった彼女の本音は、守りたくなるほどの弱々しかった。
彼女はいつもの明るい声をなくしているからか別人みたいに見えた。
いつもの赤色のリボンも、へしゃけて見えた。
「あ、あのね、私、ずっといじめられてたんだ。」
僕は目を見開いて彼女を促した。
彼女は顔を伏せたまま続ける。
彼女の昔話が始まったーーーーーーー
「おい、泣き虫!」
「えーっと、泣き虫さんであってるよねぇ〜?(笑)
「小波さん、意見は…………」
「せんせー違うよ〜?泣き虫さんだってば。」
「………あはは、そうでしたね、な、泣き虫さん、ですね」
「あー!先生も認めたの〜!?
もうさ、名札も泣き虫って書いとこーよ。」
「あーそれな、いいじゃん、賛成ー」
私ね、いじめられてた原因がこの苗字だったの。
泣き虫って言われてる私をみても、その言葉は昔の私にぴったりだったからだれも否定なんてしてくれなかった。
私はすぐ泣いて、先生に縋った。
でもね、そんな私に先生も見捨てたんだ。
先生も、泣き虫さんって言うようになったの。
そしたら私はまた泣いた。
泣いて、泣いて、泣いた。
泣き続けた私には、誰も振り向いてくれなかった。
小さな涙の海に一緒に飛び込んで、救い上げてくれた人なんて、、、いなかった。
悲しくて、苦しくて、どんどん私は陰っていった。
でも、でもね、そんな私に、天使みたいな子が突然現れたの。
名前は聞けなかったけど、私を見つめて、そして言ったの。
「死にたいって、思ってるの?」って。
私はそれまでぐちゃぐちゃだった。
でも、そんな感情に名前がついた。
死にたかったんだな、って、心にぴったり当てはまる言葉がわかって、パズルのピースがうまった。
「うん。小涙って苗字を殺したいの。
私を、殺したいの。」って、声を何とか絞り出した。
そしたらね、その子、その女の子ね、言ったの。
「そっか。ちょっとわかる。
私の苗字、青空なんだけどね、
だれも私のこと苗字で呼ばないからさ、
なんで?って友達に聞いたら、あんたはそんなに綺麗じゃないからって。
それからは苗字を恨んだ。
青空のせいで、私は比べられる。
あの青い空に見合ってないって言われる。
苗字って捨てられないからさ、よっぽどじゃない限り。
一生持ってる持ち物なんだよね。
結婚しても、「私の苗字」は青空じゃん?」って。
その言葉を言ったその子はね、泣きながら、でも笑ってて。
でね、言ってくれた。
「一緒に死ぬ?」って。
私はきっと人生に一度しかない体験をした。
私は、こんな悪魔の誘いをしてくれる天使の手を取った。
「じゃあ、今日屋上で会お。」
彼女はそう言ってひらひら手を振ってどこかへいってしまった。
私はその後屋上へ行った。
自分が死ぬ場所を見ておきたかった。
そこはすごく居心地が良かった。
もう、今からでも死んじゃおうかって思うくらい。
でもね、私はちゃんと約束守ったよ。
待ってた。
ずっとあの子と一緒に死ぬのを待ってた。
でもね、彼女は現れなかったの。
だって、彼女は私との約束のために屋上へ向かった時、死んでしまったから。
車に撥ねられたんだって。事故だった。
でもね、不思議なことに、遺書があったの。彼女の机の上に。
ドライブレコーダーを見る限り、100%事故なのに。
変なの。まるで彼女、死ぬことがわかってたみたい。
残された遺書は、こう書いてあった。
お父さんへ
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お母さんへ
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そして、
死にたがりの君へ
君がこれを読んでるってことは、私は君の前から消えたんだね。
ごめんね、一緒に死のうって約束したのに。
でもね、約束もう守れないからさ、
君も守んなくていいよ。
生きてよ。私への罰として、君が。
私がひとりぼっちでいるために、君は生きるの。
君の苗字は小涙なんでしょ?
じゃあ、その苗字通り、小さな涙を流して、そして前を向いて?
私はその背中を押すよ。
それが私の灯火が消えることを指していても。
それでも、私は君に生きてほしい。
私なら大丈夫。
私は、また別の人を救いに行くだけ。
死ぬんじゃないから安心してよ。
死ぬのは君と一緒だからさ。
頑張って。君をずっと応援してる。
そうだ、言い忘れてた。
私のこと、次会う時は空って呼んでよ。
その時までに、私は青空みたいに綺麗になってるから!
小涙。
私、その苗字、素敵だと思うよ。
世界に一つだけの苗字じゃん。
いつか、私、君に会いに行くよ。
その時には、君の横に、小涙って、優しく呼んでくれる人がいますように。
その時までは、私は君に会いにいけない。
だから、また、ね。
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君なんだね、私の、待ってた人は。
小涙って、優しく呼んでくれる人、ずっと探してた。
色んな人と付き合ってみたりした。
でも、見つかんなかった。
こんなとこに、いたんだ。
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繋がる二人の少女、そしてそれを繋げる一人の少年。 死が真近にある物語。第二話!ー