今は数学の授業中。昨日勉強したからか、大体の内容はわかった。
「今日は阿部先生来ないのかぁ」
授業中に呟いた。誰にも気づかれることなく。だが、康二を除いて。
「めめ絶対その阿部先生って人に恋しとる」
先生の話を聞きながら康二も呟いた。恐らく向こうは気づいていないと思っているが、こっちはまんまと気付いている。とりあえず今は聞き流しておいたが後で言っておこう。
授業が終わり昼休みになった。
「ねえ康二」
康二があまりにも暇そうだったのもあるが、さっきの授業中の件で話そうと思っていた。
「さっき俺が恋してるって言ったよね?」
「い、言ってへんでぇ?何のことやろ…人違いやないかな?」
相変わらず康二は噓が下手だ。いや、下手過ぎだ。
「康二の噓は通用しないよ。下手過ぎる」
「しゃーないやぁん」
康二はむすっとしているが、どうしようもできない。噓が下手なのは事実に過ぎない。
「あのねぇ!まずまず俺、恋なんかしてないから。ね?わかったね?」
少し圧をかけてみていったが効果はあるだろうか。
というか、あの時の康二はなぜかいつもの独り言より声が大きかった気がする。今思えばあれは微妙にわざとらしかった。
「やっば。もう昼休み終わるじゃん。行こ!康二」
「お、おん!」
自分が思った以上に鈍間だと今気づかされた気がする。そんなことを思いながら俺は康二の腕を引っ張って教室に連れて行った。
「じゃあばいばい」
「また月曜な!」
今週最後の俺と康二の会話は30秒もたたずに終わった。通学路が真反対で、一緒に帰ったことはない。だからいつも1人で帰っている。
門を通った後、いつも通りの道を通り、いつも通りの景色を見ながら帰った。
「ただいま」
「お帰り蓮。いつもより早いわね」
「寄り道してないからね」
俺はそう言いながら笑い、手を洗ってから自分の部屋に行った。
机には、昨日勉強した残骸が残っている。今日も勉強をしようと思ったが、阿部先生がいないとなぜかやる気が出ない。俺はそんなに単純だっただろうか。自分のことなのになぜか気が引ける。いや、自分のことだからだろうか。
「あーべせーんせー」
椅子に座って天井を向きながら呟く。
「あら、来てほしいの?」
聞こえてたのか、お母さんがノックもせず俺の部屋に入った。そんなことはどうでもいいのだが、どこから盗み聞ぎをしていたのだろうか。聞く間もなくお母さんはどんどん質問攻めをした。結構うるさい(笑)
「お母さんさぁ、あのね。なんで盗み聞ぎするのさ。てかどんだけ耳いいの」
いや、あの声は壁越しだと聞こえないだろう。
「まあまあ。で、阿部ちゃん先生?だっけ。電話すれば来るんじゃない?」
多分それはない。ほかの人も教えている可能性も高いだろう。お母さんはそんなことすらわからないのだろうか。
「明日来るし、いいよ」
「そう。じゃあご飯できたら呼ぶから」
ちなみに阿部先生がうちに来る日は月・水・木・土・日で、週5回くらい来る。聞いたときは『ハード過ぎて無理』と思ったが、あの先生なら週何回でもいい。いっそのこと俺の家で一緒に暮らしたいくらいだ。あ、これが康二が言っていた{恋}なのか。いまいちわからなかった。
コメント
16件
めめ、それは恋だ!絶対恋!1000000000000%恋だ~!