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夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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西原衣都
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猫塚ルイ

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鞄を置いて脱衣場へ向かうと服を脱いで早々にお風呂へ入る。
シャワーを浴びながら居酒屋での出来事を思い出しては頭の中で“大丈夫”という言葉を繰り返していた。
そして、風呂から上がり、髪を乾かして部屋着に着替えてからベッドに腰を下ろしたタイミングでスマートフォンに手を伸ばす。
画面を開くと通知の表示があり、開くと昴からのメッセージが届いていた。
《大丈夫ですか? 困ったことはありませんか?》
短い文面ではあるけれど、その裏にある気遣いが伝わってくる。
羽衣子は一瞬、画面を見つめたまま動きを止めた。
頭の中に浮かぶのはサインした契約書のこと。
不安はあるけれど、それを昴に話せば彼は更に心配をするだろうと思った羽衣子はこれ以上自分のことで負担を掛けたくないと話すことはせず、
《大丈夫です、もう帰宅しました。気にかけてくださって、ありがとうございます》
それだけを送った後で、スマートフォンを置いてそのまま眠りについたのだった。
それから暫くの間、羽衣子の周囲は驚くほど静かだった。
あの日の出来事がまるで嘘だったかのように、日常は何事もなく流れていく。
園でも特に問題は起こらず、羽衣子はいつも通り園児たちに囲まれて過ごしていた。
「先生、これ見てー!」
小さな手に握られた画用紙を差し出され、羽衣子は柔らかく目を細める。
「わぁ、上手に描けたね。これは何を描いたのかなぁ?」
「あのね、わんちゃんとねこちゃんー!」
「そっか、可愛いね」
笑顔で応じながらも胸の奥にはほんのわずかな引っかかりが残っていた。
けれど、それを意識する時間は日を追うごとに減っていく。
あれ以来、園でも自宅周辺でも不審者の姿は一度も見かけていない。
園でも当初こそ話題に上がっていたが、次第に誰も口にしなくなり、保育士たちの警戒心も少しずつ薄れていった。
「最近は何もないね」
「このまま落ち着いてくれればいいけど」
そんな会話が耳に入るたび、羽衣子自身もまた、どこかで安堵していた。
そしてもう一つ、変化があった。
それは想汰からの連絡だ。
あれ以来、想汰は以前とは比べものにならないほど頻繁に連絡をするようになっていく。
《この前は本当にありがとな》
《お陰で仕事も順調だよ》
《本当に助かった》
《また近いうちに食事でも行こうな》
短い文面ばかりだったが、その一つ一つがどこか安心させるような響きを持っていた。
「……よかった」
小さく呟き、羽衣子はほっと息をつく。
連絡が取れているというだけで、不思議と不安は薄れていくのだろう。
あの契約のことも最初こそ気がかりだったが何も起きない日々が続くにつれて、その感情は次第に薄れていく。
(やっぱり、考えすぎだったのかもしれない)
そう思う自分がいて盗聴器の件も早い段階で見つかったおかげで実害は無く、むしろ見つかったからこそ安心出来た部分もあるのだろう。
勿論どんな理由があろうと仕掛けていいものではないけれど、想汰を前にそのことを問いただすことは出来ないし距離を置くことも出来ない羽衣子は、
(……もう、忘れた方がいいのかも)
そう思うようになっていた。
不安を抱え続けるより、その方がずっと楽だと思ったから。
日常は更に穏やかさを増して時間だけが過ぎていった。
けれど、契約からひと月半ほどが経ったある日、その穏やかな日常は何の前触れもなく破られることになった。
休日の昼下がり、特に予定もない羽衣子は部屋で一人、穏やかなひとときを過ごしていた。
その静寂を破るように、インターホンの音が鳴り響く。
「……誰だろう」
小さく呟きながらドアホンの画面を確認した羽衣子は思わず息を止めた。
そこに映っていたのは、見覚えのない二人の男で、無表情のまま、こちらを見上げるように立っている。
胸の奥にじわりと広がる不安を押し込みながら、羽衣子はドアホン越しに声をかけた。
「……どちら様ですか?」
すると、男たちは一瞬の間を置き無機質な声で返してくる。
「吾妻 羽衣子さんですよね」
「……はい、そうですけど……」
肯定した瞬間、男の口から出た言葉に羽衣子の思考は一瞬止まった。
「本日は、債務の件で伺いました」
「……債務?」
聞き慣れない、自分には無関係なはずの言葉に理解が追いつかない。
そんな中、男は淡々と頷くと手元の書類を軽く持ち上げた。
「とりあえず出て来て、こちらを確認してもらえますか?」
逃げたい、という感情が喉元まで込み上げるがしかし、無視して済む話ではないと分かっている羽衣子は、
「……わ、分かりました。今行きます……」
震える声でそう答えて玄関へと向かう。
そして、ドアを開けた瞬間、
「これ、確認して」
対面するや否や、黒髪短髪で吊り目の男が紙を押し付けるように差し出したので、羽衣子は戸惑いながらそれを受け取り目を落とした。
そこに並んでいる文章を見た瞬間、息を呑んだ。
「……これ……」
男から渡されたそれは、先日想汰に頼まれて書いた契約書だった。
コメント
1件
うわああ待ってこれ最後の展開やばすぎる😱💦 平穏が戻って「もう大丈夫かな」って思わせといての、まさかの契約書が債務って…!!しかも想汰からの連絡増えてたのもフラグだったのかな…考えるだけでゾワゾワする😭 羽衣子が昴に心配かけまいとして強がってるシーンも胸がぎゅっとなる〜ッ!続き気になりすぎてソワソワが止まらないよ…ッ! 夏目萌さんの伏線の張り方、心臓に悪いけど好きです…!!💘