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⚠ハピエンではありません。

潔とネスで 奇病パロです。

⚠奇病 ※2種類 ⚠創作設定 有 ⚠腐ルーロック ⚠CP表現 有‬ ⚠原作フル無視 ⚠アニメ勢 ネタバレ注意 ⚠死ネタ



最終的にはネス潔











ドイツ『バスタード ミュンヘン』。指導者 ノエル・ノア。

そのチームの中に、潔 世一は入っていた。

ノア様に憧れて、手を延ばして、ダイレクトシュートを極め、両足で100%の力を発揮できるように練習中だ。

そんな潔が、練習場に現れなくなってから3日。あんなに熱心だった世一から、サッカーを奪ったもの。





それが、花吐き病である



黒名side


最近、潔の姿を見ていない。

フィールド上では勿論、ベンチにも、練習場にも、いつも使っているチームの共同スペースにも、モニタールームにも、筋トレルームにも、個人の部屋にも、潔の姿は見当たらなかった。

不調があるのだろうか…。左足でシュートを打てるように頑張ってるんだ!と笑っていた相棒の姿を思い浮かべる。いつもと変わらない様子だったが、疲労が溜まったのだろうか。

そうとなれば、個人の部屋で休息を取っているはずだ。

マスターも、詳しいことは聞いていないと言う。

絵心 甚八…そいつなら、何か知っているかもしれない。

シューッと、擦れた機械音を立て、扉が開く。

モニタールームの拡大版…?みたいな部屋で、モニターに向かい、ゲーミングチェアのような椅子に座りながらカップ焼きそばを食べている男に話しかける。

黒名「すみません。黒名蘭世です、失礼します」

学校で例えるなら、職員室のような場所だ。ここは礼儀正しくお邪魔しよう。

絵心「なんだ」

相変わらず モニターに向かってカップ焼きそばを啜っている。

まぁちゃんと聞いてるから問題ないか。

黒名「潔 世一って、どこにいるか教えてもらえませんか」

この男が知らなかったら、潔はどこに消えてしまったのだろう…と、嫌な妄想をして冷や汗が滲んだ。

絵心「潔 世一なら、地下の医療室で休息取ってるよー」

地下…?医療室…?初耳 初耳。

黒名「そんな部屋があるんですか…?」

絵心「なかったら教えてない」

まぁその通りだ。案内板見て訪ねてみよう。潔が元気かどうかだけ確認したい。

絵心「隠れて休息を取っているからには、何かしらの理由があるということを忘れるな」

と、釘を刺されたが、俺はそんなグイグイ訪ねていくような青薔薇とは違う。←

黒名「ん〜…心配心配」

と一人で呟きながら食堂に向かう。まだ夕食を済ませていなかった。

ネス「おや、蘭世。これから夕食ですか?」

聞き覚えのあるチームメイトの声が、前方から降りかかった。

俺は平均より身長が低めな上に下を向いて歩いていたから視界に入らなかったのだ。

黒名「まだ済ませてなかったからな」

ネス「奇遇ですね、僕もです」

黒名「カイザーは?いつも一緒にいるだろ」

ネス「クソ世一を探しに出かけてるので、今は一人です」

黒名「潔…心配だな」

ネス「クソ世一の心配するなんて僕らしくないですが、僕も少し心配です」

黒名「確かに、らしくない…」

ネス「ネスって呼んでくれても構わないんですよ?^^」

口が笑ってても 目が笑ってない。だからネスはちょっと怖い。

黒名「じゃあ遠慮なく」

ここは遠慮なく呼ばせてもらおう。

ネス「珍しく素直ですね」

黒名「いつもは潔に酷いこと言ってるから」

ネス「あれは10割、世一が悪いです」

すこし奇妙なオーラを漂わせながらネスが笑顔を浮かべる。怒らせたら怖いタイプだ(多分)。

黒名「ご飯ご飯」

思い出した。夕食貰いに来たんだ。

ネス「…僕も一緒に良いですか?」

こいつ、本当は一人苦手だったりするのか?

黒名「いいぞ」

と言うと、ネスは少し嬉しそうに隣の椅子に腰かけた。可愛いところあるなぁ…。

ネス「ここでこんな話おかしいかもしれないんですけど、蘭世は世一の事が好きなんですか?」

…好き、とは少し違う。相棒として好き。俺が気になってるのは、ネス…お前だよ。

黒名「いや…相棒として 好きだな」

ネス「そうなんですね!僕、実は…カイザーが好きなんです」

え…


ネスside


言っちゃいました…。

蘭世はてっきり世一のことが好きなんだと思ってました。違ったんですね…。

カイザーの好きな人はきっと…僕じゃない。世一はこの間、蘭世のことが好きって言ってましたね。

見事なすれ違い!

カイザー=? 僕=カイザー 蘭世=? 世一=蘭世

蘭世とカイザーは誰が好きなんでしょう…

これから少しずつ様子を見ていけば良いですよね!きっと。


潔side


黒名の好きな人がネスだって分かったのは、6日前。

黒名がスポドリを取り間違えて、ネスのを飲んでしまった時。

いつもの黒名なら「間違えた間違えた!!」と慌てて本人に返すのだけど、その時だけは違った。

顔を赤らめて、少し俯き加減でネスのところに走っていった。

いくら鈍感な俺でも、さすがに気付いたし、氷織たちも気付いてるみたいだった。

ただただ、悲しくなった。

俺は黒名が好きなのに…、なんで、黒名は…ネスが…ッ


試合終了後、いつも通り雑談をしながらゆっくりしていた時、唐突な吐き気に襲われた。

食道に突っかかっているのは夜食べた物かと思ったが、トイレの個室に籠って吐き出してみると花弁であった。

初めは疑った。花なんて出てくるものじゃないだろ((

しかも食ってねぇし!!

翌日は朝から体調が優れず、すぐにマスターに相談した。

すると、絵心に報告し、回復するまで休息を取るように と、人目に付かない方が安心するだろう と、地下の部屋まで用意して貰えるよう手配してくれた。

迷惑かけて申し訳ない…。

マスターに感謝しながら、部屋の荷物をすぐに移動させ、3日経った頃には地下で個人トレーニングが出来るくらいまで準備が終わった。

絵心さんは、無理だけはしないように と言い残し、それきり姿を見せていない。

ここもちゃんとモニターあるし、何かあったらそっち経由で連絡が届くだろう。

カイザー以外なら、体調がいい時だけ許可するつもりでいる。

俺はこの先どうなるんだろうか。ずっとこの病気に悩まされ続けるのだろうか…。

また、咳と同時に花が出てきた。どうやって生成されるかも分からず、行き場もない花弁や花々が、今の俺にはとても綺麗に見えた。

潔「片想い…か」

と呟くと同時に、扉の開く音がした。誰か入ってきたのだ。足音からして、体格のいい大人では無い足音なので、それぞれの棟のマスターでは無いことだけが分かる。

潔「どちら様ですか〜」

とカーテンから顔を覗かせる

黒名「潔」

聞き覚えのある声が帰ってくる。黒名だ。そうか、3日も顔を出していなかった…。別の人がそんな事になっていたら、俺も心配になる。元気な日だけでも、許可取って見学しに行けば良かったなぁ…なんて考えながら

潔「来てくれてありがとう」

と黒名に笑顔を向けた。トレーニングしてるから、筋肉量もそんなに変わってないだろうし、飯は食べる量が明らかに減ったけど、食べていないわけじゃないから、そんなに容姿は変わってないはず。傍から見れば、少し痩せただけの健康な男子高校生だ。

黒名「潔…痩せた」

唐突にそんな事を言われ、反応に困り、「え?」と上擦った情けない声を上げてしまった。ちょっと恥ずかしい。

黒名「トレーニングはしてる?ご飯はちゃんと食べてる?」

余程 心配をしていたのか、黒名に一気に質問攻めされる。

潔「トレーニングは個人で頑張ってるよ!ご飯も毎日ちゃんと食べてる」

と言うと、黒名はひとまず安心したようだ。

黒名「困ってることはないか?一人で大丈夫なのか?」

花を吐いているところを見られたくないし、何より…原因がお前だってことを知られたくないから、一人でいる方が俺的には気楽だった。だが、この病気になってしまった原因が目の前にいるのに、そんなことを言えるはずがない。

潔「この施設もだけど、この部屋いろいろ揃ってるからそんなに困ってることは無いかな!1人でも案外 暇つぶし出来てるし笑」

本当はこんな広い便利な部屋に一人で過ごし続けるのは、絵心さんにもマスターにも申し訳ないから、落ち着いたらこの部屋を出て普通にトレーニングを開始する予定だ。

黒名「3日も顔出さないから、何かあったのかと思って心配した、けど…元気そうで良かった」

花吐き病だから皆の前に出るのが怖いなんて弱音を吐けるわけが無い。それは 迷惑をかけるのが嫌だし、何より誰が原因かを突き止められるのが嫌だから。黒名の恋を、俺の病気のせいで終わらせたくない。ここ数ヶ月ずっと、黒名はネスの事を想っているはずだから。そんな恋心が、相棒である俺の病気のせいで呆気なく終わってしまうのを見るのが辛いし、黒名の顔を見るのも辛くなる。

黒名が俺の事を好きになることは無いんだ…。何の前触れもなく、花が出てきた。

ごぽっ…

鮮やかな色を身に纏った花弁が、床にパタパタと散乱した。俺は何が起きたのか分からず、床に散らばった花を見て硬直した。

黒名の目の前で、花を吐いてしまったのだ。


黒名side

潔が花を吐いた。花吐き病、と言ったか。そんな病気、空想上のものだと 勝手に勘違いしていた。でも、相棒がなってる以上、それは空想上のものだと笑い飛ばす事など出来ない。

好きな人と両想いになる…

そうすることで、花吐き病は治る。なんて、小学生の頃に女子たちが話していたことだけど、本当にそうだとしたら、世一が好きな人を教えてくれないと、俺は協力することが出来ない。

世一は一体、誰が好きなのか…。とりあえず、潔本人に確認してみよう。

黒名「潔…好きな人って…」

頭では冷静に考えられていても、まだちゃんと受け止められていないのだろうか、ところどころ声が小さくなって、聞こえているかいないかくらいの声しか出せなかった。

潔「ごめん黒名、また今度話そう」

そう言って、潔はカーテンの裏に姿を消した。俺も仕方なく出口に向かい、その後は普通に自室で朝を迎えた。


ネスside

横に眠るカイザーを起こすのが、ネスの役目。なのだが…今日のネスは、何だか ぼーっとしていた。熱がある訳でもないし、何け失敗した訳でもない、落ち込むようなことは何も無かったのに、その思考は「何もしたくない」だけで埋まっている。とにかく何もしたくないのだ。もうカイザーに優しくされることが怖くて仕方ない。優しい暖かい声を向けられたくない。

カイザーは昨夜、睡眠時間を削ってまで世一を探していた。今までそんなことは一度もなかったのに…。ネスが声を掛けても、そんなことなど耳に入りもせず、一人一人に 世一の情報を聞いて回っていた。そうしている内に、就寝時間を過ぎてしまった。

するとカイザーは、ぱっとこちらを振り返って、「もう遅いからネスは寝ろ。あとは俺一人で大丈夫だ」と言った。カイザーも疲れているでしょう…、それなのに、どうして探すのを辞めないんですか。どうして睡眠時間を削ってまで世一を─── あぁ、

そうか、カイザーは世一が好きなんだ。

蘭世=? ネス=カイザー 世一=蘭世 カイザー=世一

僕の恋は叶うことなんてない、カイザーに向かって反抗することも出来ないし、歯向かうことも出来ません。カイザーが世一を力ずくで手に入れれば、僕はただの不用品。ゴミ以下、捨てられる運命。

カラン と、鈴を鳴らしたような音が響いた。どこから鳴ったのか と疑問に思いながらも、ただ空虚を見つめることしか出来ず、ネスは何も出来なかった。

ただただ時間が過ぎていく。ネスは自分の目から雫が溢れているとも知らずに、空虚を見つめ続ける。救われることの無い恋心を抱いてしまったネスと潔。

どうなるのでしょうか…。


カイザーside

目を覚ますと、先に体を起こしていたネスが隣に座っていた。ネスがいつも起こしてくれるから、と夜更かしをしすぎたのか、あまり良い目覚めでは無い。それより、ネスがなぜ起こしてくれなかったのかが疑問だ。

重い体を起こし、ネスを見る。ネスは、感情の籠っていない目でどこか一点を見つめ、目からはキラキラと星のように輝く雫を流していた。ネスの涙は星のように輝いているんだなぁと不思議に思い、まじまじと見つめてしまった。

いや、練習に遅れたら周りに弄られること間違いなしだ。早く支度をしなければ と思ったが、ネスが動く気配がないというか…とてもじゃないが動けそうな状態ではないように見えた。

カイザー「ネス、起きているんだろう」

と少し優しめに声を掛けると、ネスはハッとしたように立ち上がった。

ネス「すみませんカイザー、何故か ぼーっとしてしまって」

と慌ただしく支度を始めようとするネスの手を止めた。

カイザー「今日は休め」

とだけ言い、俺は支度を始めた。ネスはびっくりしてカイザーを見つめている。「寝ないのか」と声を掛けると、渋々と布団に入り、大人しくなった。練習を休む事への罪悪感と、カイザーから離れたくないという不安があるのだろう、ダダ漏れだぞネス。まぁ いつも引っ付いてくるネスの事だ。俺から離れたくないというのは言われなくても分かっているつもりだ。昨日一人で先に寝かせたのは悪いとは思っている。ネスとは何年も一緒にいるのだから。

カイザー「マスターに報告したらすぐに戻る」

とネスの額に手を当て、熱がないことを確認しつつ、その場を後にした。

潔=? 黒名=ネス カイザー=ネス ネス=?


黒名side

今日の練習はやけに静かだなぁ〜と思いながら、疲れた体に スポーツドリンクを流し込む。昨日の世一の様子が引っかかり、あまり練習に集中できなかった。そのせいか、練習試合でもすぐにベンチに下げられてしまい、氷織にすごく心配された。そんな氷織の心配する言葉が上手く耳に入らず、上言のように返事を繰り返していると、さらに心配させてしまったらしく、氷織が使用している部屋に連れて来られてしまった。心配させてしまって申し訳ない。

氷織「黒名くん、何かあったん?」

と、氷織が顔を覗き込みながらタオルを差し出してくれる。

黒名「昨日、潔に会いに行ってきた」

氷織「お!潔くん元気やった?僕も探してたんよ」

やはり みんな心配しているらしい。3日前までカイザーと張り合い、練習試合では必ず一点ゴールを決めて喜んでいた潔が急に姿を消したため、動揺せずにはいられなかったのと、心配だし不安でもあるのだろう。みんな同じ気持ちなのだ。

黒名「潔、花を吐いたんだ」

と昨日の潔の顔を思い出しながら呟いた。黒名に見られたことに焦りを隠しきれず、顔色を悪くしてカーテンの裏に消えていった潔…。俺に見られたのがそんなにショックだったのだろうか…。俺に話せない理由はなんなのか、なぜ誰にも相談せず一人で頑張るのか、俺はそんなに頼りないのか…先輩としてのプライドがあるのだろうか。

沢山の疑問と焦りと不安が混じって汗が止まらない。

氷織「… 花、吐き、病…」

氷織がゆっくりと口を開き、病名を言った。

花吐き病は、2年ほど前にイングランドで初めて発症され、触れた者たちが次々と感染し、今では結構有名になったのだ。ニュースでも話題となり、今では誰もが知り、誰もがなりうる病として扱われ始めた。吐かれた花に触れなければ感染しないため、子供が安易に近付かないようにすれば問題ない病なのだ。感染力は然程強くはなく、同じ空間にいても問題ない。花に触れなければ。

それなのに何故、世一は人と関わることを避けるのか。試合に出るかどうかはマスターが判断して決めるから、症状が酷い時はベンチやモニタールームから観戦すれば問題ないし、環境も悪い訳じゃないから、掃除もすぐできる。施設内に花が落ちていれば、みんな気になっても触れようとはしないだろう。

花吐き病が流行ってからというもの、しっかりと管理された茎のついた花以外には触れないよう、対策をしようと、ニュースを始め、世界で呼びかけられ、今では 余程小さな赤ん坊でなければ、みんな落ちている花に触れないようになった。見るだけ、本当に見るだけなのだ。

観光地となっている庭園などの花々も、全て柵に囲まれ、関係者以外は立ち入ったり、花に触れたりしないように管理されている。許可なく触れた場合は罰金されるという、花に対しての対応が明らかに変わった。写真などはOKなので、みんなそれぞれの楽しみ方で観光をしているだろう。

俺は花に興味無いから知らない。

黒名「多分、潔は花吐き病なんだと思う」

氷織「触れなければ感染しないはずなんやけどなぁ…」

やっぱり氷織も、なぜ自分たちを避けてしまうのかが疑問らしい。潔なりの理由があるのだろうか…。それなら、無理に部屋から出さない方が、潔の精神的にも良いだろう。何にせよ、無理は良くないから。

氷織「見られるのが嫌だ…とか」

黒名「確かに確かに」

納得。確かにあの反応的にそれはありそうだ。見られることに抵抗があるのだろう。そうとなれば、誰が原因になったのか、だ。

ネス=カイザー カイザー=? 蘭世=ネス 世一=?


潔side


黒名に見られた。花を吐いているところを見られてしまった…。潔にとってそれは、一番避けたかった事態である。例え黒名が、ネスの事が好きだったとしても、一番長い時間黒名と共に居たのは潔自身である。その為、黒名が勘付く可能性が0とは言い切れないのだ。もし黒名が気付いてしまったら…。潔自身の為に恋を諦めなければならないんだ と気を遣わせてしまったら…。

そんな心配とは裏腹に、花はどんどん溢れてくる。

貧血状態にあるかのように、目眩が酷く、立ち上がれない日が増えてきた。食事や水分はしっかり取っていても、花はそれらを養分として成長し、外に出てくるのだろう。そのせいで、しっかり栄養を取っても全て吐き出してしまっている、という事になる。

誰かに頼りたくても、自分の体の事は自分で管理しなければならないと、潔は分かっている。だからこうして一人で耐え凌いでいるのだ。恋が実らなければ治らないこの病。一体どうしろと言うのだ。

早くみんなとサッカーがやりたい。フィールドを駆けて、ゴールを決めて、みんなに囲まれて賞賛されたい。それこそが、潔の喜びであり、世界に近付ける唯一の鍵なのだから。絆をつなぎ止めておくための、一つの手段なのだから。

「中学のレベルじゃねぇ!」「すげぇ潔!✨」「さすが!!」と褒められた思い出。

「よっちゃんすごいわね〜」と喜んでくれた両親。

そんな喜ぶみんなの顔と、自分のゴールのために先を見据えて、サッカーだけに全てを注ぐその瞬間だけが、本物の快感で、潔の大好きな瞬間なのに、

もう何日も、その快感を味わえていない───…


潔は日に日に追い込まれていった。

もうサッカーは出来ないのではないかと、何度も何度も諦めそうになった。花は養分を吸い上げ、潔から大切なものだけを奪っていく。潔自身も、周りも、もうどうしようもなかった。

チームメイト…カイザーとネスも含め、全員が代わる代わる見舞いにやってきた。みんな、潔の身を案じていた。気を遣って、病気のことについては、潔が話してくれるまで待っていてくれてるのだ。分かっていても、公表するのは怖くて、もう今ではみんなに笑顔を向けることすら難しくなってきた。その為、絵心さんに見舞いに来る回数を減らしてもらうように頼んだ。

快く受け入れてくれたのが救いだったと、今になって思う。


皆が見舞いに来なくなって3週間。毎日一人で闘病生活を送り、ご飯も柔らかい物しか体が受け入れず、動けない日が、一ヶ月に二回、一週間に三回、と増えてきていた頃…。そろそろかな、と覚悟を決め始めていた潔の隣のベッドに、新たな患者が来た。

同じように奇病に侵され、満足に生活を送れなくなり サッカーを続けるか続けないかの決断を迫られている患者だと、絵心さんは言った。潔は、顔を出してみることにした。もう満足に歩くことも出来なくなった足を必死に動かし、みんなの前で笑えていた頃からは考えられないような光を失った眼を使い、隣のベッド隠されているカーテンを開けた。

潔「…ネス」

そのベッドに座り、大粒の輝く雫を流していたのは、かつてメンバーと共に潔の元を訪れていた中の一人、アレクシス・ネスだった。

ネス「世一…どうしましたか」

潔はネスを抱き締めた。別にそうしたかった訳じゃない。そんな気があった訳でもないが、ネスは誰かに抱きしめてほしいと、叫んでいるように見えて…。無意識に抱き締めていたのだ。

ネス「クソ世一のくせに、珍しいですね」

と、ネスは笑った。

潔「お前は星涙病か」

と、世一も少し微笑んだ。ずっと一人だった自分に、仲間ができたような気分だったのだろう。ネスも、ずっと一人で悩んでいたのだ。世一のように。


いつものように、風呂から上がり、髪を乾かし、布団に入った。カイザーは、世一が闘病生活を送っていると知った日からずっと1人にさせてくれ、とサッカーの用事がない限り部屋から出て来ない。アンリは仕事がある中でも、カイザーとネスをしっかり診ながら、マネージャーとしての仕事を坦々とこなしていた。

さすが大人だな、とネスも関心した。

昔から、仕事は男が務めるもの。家事や子育ては女の仕事だと言われてきた。それは日本だけであるかもしれないが。でもよく考えてみると、女は家事をしながらでも子育てができる。つまり、家事をしながら仕事をこなし、子育ても両立させることが出来るのだ。

例えどれかが欠けていたとしても、出来るという事実は本物である。

その事から、アンリは仕事も選手の世話も器用にこなせていたのだろう。男より女の方がテキパキと完璧に仕事ができるのだ。

尊敬しかない。

ネスはそんなアンリを見ているうちに、自分がこのまま自室に居ても、アンリに迷惑をかけ続けるだけなのでは と考えた。アンリは、「選手の面倒を見るのも仕事ですから」とキッパリ言い放っていたが、限界は誰にでもあるもの。壊れる前に、ネスが行動を起こし、他人に頼った方がいいだろう。

潔のいる部屋なら、医師がすぐに駆け付けられる設備が整っているし、必要な物も揃っているため、アンリがわざわざ届けに来る必要も無い。それなら…と、ネスは潔の居る部屋に移動することを決断したのだ。

準備はアンリがしてくれることになった。最初のうちはネスも手伝えるくらいだったが、常に涙で視界がぼやけているため、転んだら危ないだろう、とアンリが引き受けてくれたのだ。

ネスの涙は、ほぼ止まらなくなっていた。それ程までに、病状が悪化していたのだ。ステージ数は何なのだろうか。気になるが、この部屋に医者が来るまで結構な時間が必要なので(許可や移動時間 含)、すぐに診察は行われなかった。それに、どうせ移動するなら、移動後に診てもらいたい。とネスが言ったため、診察は後回しになった。

留めなく溢れ、水分を奪っていく涙。傍から見れば星のように輝いていて綺麗に見えるかもしれないが、星は本来燃えているから明るく輝いて見えるものであり、ネスの体には害しか無かったのだ。

移動してすぐ、医者に診てもらったが、ステージⅢ。既に危険なラインを越えているという。今更 進行を止める薬を処方してももう助からないだろうと言われた。仕方なかった。

カイザーを起こせなくなったあの日から、僕の中では時計が進み始めていた。死への時計が。例え結ばれたとしても、心に刻まれた傷も、火傷し続けている体も、もう元には戻らないと分かっていた気がする。

涙を抑えれば抑えるほど、目に火が付いたような痛みが走り、喉や鼻が焼けるような感覚に陥り、身体中が炎の近くにいるように熱くなった。痛くて痛くて、痛すぎて声が出ないほどだった。

本当はもっと早く伝える予定だった。でも、カイザーの隣でサッカーを続けたいと、カイザーのシュートを目に焼き付けておきたいと、試合に出るたび、カイザーの隣で走りたくて、カイザーにパスを出したくて…そんな欲が抑えられなくなり、随分と長引いた結果がこれだ。

カイザーはとっくにネスの気持ちに気付いているはずだ。それでも、ネスに何も言わない。ネスの恋は初めから終わっていたのだと、勝手に思っておくことにする。本当はもっと一緒に居たかったけど…最後に顔くらい見ておきたかったけど…貴方の幸せを、あの部屋から、誰よりも祈ることにします。

そのうち目が燃え尽き、見えなくなったとしても…この体が焼き切れて、一目で僕だと分からなくなったとしても…心臓が燃え尽き、感情を失って、この恋が分からなくなっても、魂まで焼き疲れて、貴方だけを残して昇って逝くことになっても

どこに居て 何が起きて どうなろうとも、僕は貴方の幸せを誰よりも祈ります。祈る手がなくても手を合わせます。口が無くても 神に死に物狂いで訴えるでしょう。貴方が幸せになるのなら…


それが僕の……本望ですから─────



病室に来て、僅か二週間。急激に病状が悪化、

残ったのは…星のように輝く、1粒の涙だったという。




アレクシス・ネス 永眠 十九歳 死因:星涙病による焼滅

〈Alexis nes ewiger Schlaf 19 Jahre alt Todesursache: Aussterben durch Sternentränenkrankheit〉”ドイツ語”



Kaiser, ich liebe dich Bitte sei glücklich

(カイザー、愛しています。幸せになって下さいね)



潔side


ネスが居なくなったこの病室で、俺は未だ…何も出来ずにいる。運ばれてくる食事も満足に食べられず、水を少量飲むだけの生活になってしまった。ネスを抱き締めたあの感覚は、まだ残っている。ネスの中には熱があった。話を聞く限り、体温が高いのは星涙病を患っている患者の特徴なのだという。

ネスはほんとうに参っていたようで、必要以上に体を動かさなかった。というか、動かせなかったんだと思う。虚ろな目で天井を眺め続けるネスに、俺は毎日会いに行った。

カーテン越しに聞こえるのは、オルゴールのような涙が零れ落ちる音。

カランカラン…コロ…

まるで、起き上がりこぼしで遊んでいる子供が向こう側にいるようだった。少し落ち着く、オルゴールのような音。その音がしてる間は、ネスが泣いていて、苦しんでいる時間なのだ。それを分かっていながらも声を掛けなかったのは、ネスが望まないからである。俺なりの優しさでもある。

寿命が刻一刻と近付く二人の仲に芽生えたのは、一つの茎である

似たもの同士が絡み、仮初の絆という名が付いた茎ではなく、最期を迎えるまでの穏やかな時間という名の付いた茎だ。それを先に折ったのはネスで、世一は残った茎を庇うように布団の中で包まり続けている。

もう壊したくないんだ。昇るまで、この茎を守るんだ。昇る時、持って行って、また二人で育てるんだ。

そんな意思が、世一の中にはあった。今まで互いを罵り合うだけの、歪な関係を結んでいた二人の中に、友情が芽生えたのだ。それらの種が伸ばした茎を簡単に折れるのが嫌だった。まだ繋がっていたかった。

隣にはもう、誰もいない。温もりもない。涙の音も、微笑みかけてくれる存在もない。本当に一人、置いてかれてしまったのだ。

「クソ世一…僕は、待ちませんからね」

と最後まで生意気だった儚い存在を、こんなにも求める日が来るだなんて思いもしなかった。余分な水分を吸い上げ、今にも枯れそうな小さな花を吐き出し、ベッドに添える。

こいつらさえ出てこなければ、良かったのに…なぁ……

と、黒百合を吐き出す。これは呪いだ。白銀の百合は出てこなかった。それが運命。それが現実。

黒百合を食べる。自身の体に、呪縛を植え付ける。

これでやっと……

「バカ世一。早く行きますよ!じゃないと置いていきますからね!!」

あぁ、一人にしないで…行かないで、遠い遠い近い存在に手を伸ばすと、触れた。

嗚呼暖かい。

陽だまりのような温かさだ。



そこに居るんだね、世界で一番美しいお星様



「ネス、迎えに来たよ」



そう言って、白銀の百合を差し出した。


「僕もですよ、世一」


ネスの涙は止まっていた。










カランコロン























Auf Wiedersehen ─ <さようなら>

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