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エレベーターが一階まで降りてくるまで、後ろが気になって仕方なかった。
もし追いかけてこられて、何階で降りるのかを見られたら。
考えただけで怖くて、姿が消えるわけでもないのに、息を止めてしまった。
カモフラージュで十二階で一度エレベーターを止め、十五階で降りた時には、ずっしりと体が重くなっていた。
会社の中まで行くと、座っていた桶川さんが待ちかねたように身を乗り出してきた。
「遅いぞぉ、高井戸……ってどうした?」
綺麗な顔。
目の保養であるその顔は、ドキドキするもののはずなのに、今の私には、何よりも安心できるものだった。
「すみません。……弁当の袋、落としてしまいました」
ちゃんと輪ゴムで止められていたから食べられないような惨状にはなっていない。でも、おかずが仕切りを超えて混ざってしまっていた。私は食べられるけど、とても桶川さんには渡せない。
「何やってんだよ。見せてみろ。あー、ぐっちゃぐちゃだな」
あははと笑う桶川さんの声で、少しずつ地に足がついてくる感じだ。
大丈夫、森上さんは追ってきていない。気をつけれいればもう会わずにすむはず。
落ちつくのよ私。
「そ、そうなんですよ。やっちゃった! 代金払いますから、桶川さん外で食べてきてくださいよ」
笑顔を作れていると思う。
大丈夫だ、私。普通に話せている。動揺してなんていない。
拳をしっかり握りしめて、浅く呼吸を繰り返した。
と、桶川さんのほうからパチンと割り箸を割る音がした。
「うまいうまい。いいからお前も座って食えよ。こっちが落ち着かねぇ」
「え?」
「お、スープもあるんじゃん。おー泡立ってる」
桶川さんは、ぐちゃぐちゃになったお弁当を次々口に入れていく。そして立ち尽くしている私の手を、強く引っ張って座らせた。
「気にすんなって。別に弁当落としたくらいで怒ったりしねーよ」
器用に割り箸を操る長い指、ごはんとハンバーグソースが混ざったものを、大口を開けて放り込む。ぐっちゃぐちゃのお弁当なんて、こんなハイスペックな人には似合わないのに。
「……うっ」
「高井戸?」
「なんでもないです。食べますっ」
やばい。うっかり泣いてしまいそうだ。
でも会社で泣くような情けないことはしたくないから、必死に歯を食いしばった。
たかがストーカー男の再来なんかで泣くもんか。
強くなるんだ。
ただでさえ、見た目はどうにもならない豆狸なんだから、せめて中身くらいは、強くていい女になりたい。
コメント
1件
もう、桶川さんが良すぎてやばい……!😭💕💕 主人公が森上さんから必死で逃げて、エレベーターの中で息止めるシーン、こっちまでドキドキしたよ…。でもそんな不安が、桶川さんの「気にすんなって」の一言と、ぐちゃぐちゃ弁当を美味しそうに食べる姿で全部ほどけていく感じ、泣ける…。ハイスペックなのに優しさが滲み出てるのがエモすぎるんだが!? 最後の「豆狸だけど中身は強くなりたい」って決意も、めっちゃ共感。こっちまで応援したくなる…! この二人の距離、早く縮まれ〜!!🌸✨