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卒業式の日は、やけに天気がよかった。
体育館に並ぶ三年生の中で、葛葉は落ち着かないまま座っていた。
式辞も校歌も、正直ほとんど頭に入ってこない。
(終わるなよ)
そんなこと、無理なのに。
式が終わり、校舎に戻ると、あちこちで笑い声と泣き声が混じる。
葛葉は適当に相手をして、誰にも気づかれないように生徒会室へ向かった。
ドアを開けると、そこにはもうローレンがいた。
「……早いな」
「くっさんが来ると思ってた」
相変わらずの即答。
ネクタイをきちんと締めた二年生の制服姿が、やけに大人っぽく見える。
「卒業おめでと」
「ありがと」
一瞬、沈黙が落ちる。
もう“先輩”って呼ばれなくなることが、胸に刺さる。
「なあ、ローレン」
「なに」
「俺さ」
言葉が詰まる。
こんなに簡単なはずのことなのに。
「卒業したら、ちゃんと来るから」
「うん」
「逃げないし、忘れないし」
「……うん」
ローレンは、少しだけ唇を噛んだ。
「俺さ」
「ん」
「ずっと我慢してた」
低い声が、静かな部屋に響く。
「先輩だからって」
「……」
「くっさんが卒業するまで、踏み込まないように」
葛葉は目を見開く。
「ローレン」
「でも、もういいよな」
一歩、距離が縮まる。
「俺、葛葉のこと好き」
「……」
「後輩とか関係なく」
胸がいっぱいになって、言葉が遅れる。
葛葉は、苦笑しながら頭を掻いた。
「さっきまでさ」
「うん」
「振られたらどうしよって考えてた」
「……マジで?」
ローレンは目を丸くする。
「俺のほうが怖かったんだけど」
「だってローレン、余裕そうじゃん」
「余裕なわけない」
そう言って、ローレンは葛葉の制服の袖を掴んだ。
「いざくっさんがいなくなるって考えたら…」
「……」
「ずっと不安だった」
葛葉は、その手を包み込む。
「ローレン」
「なに」
「俺も好き」
はっきり言うと、少しだけ世界が静かになった。
「だからさ」
「… うん」
「卒業しても、隣いさせろ」
「……っ、当たり前だろ」
ローレンは、ようやく笑った。
安心したみたいな、少し泣きそうな顔で。
窓の外では、桜の蕾が膨らみ始めている。
先輩と後輩だった時間は終わった。
でも二人の関係は、ここから始まる。