テラーノベル
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<Collar>(カラー)
DomからSubに贈られる首輪。関係成立時に渡される。周囲にパートナーの有無を知らせる効果もある。種類は様々あり、本物の首輪からチョーカー、ペンダント類など多種多様である。
若井side
ツアー初日の前夜。スタジオの空気は熱と疲労で満ちていたけど、それよりも胸を締めつけるのは、プレッシャーだった。
「お疲れさまでーす!」
スタッフたちの声が飛び交う中、俺はアンプの影に腰を下ろし、ギターを抱いたまま小さく呼吸を繰り返していた。
発作ってほどじゃない。けど、ギリギリだ。
ツアーが始まる、明日から。たくさんの人の前に立つ。
音を鳴らすのは好き。でも、俺の中にはいつだって、“それ”がある。
Subであること。
メンバーにも、スタッフにも、もう隠してない。
みんな理解があるし、「気にしないでね」と言ってくれる。
だけど、ファンには言えない。
この首の奥底に渦巻く衝動や、支配を求める感覚を、誰にも知られたくないと思ってしまう自分がいる。
「……はあ」
目を閉じて、頭を壁に預けた。
ひとりになる時間は必要だけど、長くいると逆に沈んでいく。
「若井、ここにいた」
声をかけられて、反射的に顔を上げた。
元貴だった。手にタオルと水のボトルを持っている。
「汗、すごかったでしょ? ほら」
「……ありがと。ごめん、ちょっとだけ休ませて」
「うん。無理しないでいいよ」
静かなその声に、胸がすっと軽くなった。
元貴は俺のSub性を一番近くで知っていて、それでも変わらずに接してくれる。
ただ守るんじゃない。ちゃんと、見てくれている。触れてくれている。
「……正直、ちょっと怖いんだ」
言葉が口からこぼれたのは、たぶん無意識だった。
「ファンの前に立つの、久しぶりでさ。ツアーでまた“求められる側”に戻るっていうか……」
「若井は、若井のままでいていいんだよ?」
すっと差し出された手が、俺の頭に触れた。
「Subだからって、何かになろうとしなくていい。“俺のSub”でいてくれるなら、それで充分でしょ?」
優しく、けれど確かな支配力を帯びたその言葉に、呼吸がしやすくなる。
頷こうとした瞬間、控えめなノック音がした。
「元貴さん、若井さん。お時間、もう少しもらっていいですか? 二人にしておきます」
マネージャーの声。
元貴が「ありがとう」と言うと、ドアが閉まり、静かな空間が戻ってきた。
俺は、あらためてその意味を噛みしめた。
——周りは、全部知ってる。わかってくれてる。
なのに、俺はどこか、まだ自分を許せてなかった。
そんな俺に、元貴はそっと、小さな黒いケースを差し出した。
「これ、タイミングぜったい変だけど、渡してもいい?」
一瞬で、心臓が跳ねた。
「……それ、」
「うん。Collar。若井のために、ずっと用意してたんだよ」
見た瞬間、胸がいっぱいになった。
黒い革の、シンプルで細いチョーカー。
金具の裏には、見覚えのあるイニシャルが小さく刻まれていた——「M」。
「ほんとはもっと後の予定だったけど……今の若井なら、ちゃんと受け取れると思ったから」
「元貴……」
涙がにじんだ。自分でも、驚くほど早く。
「まだつけるとは言ってないけど?」
元貴がふっと笑う。その優しさに、俺は頭を下げた。
「……つけたい。ちゃんと、元貴のSubになりたい。正式に」
「そっか。うれしい」
元貴はそっと、ケースからCollarを取り出した。
「自分でつける?」
「できない。……緊張して、手動かない」
「じゃあ、俺がつけてあげる」
震える喉元に、革の感触が触れた。
金具がカチッと留まる。その音が、俺の全身を包み込む。
もう、何も怖くなかった。
「これで、正式に。若井はおれのSub」
その言葉に、涙が止まらなくなった。
「ごめッ…うれしくて、泣いちゃう」
「いいよ。泣いていいんだよ。だってこれは_」
元貴は、俺の耳元でそっと囁いた。
「……おれからの、愛情の証だから」
その一言で、完全に崩れた。
俺は声も出せないまま、肩を震わせて泣いた。
泣いて、笑って、また泣いて。
ずっと欲しかったものを、今ようやく受け取った。
俺は、元貴のSubだ。
誰にも見せられない首元のこの印が、そのすべてを物語ってくれる。
たとえファンには言えなくても。
この関係が、音になって伝わるなら、それでいい。
元貴の前だけで泣ける自分が、今は少しだけ誇らしかった。
—
明日のステージ。
俺は、元貴のCollarをつけて、ギターを鳴らす。
そしてその音の中で、
“守られている安心”と、“つながっている証”を、
誰にも気づかれずに、静かに抱きしめ続ける。
すっげぇ真面目でしたね今回!!!!!
いやぁほんと、自分で書いててすごいキュンキュンしてました👏
コメント
2件
うわわわわわ///最高です!!もうほんとに口角どこいったって感じで、、幸せな若井さんから奏でられる音は、さぞ美しい幸せな音色なんだろうなって、、 ライブ中でもお互いを感じられるとか、、素敵です✨️