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オーナーとの約束の時間になった。

私は美容院までマンションから向かい、悠人は仕事先からスーツ姿で直接来てくれた。



「ごめんね。わざわざ悠人に来てもらって……」



「当たり前のことだろ」



この人……本当にモデルになった方がいい。私服もオシャレだけど、タイトなスーツが悠人の持つ大人の男性の魅力を最大限に引き出している。



「かっこいい……」



最強過ぎるその姿に、思わず小声でつぶやく。



「ん?」



「う、ううん、なんでもない」



慌てて私は先に店に入った。

そこには、私がアシスタントの頃からお世話になっているオーナーが待っていてくれた。

ご主人を亡くしてから小さな店を切り盛りしてきた優しくて元気な、私にとっては2人目のお母さんみたいな人。小柄で丸々した可愛らしい雰囲気に癒される。



「よく来てくれましたね。こんな店にわざわざすみません」



オーナーは、いつもより少し丁寧な言葉遣いで緊張気味だった。



「今日はこうやってお話しさせて頂く機会を与えて下さり、本当にありがとうございます。私は月城 悠人と申します」



名刺を差し出す悠人。



「ありがとうございます。本当にイケメンさんね~。月城さんのことはよく存じ上げています。美容師の間では、あなたはちょっとした伝説ですから。若くして人気のトップスタイリストとして活躍しながら、お店も何店舗もお持ちで。しかも、あの月城グループの御曹司ですもんね」



「それは言い過ぎです。私など、この温かいお店を経営されている浅田さんには……まだまだ及びません」



「あらまあ~月城さん、お上手ね。でも、こんなイケメンにそんなこと言われたら、やっぱり嬉しいわね。穂乃果ちゃん、良かったじゃないの。これからは、月城さんにしっかり指導してもらいなさい」



「え?   オーナーどうして?」



私は、まだお店を変わることを何も言ってなかった。オーナーには全部わかってるの?



「ヘッドハンティングでしょ。わざわざ超一流のカリスマ美容師さんが、うちなんかに来てくれるなんて申し訳ないわ。でも、穂乃果ちゃん。あなたを認めて下さる人がいて本当に良かったわね。ここにいるより、ずっと立派な美容師に成長できるチャンスなんだから頑張るんだよ」



「オーナー……すみません。本当にありがとうございます」



温かい言葉と優しい笑顔に泣きそうになる。オーナーには今までものすごくお世話になったから。



「本当に突然申し訳ありません。ヘッドハンティングというか、実は、私は穂乃果さんとお付き合いさせていただいております。いつかは結婚をと思っていますので、今から月城グループの仕事に関わっておいてもらいたくて」



「あら!   まあ、そんな。驚いたわ~」



悠人、それは……嘘だよ。



「穂乃果。浅田さんにはキチンとお伝えするべきだよ」



「あ、あ、あの……」



付き合ってるとか、結婚とか、私はまだ何の答えも出してないのに……

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