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その頃、蒼央はというと、
「西園寺くん」
「ああ、佐伯さん。どうも」
千鶴をスカウトした事務所の社長、佐伯が撮影の様子を聞きに蒼央の元を訪れていた。
「うちの千鶴はどうだったかね?」
「彼女、なかなかの才能を持ってますよ」
「やはりそうか。千鶴は私が直々にスカウトしたんだよ。地方に出掛けた時、偶然街で見掛けてね」
「流石佐伯さんっすね」
「ありがとう。それで、使えそうな写真はあったかな?」
「ええ、まあ、それなりに。この辺りは、結構良い出来かと」
そう言ってカメラを操作した蒼央は佐伯に何枚かの写真を見せる。
「おお、これなんかいいね。宣伝用に使わせて貰おうか」
「分かりました」
「やっぱり、君に頼んで良かったよ、西園寺くん」
「こちらこそ、声を掛けていただいて有難いです」
佐伯は業界では名が知れているやり手な男だ。
蒼央は駆け出しの頃に佐伯から能力を買われて以降、佐伯の事務所のモデルを一度は必ず撮っている。
しかし、二度目には繋がらない。
事務所としても、二度目以降も蒼央に撮って貰いたいのだが、蒼央とモデルの相性が合わないようでなかなかに難しい。
「……佐伯さん」
「何だい?」
「お願いがあります」
ひと通りの話を終え、佐伯が蒼央の元を離れようとした時、蒼央は佐伯を呼び止めてこう言った。「俺にもう一度、遊佐を撮らせてください」と。
「驚いたなぁ、君の方からそんなことを言うなんて」
蒼央の言葉に、佐伯は心底驚いていた。
それもそのはず、これまで何人かのモデルが厳しい蒼央相手にもう一度撮って欲しいと頼んで来たこともあって佐伯が直々に願い出ても、話し合いの末、蒼央の方が首を縦に振らなかったのだから。
それなのに、蒼央が頭を下げてまで千鶴を撮らせて欲しいと言うなんて、余程のことだと佐伯は思った。
「いや、私としては嬉しい限りだよ。千鶴の方も、恐らく問題ないだろう。マネージャーから特に連絡も受けてないからね」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、詳しい話はまた追って連絡するよ」
「はい、お待ちしております」
頭を下げて佐伯を見送った蒼央の表情はとても満足そうで、今の彼を見れば、【冷徹無比】などと噂されていることが嘘のように思うのではというくらい、喜びの表情が表れていた。
それから数日後、
「え? もう一度、西園寺さんに撮って貰えるんですか?」
「ああ、そうなんだ」
佐伯に呼び出された千鶴はレッスンを終えた後で事務所へやって来ると、彼の方からもう一度写真を撮りたいと言っていたことを告げられた。
「嬉しいです! 是非お願いします!」
「そうか、それならば早速西園寺くんに連絡をしておこう。それと、これを見たまえ」
佐伯は机の引き出しから一枚の写真を取り出すと、それを見るよう千鶴に言う。
「これ……」
「この前西園寺くんが撮った千鶴の写真だ。よく撮れているだろう? お前の良さが全面に表れている、実に良い写真だ」
先日蒼央が写した千鶴の写真は、誰が見ても一目で良いものだと分かるくらい出来が良かった。