しかも、これが初めての撮影で撮られたものだとは誰も思わないくらいに楽しそうで、見ている者を元気にしてくれる、そんな写真だった。
「これは千鶴の宣伝用の写真だ。この写真なら、すぐにでも仕事が舞い込んで来るだろうな」
「そ、そうですかね? だとすれば、西園寺さんのおかげですね!」
「ほう? それは何故だい?」
「初めは少し戸惑ったけど、すぐに慣れることが出来たし、何よりも西園寺さんに撮られている時、凄く楽しかったんです」
「ふむ、彼に撮られてそう思える千鶴は凄いと思うよ」
「それ、倉木さんにも言われましたけど、そんなに凄いことなんですか?」
「ああ、勿論。うちの事務所では千鶴が初めてだ。いや、他の事務所でもなかなかそういった話は聞かないよ。だから、もし西園寺くんが千鶴を気に入ったという話が広まれば、お前の知名度は瞬く間に上がって必ず売れるだろうな」
「そ、そんな……」
「西園寺くんに気に入られるということはそれだけ影響力のあることなんだよ」
「そう、なんですね……。それだけ凄い方に……」
「千鶴、存分に頑張ってくれ。お前はうちの事務所期待の新星なんだからね」
「はい、お役に立てるよう、一生懸命頑張ります!」
こうして、もう一度蒼央に撮って貰えることになった千鶴は撮影日を今か今かと待ち望みながら、日々のレッスンをこなしていった。
それから約一週間後、千鶴が再び蒼央に撮影して貰える日がやって来た。
しかも、今回はスタジオを貸し切って蒼央が個人的に行う撮影とあって、スタッフやスタイリストなどは一人も居らず、スタジオ内に居るのは蒼央と千鶴と倉木の三人だけ。
「あの、本当に、こんな普段着でいいんでしょうか?」
「構わない」
「はあ……」
蒼央に言われ、私服でお気に入りの白地に小花柄のワンピースを着て軽くメイクをして来た千鶴は、プロのカメラマンが写真を撮るのにこんなに普通の格好や地味なメイクでいいのか不思議で仕方が無かった。
「倉木さん、悪いが撮影の間は遊佐と二人きりにして欲しい。今日はあくまでもプライベートな撮影なんで、他人に邪魔されず、気兼ねなく撮りたいんだ」
撮影準備を整えた蒼央は、端に控えていた倉木に千鶴と二人きりにして欲しいと願い出る。
「いや、しかし……」
いくら蒼央がプロのカメラマンと言えど、大切なモデル一人を異性の居る密室に残していくことは憚られる。
けれど、そんな倉木の心配をよそに千鶴が、
「倉木さん、私は大丈夫ですから、西園寺さんの言う通りにお願いします」
蒼央の申し出を素直に受けるよう頼み込んだことによって、
「……分かったよ。それじゃあ近くで待っているから、撮影が終わったら呼んでくれ」
倉木は納得せざるを得なくなり、後ろ髪引かれる思いでスタジオを出て行った。
「では、早速始めるぞ」
「はい! よろしくお願いします!」
広いスタジオ内に二人きり。
意識してしまうと何だか集中出来なくなりそうに思った千鶴は一旦目を閉じて深呼吸をする。
「遊佐、この前みたいにお前が思うように自分をアピールしてみてくれ」
そして、蒼央に声を掛けられた千鶴は閉じていた目を開くと、表情を次々に変えながら、それに合わせてポージングを取っていく。