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奇蹟あい
2,184
#勘違い
かませ犬S
455
#男主人公
パラレル・ゲーマー
173
にとり
1
俺が高い塀を越えて逃げ出した先は…
見慣れぬ土地…
小さな川沿いには道具屋のようなカンカンという金属を叩く音が聞こえ、遠くには湿ったような農村が広がっている。
「な、なんだここは?」
「ここは目黒という場所だ。逃げ出したのは三田火薬庫と呼ばれる陸軍技術審査部だよ。」
「は?」
「桜花、新橋へ行くんだ、東だ」
抱いたままの博士が俺に命令する。
「巫山戯るな自分で歩け!」
追手がいないことを確認すると、その場に博士を放り投げた。
「グフォ」
カエルが潰れたような声を出してもんどり打っている。
「ここは、どこだ、俺の身体はどうなっている」
俺は博士の胸ぐらを掴むと力任せに揺すった。
「答える。説明するから、そ、その手を離してくれ桜花、ステイ」
「グゥ」
(…クソッ、身体が動かない)
博士は口元の血をハンカチで拭うと、白い薄手のコート?を脱いで俺に渡した。
「この白衣を着なさい」
俺の意思ではない何かが俺を動かし、シーツを外し白衣を身に着ける。
「僕の名前は石動隼人という。君の身体は私の造った、ホムンクルス…人造生命体だ。桜花という」
桜花という名前を言うときに、辛そうな表情を見せる。
「……」
「ああ、そうか、ステイ解除、三原則モード、撫子モード起動」
俺に自由が戻った。
「それが、私にどのような関係があるのですか?」
(あ、あれ?口調が…)
「君の魂を、桜花さんに入れさせて貰った」
「な、なんていうことをなさるんですか、私は、もう死を望んでいたのですよ」
(あ、あれれ?)
俺は、石動の胸ぐらを再び掴もうとするが…
(か、体が動かない)
「あぅ…うぅうぐ」
俺は口元を押さえる、猛烈な吐き気と頭痛が襲ってきた。
「桜花さん無理だよ、三原則モードを起動した、私には攻撃やそれに類することはできないよ」
(なんだと!)
「ここは三田火薬庫が近い。先ずは新橋に向かおう」
そう言うと石動は歩き出した。
俺の足が勝手に石動の後を追うのでついて行くしかなかった。
白衣を合わせただけ、裾から覗く生足が艶めかしく映る。
…
(イヤイヤ。自分の脚だぞ、いや俺のじゃない、でも俺のなのか?)
なんで、こんな目に俺は合っているんだ?
長閑な田園が街並みに変わる。
木や紙でできた建物が続いたかと思うと、見慣れた石造りの建物が増えてきた。
(紙の家って何なんだ)
白金、麻布、虎ノ門、日比谷と石動のいうままに進む。
高い建物が少なく空が近いが、起伏が多い。
結構大きな街のようだ。
路面には見たこともない、馬のいない馬車が人を飲み込んで行き交っている。
(どうなっているんだあれは、奇妙な嘶きだし…)
クンクン
とても嫌な匂いだ…
「隼人様、こちらはどこですか…」
(だから俺はこんなしゃべりかたしないって)
「ここは銀座という、大正に入って最も象徴的な場所だよ」
(何を言っているのか全く意味が解らない)
ん?
何やら街の視線が俺に集まってないか?
…若い女が、裸足に薄手の白いコート、しかも石動の鼻血が付いてるしな…
当然か。
「このままでは不味いな。官警が来てしまう」
石動は押せの姿を見るとそういった。
「官警ですか?」
「街の治安を守ってる連中だが…」
「治安を守られている方のことなのですね」
「権力を傘に着た、やたらと威圧的で恣意的な連中なんだ」
(ああ、いるいるそういう奴ら)
大きな建物の前に差し掛かった。
ガラス窓から見える屋内には色とりどりの服が飾られている。
「桜花さん、ついて来てくれ」
石動はそう言うと、建物の中に入った。
オーダーメイド専門の洋品店で、店員の身なり仕草から高級な店だというのがわかる。
店員が「いらしゃいませ」といい終わるまえに、石動は店頭に飾られた等身大の衣裳人形を差してあれを貰うと言いだした。
店員は「お客様、あちらのお品はサンプル品でして、売り物でありません」と説明するが、石動は頑として聞き入れなかった。「せめてお直し」をと言う店員だったが、俺の身体に合わせたようなサイズで、直す必要がまったくなかった。
「当然だ」と石動は俺に言った。
(そ、そうなのか?)
ただ、着替えるときに手伝ってくれた店員は、俺の顔を見て驚き、格好を見て驚き、更に白衣の下に何も着ていないことに驚いていた。
「犯罪ですか?」
「…いえ違います」
心配して聞いてくれた店員に、俺の口は勝手に答えていた。
店員が俺の顔を見て驚いていたが、俺も同じだった。
姿見に移った俺の顔は、均整の取れた目鼻立ち、切れ長だが愛嬌のある目、桜色の唇、長いまつ毛、サラサラの長い黒髪。怖いほどの美しさだった。
「お客様?」
「はい」
店員の声に驚く、自身の顔に目を奪われていたようだった。
白く染み一つない瑞々しい肢体、スタイルも、誇張した作りのはずの衣裳人形の着ていた服を直すこと無く着れるのだ、推して知るべしだろう。
裸も…当然見たが(…着替えるなんだからしかたないだろ)恥ずかしいという感情も欲情も不思議と湧かなかった、芸術品を見て欲情はしない、しない…たぶんしない、そんな感じだ。だが、しかし、やはりというか男の尊厳はガリガリと削れていく…
「御髪も整えましょう」
店員はそういって俺を椅子に座らせると髪を解き始めた。
「サービスですといって、大きなピンクのリボンを、サイドの髪を後ろに束ねて付けてくれた。
全てが終わり、石動の前に出ると。
「ほぅ……」といって
ハイネックのレースの多い、白いワンピースを纏った俺を、ふわりとスカートが浮き上がるように一回転させられた。
(おい石動!)
ガリガリ削れるから止めてくれ…
着替えて、身なりを整えたが…
街で行きかう人々の視線は増えた気がする…
「桜花さんの姿なのだから、視線を集めるのは仕方ないか…」
困っているというより、嬉しそうに石動はそういった。
石動の指示に従い、言われるがまま、新橋より8620形蒸気機関車に乗り込む。
(なんだこの乗り物は!)
金属と木の塊で、道で見かけた馬のいない馬車の親分のような乗り物だが。嫌な匂いは少ないが金属の焼けた匂いと煙が凄まじい。
ここの連中は、神の家に住むくせに、こんなものを造る技術があるのかと感心する。
いや、俺は夢でも見ているかもしれない…
「隼人様、お話しいただけますか?」
席に座ると俺は石動に話を聞くことにした。
(この口調は撫子モードというもののせいらしい…ふ・ざ・け・ろ!)
「君は…僕の姉の姿を模したホムンクルスだ」
「ホムンクルスですか?」
「錬金術による人工生命体だ。普通に造ると魂のない肉人形だ」
(俺の知識にも相当する錬金術があったな…だが、決して魂が宿らなかったはずだ…)
「僕は召喚…神降ろしを司る神職の傍流でね、西洋の錬金術と掛けあわせたんだ…」
「それは、素晴らしいですね隼人様」
(俺はそれに巻き込まれたというのか!)
「そうだろう、そうだろう。もっと褒めていいぞ」
「流石です。尊敬致します」
(ちくしょう!ちくしょう!)
「この国?世界のことをお教えいただけませんか?」
これ以上褒めたくない。やるせなさすぎる。俺は一旦話題を変えることにする。
「……この国、世界か?」
おや?いい淀んだ?
「この国の年号で言うと大正三年、西暦…世界標準みたいな年号で1914年だ。
世界は大きな戦争に向かっているところだ」
石動は泣きそうな目で俺を見つめる。
「戦争ですか?人と人が争われる」
「そうだ。日本も巻き込まれる、いや世界中の国が巻き込まれる戦争だ」
「……悲しくも平和な話ですね」
「平和?平和だって桜花。人と人が戦い多くの人間が死ぬんだぞ、この話のどこに平和という言葉が出る要素があるんだ?」
石動の語気が荒くなる。
だが、俺にとっては…
「申し訳ありません。ですが、外敵による埒外との戦いでなければ種として滅びる戦いにはなりません。外敵がいないから人同士で争う事もできるのです。平和な思考でなければそんなことは考えもしないでしょう」
「…君は…君はそういう世界から来たのか…」
「私の世界は外敵により滅びました」
「……」
石動は言葉を失った。
「失礼いたしました。人と人が争い、血を流すのは悲しいことです…とても」
俺は車窓に視線を移す。
高速で流れる景色には、人の営みも見える。笑い泣く人の営みを俺は守りたかった…
「これから行かれるところや、何か目的はおありなのですか?」
「台湾に渡る、そして桜花の姉妹を助けたい」
(姉妹?)
台湾?へは神戸?というところから基隆?へ向かうらしい。
(地名でいわれても俺は解らんぞ…)
三ノ宮?で 下車すると、居留地という俺の世界にあるような建物が並ぶ通りを進んだ。
ここでも人の注目を集めている、「桜花さん。これで顔を隠してください」といってつばの広い帽子を俺に被せる。石動は帽子屋に寄って購入したみたいだ。
「隼人さん。ありがとうございます」
(俺としても男の視線などゴメン被るので、これはありがたかった)
メリケン波止場に着くと小型のボートに乗せられる…
「こんな小さなボートで台湾へ渡るのですか」
「ハハハハ、桜花さん違いますよ」
俺がそう聞くと、石動は笑って、錨泊している大きな船を指さした。
(う、大きい…)
連絡船からタラップを昇って、亜米利加丸という豪華客船へ乗船する。
(かー凄いなこれは…)
デッキに出たところで俺は素直に感心した。
そして、感じていた。
俺が目覚めた部屋に現れた連中が、次の連絡船で乗り込んできた気配を…
コメント
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わあ…第2話、一気に世界が広がってびっくりしました!主人公がまさか自分自身の身体を「ホムンクルス」と知らされるところから始まって、しかもその口調が勝手に変わっちゃう「撫子モード」のギャップが面白くて笑っちゃいました。「ちくしょう!ちくしょう!」って心の中で叫んでるのが痛いほど伝わってきて…。でも最後、デッキで追手の気配を感じるシーンでゾクッとしました。これからどうなるんだろう、続きがすごく気になります!🌸