テラーノベル
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時は神代。
猛き竜に神は乞うた。
「竜よ、偉大なる竜よ。この不毛な岩の塊で、望郷の方舟を作りたもうてはくれまいか」
竜は返す。
「楽園にある生命の実、そしてそなたの貌と交換ぞ」
神は必ずと誓った。
竜の吐き出す濁流は海となり雨となり大気となって、青い地平線を生み出した。
腕の一振は大岩を弾き飛ばして山となる。
もう一振は大地を砕き島となる。
足跡は湖となり、尾の轍は川となり谷となる。
最後に命を吐き出して、父なる太陽、母なる月に、遍く星々を暗闇の彼方へ飾った。
小さくなった竜は問う。
「汝願いし望郷の方舟ぞ。さあ約束を果たしてもらおう」
神は返す。
「貌はこの子に与えたり。生命の実なれば、あの木に登って得るが良い」
神は嗤って、誓いを破った。
星を作った竜の命は幾許もなければ、怒る暇もなし。
神が指さす大樹を、ただひたすらに駆け上る。
大樹の皮はとても硬く、力無き竜の爪を飛ばし、鱗と肉と骨を削る。
それでも竜は駆け上る。
生命の実を目前に、手足はすっかり消えていた。
『ウッ、うえぇッ……もうのめないよぉ…血も抜かれたのに、やめてよぉ……うっ、うぅ…』
「レンジー、人狼の間の責任は全てアナタにあるのですよ」
『た、確かにそうだけど…でも』
「まだ分かっていないようですね。マートン、吸送魔術式を施した管を使いなさい」
『や、ヤダ!やめ…ンッ!ンンッ!?』
『大魔導師様、装着完了いたしました』
「嗚呼 レンジー、私もこんなことしたくはありません。だからね、苦しいことは早く終わらせてしまいましょう。
それが、アナタにとっての最善です」
永遠の命。
それは頭を潰されても、血を抜かれても、どんなに酷いことをされても、死へ逃げることが許されない呪縛。
『はぁ……僕のご先祖様が騙されなければ、こんな思い、しなくて済んだのになぁ…』
『レンジー、心中はお察ししますが、報告書を書かなかった自分の責任をご先祖さまに擦り付けるのはどうかと思いますよ?』
『ううううっ……ぐうの音も出ないけど、理不尽に人狼の世話を押し付けといてこの仕打ちはまた別問題だよサーティいいいい!!!』
『わわ!正論の使い所を間違えちゃいました!』
ご先祖さまは、神が無垢であってほしいと願った人間をそそのかして知恵の実を食べさせたあと、生き血を啜ることで人に近い姿になり、失った手足も取り戻した。
そのあと、生命の大樹を上る時に散らばった鱗と肉と骨を1つずつ腹に収めて、僕たちを産んだとされている。
セイレーン、メドゥーサ、インプ、ヴァンピール、僕たちの姿形は違えど、人の体液から知恵を得る竜の血筋で、力を奪われてもなお本能に従う人狼の餌食だ。
『でもでも、人の姿に戻れたのは嬉しくないですか?』
『まぁ、それは実際そうなんだけど…でも、人の血ならもっと少量で戻れるのに、不味い馬の血で代用されてもなぁ……どうせなら、フートくんみたいな美青年の血を飲みたいよ』
『それ、ちょっと分かります。フートさんはとても端正なお顔立ちで、目を合わせるのもドキドキしちゃいますよね!あのお2人にはまた明日お会いできますし…はぁ、楽しみぃ!!』
サーティは喜ぶと全身の毛が逆立つ。
大魔導師いわく、狩猟協会と話し合って、あるていど彼らを好き勝手できる権利を手に入れたらしい。
まあ過剰な責任追及はできないんだろうけど。
『ねぇねぇサーティ、大魔導師って、何がしたいのかな?責任を負わせると言っても、僕も表に出ろってのはちょっと不思議なんだよね』
『大魔導師“様”!ですよ!!あのお方は3大欲求より神代の研究がお好きですし、きっと私達には想像もつかないようなことをお考えなのです!』
『ホムンクルスは従順だなぁ…まぁ、彼らと一緒なら人狼に襲われたり、酷い目に合わされることは無いかもね』
明日から、観察班の一員としてあの二人と一緒に行動を共にすることが決まった。
彼ら、というよりも、おじさんのせいで僕は酷い目に遇ったようなものだけど、大魔導師と比べたらぜんぜん嫌いじゃない。
それに、あの1件のおかげで外に出れるようになったと思うと、感謝しかない。
人狼から逃げ回る生活も、光聖冠の実験動物を見るような目からも、大魔導師の無茶苦茶な実験からも逃げられるなら、なんだって良い。
『明日はシィちゃんも一緒ですし、お仕事というより遠足気分ですよー!お弁当もお菓子も持ってかなきゃ!』
『あー、君の弟くんかぁ……あの二人とは反りが合わなさそうだけど?』
『シィちゃんは良い子ですから、心配ご無用!大丈夫ですよー!』
『能天気だねぇ…僕は何もフォローできないから、よろしくたのむよ』
牙も爪も無い吸血鬼にできることなんて無い。
それでも、彼らと過ごした血の通う温もりを味わう為なら、できる限りのことはしよう。
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