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薄曇りの夕空。 ポケットに入れた小さな鍵が、歩くたびにかすかに揺れて、重みを主張してくる。
――なんでこんなに気になるんだろう。
その瞬間、前方から地鳴りのような叫び声が響いた。
「きゃあああああっ!」
「逃げろーっ!!」
交差点は大混乱だった。信号も無視して、人々が四方八方に走り出す。視線を向けた先、巨大な怪物が街路樹を薙ぎ倒し、車を弾き飛ばしていた。
「な、なにあれ!?」
愛梨は後ずさる。足が勝手に震えている。
そのとき――。
ポケットの中の鍵が、ひときわ強く震えた。
直後、耳をつんざくような高い音が響く。
――キィィィィィィン!!
金色とピンク色の光が、まるで羽ばたくように愛梨の身体を包み込んだ。
「な、なんか光った!? う、嘘……これって、まさか――」
視界が一瞬、純白に染まる。
次の瞬間、光は渦を巻きながら空中でスパイラルを描き、愛梨を中心に舞い上がった。
ピンクの輝きが肌に触れたかと思うと、半袖のドレスが形作られ、パフスリーブにフリルがふわりと重なる。
腰元には大きな黄色のリボン。テールが風に揺れ、スカートは白地にピンクのハート柄。裾のフリルがくるりと広がった。
足元にはリボン付きの白い靴下と、艶やかなピンクの靴。
その手には――マイク型の鍵ステッキ。
先端の宝珠はピンクに輝き、その上には金の王冠。中心のハート型宝石が脈打つように光っている。持ち手は鍵の形で、きらびやかな装飾なのに、不思議と温かみがあった。
「わっ……な、なにこれ……!?」
腰が引けたまま、愛梨は視線を怪物に向ける。
――そして、見つけた。
怪物の腹に、不自然なまでに整った形の“鍵穴”が浮かび上がっている。
「……えっ!? あれ……鍵穴……!? ど、どゆこと?? え? え? えーーー!?!?」