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女子高生、色素の薄い長い髪をさわる様子をみせる。
横の髪を耳にかけるふりをして、顔を隠しているのだということは分かった。
その反応に、星歌は早速「シマッタ」と心の中で叫ぶ。
ついつい、首を突っ込んでしまったけれど、自分も彼女にいたたまれない思いをさせていると察したからだ。
「ま、まぁまぁ。私もね、よくやるんだ。踏んづけてズルッって転んじゃったりするんだよ。犬のウン…………エヘンッ!」
慰めようとしたところを、別方向から注がれるジトッとした視線に気づいて、慌てて咳払いで誤魔化す。
パンのケースを持った人物が、闖入者の失言に顔を真っ赤に染めているのが視野に捉えられたからだ。
「まぁ、その……パンだよね。もったいないね」
クリームパンであろうか。
半分は地面に張り付いているものの、残り半分はきれいな形で残っている。
星歌はそれを手にとった。
小さくちぎって躊躇なく口に入れる。
「うん、おいしいよ」
裏口際の台にケースを置いて、職人が急いでこちらに走ってきた。
「そ、そんな……落ちてるものを食べなくても……」
「大丈夫だって! 3秒ルール適用だよ」
落とした食べ物でも三秒以内に拾ったら、衛生面に影響がないというのが星歌の自論だ。
そのパンは明らかに三秒より前に落としたものだと分かるが、気にしたら負けである。
「そ、そのルールは飲食業界では最大のタブー……!」
職人が絶句している。
彼に背を向けて、星歌はようやく身を起こした女子高生に手を差し出した。
「す、すみません……」
俯いてしまっているが、髪の隙間からのぞく耳たぶは真っ赤に染まっている。
オロオロとした様子でゆっくりとこちらを見上げて、彼女は「あっ」と声をあげる。
「白川先生のお姉さん……?」
「えっ、あっ……そうだよ」
そうか、行人の教え子か──星歌が急に目をパチパチ瞬かせたのは、顔をあげた女子高生の放つ透明感にであった。
黒目に影を落とすほど長い睫毛。肌の白さは、頬の際の血管が透けて見えるほど。
まるでお人形のようだ。
同性ながら星歌が息を呑んだのも致し方のないことであろう。
同時に背中を冷たい汗が流れる。